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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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108.善人、腹黒商人のもとへ仕事しに行く【前編】

いつもお世話になってます!


 子供たちにソリ遊びを教えた翌日。


 朝食を食った後、俺は外に仕事をしに行くべく、孤児院の外にいた。


 孤児院の出入り口にて。


「それじゃコレット。行ってくるな」


 俺は愛する妻に、いってきますのあいさつをする。


「うん。行ってらっしゃいジロくん。クゥちゃんによろしくね」


 流れるような金髪の、美しいエルフが、ひらひらと手を振ってくる。


「ああ。クゥのやつにそう伝えておくよ」

「じー」


 出発しようとする俺に、コレットが物欲しそうな目を向けてくる。


「どうした?」

「ちゅーはどうしたのかなっ?」


 ああ……。

 行っていますのキスを期待してるわけだ、この子は。


 コレットは早く早く、と目を閉じて、んーっと唇を突き出す。


 俺はコレットに顔を近づけて、その瑞々しい唇に、軽いキスをする。


 唇を離すと、コレットは上機嫌に、エルフ耳をぱたぱたさせる。


「ふふっ♪ 気をつけて帰ってきてねっ♪」


 今度こそ出発しようとしたそのときだ。


「おにーちゃんどこ行きやがるです?」


 孤児院の中から、犬っこキャニスと、


「へい、みーたちとソリで遊びましょう」


 キツネ娘のコンが出てきて、俺の足にしがみついてきた。


 俺はふたりをよいしょと抱っこして言う。

「すまんな、ふたりとも。今日はお仕事しにいくんだ」


 俺はコレットに、キャニスたちを手渡す。

 コレットがよしよし、とふたりを抱っこする。


「へ? 仕事? どこいくです?」

「いつも働いてるやん。働き過ぎマン」


 事情を知らぬ子供たちが、俺に尋ねてくる。


「王都のクゥのところに行ってくる。いちおう立場上は社長だからな」


 俺は【銀鳳ぎんおう商会】という超大手商業ギルドに所属している。


 そして名目上、俺はそこの社長と言うことになっているのだ。


 初夏、俺がこの孤児院に来て、竜の湯の秘めたる効果を知ったあと。


 この世界では貴重な品を作り、クゥと呼ばれる商人から気に入られる。


 そして地球の技術提供をしていくうち、気付けば商会の社長ギルドマスター


 月収金貨2000枚(日本円で月収2000万円)という、身に余るほどの地位を手に入れたのだ。


「あー、それな!」

「それな。じゃあにぃ、お土産よろ。高いお肉が良いな」

「おー! 期待してるからなっ!」


 俺が出かけることに納得したふたりが、俺に向かって笑顔を向けてくる。


「わかった。美味い肉を仕入れてくるよ」


 俺はうなずいて、手を振り、その場を離れる。


「いってらー!」「晩ご飯までにはかえるのよー」


 子供たちに見送られながら、俺は孤児院の建物を離れ、森の入り口までやってくる。

 そこには……。


「社長、おはようございます」


 スーツ姿の、高身長の女性が立っていた。

 黒いスーツに黒い手袋。

 艶やかな黒髪で顔を隠している。


 という全身黒づくめの女性に、俺はあいさつする。


「テン、おはよう」


 クロづくめの女性、テンは、口元をほころばせる。


「社長。差し出がましいとは思いましたが」


「ああ、エンジンかけててくれたんだ。助かったよ」


 テンの隣には、俺の【自動車】がおいてある。


 すでにエンジンがかかっており、暖機状態だ。


 なぜこの異世界に自動車があるというと、俺の【複製スキル】で作ったからである。


「いえ、これも社長秘書の仕事ですから」


 テンは銀鳳商会の職員だ。

 俺が社長に就任した際、秘書として、彼女が俺の側にいることになったのである。


「社長、運転は私がしますので、後部座席にお座りください」


 テンが後部座席のドアを開いて言う。


 テンをはじめとして、俺の知り合いたちは、自動車の運転ができるやつらがいる。


 俺が教えたのだ。


「ありがとう。けど、良いよ。雪道の車の運転には慣れてないだろ」


 俺が自動車を作ったのが初夏。

 あれから半年。


 今日が初めて、車を使って、雪道の運転となる。


 俺は前世では、良く雪道を運転した(大学時代、北海道に住んでいたから)。


 だからある程度のノウハウがある。滑ったときはブレーキを踏まないとかな。


 だがテンは、雪道の自動車の運転に書けては、素人だ。


 事故ってテンの身に何かあったら困るからな。


「……そう、ですね。馬車なら何度かあるのですが、この【ジドーシャ】での冬道はまだ……」


「だろ? なら良いよ。俺が運転する」

「……面目ありません」


 テンは申し訳なさそうに頭を垂れる。


「良いって、気にすんな。運転していけば慣れるから」

「はい……。社長……。寛大なお心遣いに、感謝いたします」


 かくして俺が運転して、クゥのいる王都へと向かうことになった。


 アクセルを踏んで、俺は森の中の道を走る。


 びしゃびしゃびしゃ~……っと濡れた地面を走る音が聞こえる。


 雪にタイヤを取られることはない。


【あれ】が上手いこと作動してくれているおかげだろう。


 先日も雪が降ったばかりだというのに、快適に運転できていた。


「そう言えば社長」


 助手席に座るテンが、俺に声をかけてくる。

 

 俺はしっかりとハンドルを握り、前を向きながら、


「どうした、テン?」


 と答える。


「先ほどから気になっていたのですが、道路に、雪が積もってないような気がします」


 確かに道路には雪が積もってないのだ。


「おー、気付いたのか」

「はい。それに道路に設置してある、あの水の出るパイプはいったい……?」


 進行方向。

 道路の中央に、細長いパイプが、森の外へと伸びているのだ。


「あれは【除雪じょせつパイプ】っていうんだ」


「じょせつ……パイプ?」


 声のトーンから、聞き慣れぬ単語であることは容易に推し量れた。


 だよな。テンは現地人。


 地球のものには、疎いのだろう。


「降雪量の多い雪国によく設置されているんだよ。あのパイプから温かい水が出て、それが積雪を防いでいるんだ」


 俺が説明するが、テンは、


「よくわからないのですが……」


 と、正直に答えた。


「そうだな……。たとえば竜の湯あるだろ。あれっていくら雪が降っても、湯船には雪が積もらないよな? なんでだ?」


「それは……そうでしょう。温かいお湯に雪が入ると溶ける……あ」


 テンは合点がいったようだ。

 俺は説明を続ける。


「そう、まあ凄く簡単に言うとそういうことなんだ」


 いくらパイプによって雪が除かれているとはいえ、事故る可能性はゼロじゃない。


 慎重に運転しながら言う。


「ああして常にパイプから温水が出ていれば、雪が降っても温水に濡れている地面には、雪が降らないってわけ」


 道路などは特に雪が積もりやすい。

 木々が生えてないからな。


 だからこそ、除雪パイプが必要とされる。

 こうしてパイプから絶えず温水が流れていることで、夜中に雪が降ったとしても、道路に雪が積もらないのだ。


「凄いです……。これなら、馬車が雪に足止めを食らうことがなくなります!」


 テンは商人だからな。

 雪で道路が閉鎖されることの大変さを、身にしみてわかっているのだろう。


「道路の雪かきって結構面倒だもんな。いくらこの世界、自動車が走らないとは行っても」


「ええっ! 馬車での交通が基本ですが、冬になると足止めを食らうことが多いです。雪が溶けるまで道路が使えないってこともしばしば……。ですがこれがあれば、雪道で馬車が動かないなんてことはなくなりますね!」


 弾んだ声でテンが言う。


「さすがです社長……。こんなアイディアを思いつくなんて……」


 前を向いているので、テンがどういう顔をしているのかわからない。


 そもそも前髪で顔を隠してるから、見たとしても評定はうかがえないだろう。


 だが声音には尊敬の色が混じっていた。照れる。


「いや。別に俺が凄いわけじゃないよ。単に向こうの世界の技術を流用してるだけだ」


「それでも……技術を再現したのは社長ではないですか……。十分に凄いですよ……」


 確かに再現には、地球にはない技術まほうを使った。


 アイディアと実装の手はずは俺がしたのだが……。やっぱり手柄はアイディアを最初に思いついた人間だと思う。


「ありがとう。美人にそう言われると、なんだか照れちゃうな」


「や、やめてください……。私は社長秘書でありたいんです……」


 テンがもじもじ……と、身をよじっていた。

 それを視界にとらえた。


「え? どういうことだ?」


「……そんなふうに褒められると、困りますということです」


 やっぱり何を言ってるのかわからなかった。


 だが困らせてしまったのなら、俺のせいだろう。


「ああ、うん。ごめん。別に困らせるつもりはなかったんだ。嫌だったか?」


 俺が謝ると、テンが慌てて言う。


「あの、いえ……! 嫌だったとかじゃなくて、嬉しいから……困るんです」


 恥ずかしそうに、口ごもりながら、テン。

「と、ところで社長っ! この除雪パイプって中身はどうなってるんですかっ? 温水が出てるということですが……」


「ああ、そうだな。説明するとだな……」


 と言おうとした、そのときだ。


 Prrrrrrrrr♪ Prrrrrrrrr♪ Prrrrrrrrr♪


と、軽快な電子音が、俺の太もものあたりから聞こえてきた。


「ん? なんだ電話……?」


 たぶん左ポケットに入れている、スマホに着信があったのだろう。


「悪いテン。左ポケットの中からスマホ取ってくれ」


 運転中に電話に出ることはできないしな。

「かしこまりました」


 テンが俺のポケットからスマホを取り出す。


 画面を見ている(ようだ)。


「誰からだ?」

「クゥ様からですね」


「すまん。今運転中だって言っといてくれないか?」

「かしこまりました」


 テンは俺のスマホの、通話ボタンを押す。

 彼女を含めた銀鳳商会には、スマホの技術提供をしている。


 なのでスマホの使い方を、テンは知っているのだ。


 テンはスマホを耳に当てて、電話越しに、クゥと会話する。


「はい……。ええ、社長は今運転中でして……。え? へ? あ、はい。社長に伝えます」


 テンはスマホから耳を離すと、俺の方を向いて言う。


「社長。クゥ様が話があるから、作業場じゃなくてクゥ様のもとへ先に顔を出してくださいだそうです」


「クゥが? なんだろうな?」

「除雪パイプの件で詳しい話を聞きたいと……」


 なるほど、と得心がいった。

 つまりクゥは、聞いていたのだ。


 今の話を。


「あー……。クゥのやつ、テンを通して話を聞いてたのか」 


 このテンという女性は忍者だ。

 分身の術を使える。


 分身同士は意識が繋がっており、分身体が見た情報は、分身同士で共有が可能。


 クゥはテンの分身を通して、今の除雪パイプのことを聞いていたのだろう。


「テン、クゥにわかったって伝えてくれ」


「承りました」


 テンはクゥに返事をする。

 俺はクゥの待つ王都へと、車を走らせたのだった。

後編は明日、19時投稿予定です。


また書籍版11月15日発売します。Amazonでの予約が開始しましたので、よろしければぜひ!


ではまた!

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