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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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108.善人、腹黒商人のもとへ仕事しに行く 【後編】

前回の続きからです。



 俺は王都に、仕事をしに向かった。


 俺の所属する商業ギルド、銀鳳商会の本部は、王都シェアノにある。


 雪道で時間を取られたが、数時間後には王都に到着。


 商会のバカデカイ建物の中を歩き、やってきたのは社長室。


 テンとともに、社長室へ入る。

 そこには、ひとりの翼人がいた。


「お久しぶりです、社長」


 子供と見まがうほど、小さな女性だ。


 白のスーツに、黒髪と、腰からはやしている黒い翼が実に目立つ。


 キツネのような細長い目をしたその女性。

 名前を【クゥ】という。

 鴉天狗からすてんぐの商人であり、この銀鳳商会の実質的なリーダーだ。


 名義上、俺が社長でも、商会を仕切っているのはクゥなのである。


「今日も良い天気ですね」


 おほほ、とクゥが口元を手で隠しながら、上品に笑う。


「お、おう……」


 若干引く俺。


「どうかしましたか?」


「ああ、いや……。なんか普段とちがくないか、おまえ?」


 ニコニコニコー、と笑うクゥは、いつもと趣が違った。


 まあ普段から(目だけは)笑っているやつなんだが。


「そうでしょうか? うちはいつもこんなものですよ? おほほ」


「……やめてくれ。普通通りで頼む」


 するとクゥは「さよか」と言ってうなずく。


「ジロさん。おはようさん。寒かったやろ? テン、ジロさんに温かいもんだしたって」


「かしこまりました」


 普段の口調に戻るクゥ。


 俺は彼女に勧められ、部屋にしつらえてあったソファに座る。


 対面にクゥが腰を下ろす。


 ややあって、テンがホットコーヒーを入れてくれた。

 

 俺たちはコーヒーを飲んで一息つき、本題に入る。


「それで社長。電話で話していたことなんやけどなっ!」


 ずいっ、とクゥが身を乗り出して言う。


 まぶたが開き……。

 そこには、金色の大きな目玉が入っていた。


 月のような目を、爛々(らんらん)と輝かせながら、クゥが言う。


「除雪パイプ……是非ともどうやって作ったのか教えてくれへんかっ!」


 ついさっき、俺がテンに除雪パイプのことを話した。


 それをテンの分身体を通して、クゥは聞いていたのだ。


「ああ、良いぞ」


「権利はもちろん買わせてもらうで! 今すぐ金貨1万枚なら出せるで!」


 興奮気味に彼女が言う。


「いやいいよ。タダで教えるよ」

「…………」


 俺の答えに、クゥがポカン、と口を開いた。


「い、今なんて?」

「だからタダで教えるよ。俺いちおうここの社員だろ?」


 クゥはわなわな……と唇を震わせる。


「いや……あの……ジロさん? あんた……正気?」


「? 正気だが」


 いきなり何を言うんだろうかこの子は?


 クゥは目を剥きながら言う。


「あんた……あんたこの技術、どんだけ利益を生むか、わかっていってるんか?」


「? いや、わからないが。けど俺はこの商会のいちおうは社長だろ? 社長も商会の一員だ。なら力を貸すのは当たり前だろ」


 たとえお飾りの社長ギルドマスターであっても、社長は社長だ。


 なら商会の利益のため、力を貸すのは当然と思えた。


「それに除雪パイプがよそに設置されたら、旅人や商人たちが、楽に町を行き来できるようになるじゃないか」


 クゥのことだ。

 除雪パイプをすぐにウリに出すだろう。


 クゥがパイプをこの世界中に売れば、そこの世界にいる、雪で困っている人たちのことを助けてやれるからな。


「……ジロさん、あんた、人が良すぎるで」


 ソファに深く腰を下ろしながら、クゥがつぶやく。


「そうか?」


「……そうやで。この技術にアイディアは、莫大な利益を生む。商人にとって冬期の積雪は頭痛の種や。それがこのパイプによって解消される。……誰もがおもうで、ウチんとこにもパイプ設置してくれって」


 そうしてくれればこの国の雪で困っているひとを助けられるし。

 商会に利益を、そしてつとめている社員たちにも益をなすことができる。


 イイコトづくめだった。


「なぁジロさん、知り合いの貴族に、除雪パイプのこと宣伝してもええか?」


「別にかまわないよ」


 営業のことは、営業のプロに任せるのが1番だ。


 俺じゃあこのパイプを流通に乗せることも、この世界の人たちに向けて売ることもできない。


 俺ができるのは作ることだけ。

 売るのはプロであるクゥたちに任せよう


「ほんまありがとな……。近日中に凄いこと起こるとおもうで」


「? まあ、楽しみにしておくよ」


 凄いことってなんだろうか?

 まあよくわからないが、楽しみにしておこう。


 それはさておき。


「それで除雪パイプの作り方、さっそく教えてくれへん?」


 クゥが本題に入る。

 そもそもここへは、除雪パイプの作り方を、クゥに教えに来たのだからな。


「ああ。と言っても別にそんなに難しい構造は取ってないぞ」


 俺は腰につけたマジック袋(【無限収納アイテムボックス】が付与された袋)からノートとボールペンを取り出す。


 ノートに細長い管を書いて、管の上に蛇口をかく。


「まず水道とパイプを用意する。水道は蛇口と水魔法とを複製合成した【マジック蛇口】を用意するんだ」


 俺の複製スキルは、魔法と物体とを同時に作ることで、新しい魔法道具を作ることができる。


 これを【複製合成】という。


 たとえば電化製品と雷魔法とを複製合成すると、電化製品が、電源がなくても動くようになる。


 同様に、蛇口と水魔法とを混ぜ合わせることで、無限に水を生み出す蛇口ができるのだ。


「パイプは鉄を【成形モデリング】の魔法で細長い管にする。その管は左右にこんなふうに穴を空けておくんだ」


「その穴から水がでるんやな?」


 ノートをのぞき込んでた、クゥが尋ねる。

 俺はうなずいて返す。


「そうそう。それでパイプの途中途中に蛇口をセットして、パイプ内に水が絶えず流れてる状態にしておくんだ」


 パイプの穴から、しゃしゃしゃ、と線を引く。

 そこから水が出てる図だ。


「このパイプ鉄なんやろ? 腐らへん?」


「だから【固定化プロテクション】の魔法をかけておくんだ」


 無属性魔法【固定化プロテクション】。

 物体の時間を止めて、劣化を防ぐ魔法だ。

「なるほど、腐食防止になるもんな」


「それでパイプ全体には【加熱ヒーティング】の魔法を付与しておく。これによって、パイプ内の水はお湯になって、そしてこの穴から出て行く。あとはパイプを伸ばせば完了だ」


加熱ヒーティング】は文字通り物を暖める魔法だ。


 パイプに付与することで、物体を暖めるパイプになる。


 パイプ内を水が通過することで、水がお湯になる仕組みだ。


 俺は一通り説明を終える。

 クゥが、


「凄まじく高度な技術使ってるんやな……」


 と感嘆の吐息をつく。


「そうか?」


「そうやで……。忘れてるかも知れへんけど、物体に魔法を付与できる人間はホンマに数少ないんや」


 物体に付与できるのは、【付与術士エンチャンター】というごく一部の人間だけだ。

 しかもできるんは希少種である妖小人ハーフリングのみ。

 できる人間の方が少ないのだ。


「それに多種多様の無属性魔法を1人で扱える人間なんておらん」


「ああ、無属性魔法って、基本的にひとり1つだもんな」


 俺は魔法も【スキル】でコピーできるので、多彩な無属性魔法が扱えるのである。


「せや……。このパイプ、やっぱジロさんやなきゃ作れへんわ。ジロさんがおらんと作れん。やから……」


「ああ。だから最初から言ってるけど、作るのには協力するぞ」


 俺がそう言うと、クゥが涙目になる。


 立ち上がって、俺の両手をガシッ、とつかみ、何度も頭を下げる。


「ジロさん……。ほんま、ほんまありがとな……」


 ぐす……とクゥが鼻を啜る。


「な、泣くほどか? 大げさじゃないか……?」


「ジロさん……。あんた自分のなした偉業、まったく気付いてへんな」


 クゥは握手を解いて、俺の隣に座る。


「スマホに続いてこの除雪パイプ、おそらく【国】が、うちらに……いや、あんたに目ぇつけてくる」


「この国がか……?」


「せや。もしかしたらジロさん……。もらえるかもしれへんな」


 うんうん、とクゥがうなずく。


「もらう? 何を?」


「……いや、まだ先の話や。先走りしすぎたわ」


 ふるふる、とクゥが首を振るった。

 何のことだろうか……?


 まあ、先のことらしいので、今は良いか。

「早速で悪いんやけど、試作品作ってくれへんか?」


「一から作らなくても、すでに除雪パイプは作ったから、【複製】できるよ」


 俺の持つスキルは、魔力があれば複製が可能なのである。


「せやったな。おっし! じゃあ早速たのむよ!」


 俺はさっそく、作業場へと向かう。


 その道すがら、隣を歩くクゥがこう言っていた。


「ああジロさん。ちょっと提案があるんやけど」


「どうした?」



「うちと結婚せえへん?」



 今日の天気は晴れですね。

 とでもいうよな気軽さで、クゥがそう言ってきた。


「ど、どうしたいきなり……?」


「いやいきなりやないで。前からおもっとったんや。あんたを他に取られたくない。ずっとうちのそばにいてほしいってな」


 潤んだ目で、クゥが俺を見上げてくる。


 彼女もまた、コレットたちと同様、整った顔をしている。


 ふっくらとした胸。艶やかな黒髪。あどけない顔つき……。


 黙っていれば、美少女に見えるだろう。

 そんな美少女が、俺に求婚してくる。


 それに対して俺は……。


「それはあれだろ、会社の利益のためだろ?」


 と言うと、クゥはあっさり、


「ンなの当たり前やん」


 とうなずく。

 ですよね。


 この子とつきあいを持って半年。

 半年も経てば、この子の性格もわかってくる。


「あんたはもう、この世界に何度も技術革新を起こしとる。前からあんたに目をつけていためざといやつら以外も、あんたという存在に気付き始まるやろう。そしたらあんたは引く手あまたや。うちからいなくなられても困るからな」


「だから結婚してつなぎ止めておこうってことか」


 せやで、とクゥがうなずく。


 俺は吐息をついて答える。


「申し出は嬉しいよ。けど愛のない結婚は承諾できない」


 それは政略結婚のようで、クゥが可愛そうだった。


 やっぱり女の子は、本当に好きな相手と結ばれてもらいたい物である。

 こんなおっさんじゃなくてな。


「……ちぇ、けちやな」


 クゥがつぶやくと、苦笑する。


「いや普通だろ」


「ま、確かに愛のない結婚なんて意味ないな。ならテンはどうや?」


 と急にテンの名前を出してくる。

 後ろを歩くテンが、「ひゃうっ……!」と妙な声を出した。


「テン? どうしてテンが出てくるんだ」


「なんやジロさん。シランのか? テンはな、あんたのこと」

「く、クゥ様!!!」


 テンが俺たちの前に躍り出て、クゥの口を手でふさぐ。


「言わないでくださいっていったじゃないですか!」


 クゥがニコニコしながら「すまんすまん」と頭を下げる。


 テンが手をどけると、にんまり笑いながらクゥが言う。


「まだ言ってへんよ。落ち着き」

「ほ、本当ですか?」


 ほっ……とテンが安堵の吐息をつく。


「テン。何のことだ?」

「お、お気になさらず……」


 赤い顔で、もじもじとするテン。

 それを見て、クゥがケラケラと笑った。


「ジロさん、あんたホンマにもてるなぁ」


 そんなふうにしながら、俺たちは作業場へと向かうのだった。



 

 

書籍版11月15日発売です。

Amazonや楽天などで、予約が始まってます。


書籍版めちゃくちゃ頑張って書いたので、できれば買っていただけると嬉しいです!


ではまた!

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