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【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


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107.善人、子供たちにソリ遊びを教える【後編】

前編の続きです!



 子供たちを集めて、森の中でソリ遊びを教えている。


「次はおいらたちー……ぃ」


 赤鬼の姉、あやねが、ハイハイと手を上げる。


「了解。たち、ってことはアカネも一緒ってことだよな?」


「そー……ぉだよー……ぅ」


 あやねが笑ってそう答える。


「あ、姉貴……。いいよ。他のやつら、ひとりで滑ってたじゃんか。あ、アタシだって1人で滑れるし……。うん、滑れるし

……」


 とは言いつつも、アカネの表情は晴れない。

 ふへっ、と笑ってあやねが言う。


「んー……ぅ。だっておいら、ひとりで滑るのこわいもー……ぉん。アカネちゃんと一緒が良いなー……ぁ」 


 ね、と言って、あやねは妹の手をつかむ。

「姉貴……」

「とゆーわけでー……ぇ。あんちー……ゃん。よろー……ぉ」


 恐らく姉の方は、妹が怖がるから、一緒に滑ろうとしてくれたのだろう。


 だがそれを表だって言うと、妹が気にしてしまうから、自分が怖いと言って嘘をついたのだ。


「はいよ。あやねはホント、いいお姉ちゃんだな」


 俺はしゃがみ込んで、姉鬼あやねのほっぺを撫でる。


「にひー……ぃ。ほめられちったー……ぁ」


 くすぐったそうに身をよじるあやね。だがニコニコ笑っていて、決して嫌そうじゃなかった。


 手を離すと、「もっとー……ぉ」とおねだりしてきたので、よしよしもう一度撫でる。


 さておき。


 俺は赤鬼姉妹を抱っこして、滑り台の階段を上る。


 頂上にソリをおいて、そこに俺が座る。


 膝の間に、あやねアカネと縦一列に座る。


「に、兄ちゃん。これ、ほんとに大丈夫なのかっ? 大丈夫なのかっ?」


 姉越しに、アカネが俺を、不安げに見てくる。


「大丈夫だよ」


「も、もし落ちたら死んじゃうとか……?」


 あわわ、とアカネが青い顔をして言う。


「大丈夫死なないから。それに、落ちても大丈夫になってるから」


 ちら、とあやねが俺を見やる。


「なにかしてるのー……ぉ?」

「ああ。そら、行くぞ」


 俺は体重を移動させて、ソリを斜面へと移動させる。


 しゃぁあああーー……………………。


「ひっ……! ひゃあああああああああああああああ!!!」

「おー……ぅ♪ ひゃっほぉおー……い♪」


 アカネの悲鳴と、姉の楽しげな声とが、静かな森の中に響き渡る。


 ややあって、平地へと到着。


「めっちゃ早かった! 早かったな姉貴!」

「だねー……ぇい。びゅんびゅんだったー……ぁね」


 怖がっていたアカネだけど、今は姉と笑い合っている。


 良かった。怖がらなくて。


 俺がソリから降りると、犬娘のキャニスが俺に近づいてきた。


「なー! おにーちゃん! 順番待ちきれねーです! ひとりで滑ってもいい?」

「れいあも1人で滑れるし!」


 元気っこのキャニスとレイアが、うずうずとしながら、俺にそう言ってきた。


 子供たちを順々に滑らせてきたからな。

 キャニスは5人も順番を待っている。

 待ちきれないのだろう。


「みなのしゅー。あぶないから、大人と一緒じゃないとだめだよ」


 キツネ娘コンが両手でバッテンを作る。


「いや、良いんじゃないか。気をつけてな」


 俺がそう言うと、キャニスとレイアが、ぱぁっと晴れやかな表情になる。


 しっぽはスキーウェア(俺がかつて使っていた物を、複製で作り、【成形モデリング】でサイズ調整した)の下だ。


 しっぽは隠れて見えない。

 けどしっぽがブンブンブン、とウェアの下で降っているのは、容易に想像できた。


「ほら、ソリだ。気をつけてな」


 俺はマジック袋からソリを2台だして、キャニスたちに渡す。


 彼女たちは笑顔で受け取る。


「っしゃー! レイア競争すっぞ!」

「良い度胸ね! 返り討ちにしてあげるわっ!」


 キャニスとレイアは、だだだだー! と滑り台脇の階段を上っていく。


「へいにぃ。あぶなくない?」


 コンが俺の肩に乗って、そう言う。


「ん? ああ……。危なくないようにいちおう工夫はしてあるんだよ」


「ほう。してなにを?」


「それはな……」


 と説明しようとした、そのときだ。


「っしゃー! ごーごーごー!」

「レイアまけないわー!」


 頂上で、キャニスたちがソリにのって、斜面を降りてきた。


 出発するさい、勢いをつけたのだろう。

 助走をつけた分、ソリが速く滑ってくる。

「あっ!」


 キャニスがグラリ、と体勢を崩す。

 勢いつけすぎたのだろう。


 犬娘がソリから転落する。


「キャニスちゃん! 危ないのですー!」


 ラビが目をきゅーっと閉じる。

 俺は慌てて、キャニスの方へと駆け寄る


「わー!」


 さてソリから落ちたきゃニスはというと、

 ぱいーんっ。


 と、斜面でバウンドした。


「えっ……?」


 キャニスはバウンドすると、山なりに空中を舞う。


 俺は空中でキャニスをキャッチ。


「大丈夫か、キャニス?」

「……って、あれ? 痛くねえです?」


 胸の中のキャニスが、ぽかんと口を開いている。


 犬娘の体表に、オレンジ色の、薄い膜が覆っている。


「よし、ちゃんと魔法は発動してるみたいだな。ケガはないか、キャニス?」

「うんっ! なんかバウンって、なった!」


 きゃっきゃ、とキャニスが楽しそうに笑う。


 他の子たちが、心配そうに、キャニスに近づいてくる。


「キャニスちゃん、だいじょうぶなのですっ?」

「おうよ! 全然! しんぱいかけてすまねーなみんな!」


 俺はキャニスを下ろしてやる。


 子供たちはキャニスを見て、ほーっと安堵の吐息をついていた。


「キャニスちゃんが無事で良かったのです!」

「心配かけるんじゃないわよ! もう!」「みー」

「レイアちゃん泣いてるねー……ぇい」

「意外と泣くのな」


 かーっ! とレイアが怒って、アカネを追っかける。

 姉鬼はケラケラと楽しそうに笑っていた。

「へいにぃ、今の魔法?」


 肩の上に載っているコンが、俺に尋ねてくる。


「ああ、【結界バリア】の魔法だ」


 無属性魔法【結界バリア】。


 対象者を魔法の膜で多い、衝撃を吸収する魔法だ。


「載っているひとが転んだとき、バリアが発動するように、【動作入力プログラミング】の魔法をかけてあるんだよ」


動作入力プログラミング】とは、無機物に動きの命令を下す魔法だ。


 条件を細かく設定することができる。


 つまりソリに乗った人間が転ぶと→【結界】の魔法が発動する、というふうに条件設定したのである。


「なるへそ。緊急時のエアバッグてきなサムシング?」


「そういうことだ。コンは相変わらず理解が早くて助かるよ」


 よしよし、とコンのほっぺを撫でる。すべすべもちもちとしていた。


「ものしりこんさんですからね」


 ふふん、と得意げに笑うコン。


「っしゃー! もうひとすべりすんぞ!」


 キャニスがソリを持ち上げて、レイアに言う。


「あ、キャニス。ちょうどいい。もう一回ソリに乗ってごらん」


 俺は犬娘にそう言う。


「? 頂上いかねーとすべれねーです?」


 ソリとは結局は、位置エネルギーを運動エネルギーにすることで速度を出している。

 高いところから降りないと、動かないのだ。


「ああ。けど座ってみな」

「おにーちゃんがしろっつーならする!」


 キャニスは持っていたソリをその場において、ソリの中で座る。


 すると……。


 すぅうー…………。


「おっ、おっ、おー!!!」

「キャニスちゃんのソリが、斜面を登っていくのですー!」


 ソリは斜面をするする、と登っていき、やがて頂上まで到達したではないか。


 それを地上で見ていた子供たちが、感嘆の吐息を漏らす。


「これはマジックだー……ぁね」

「見えない何かに引っ張られてるみたいだぜ……」


 ほへー、と子供が口を開けて、頂上のキャニスを見やる。


「にぃ、あれも魔法?」


「そう、【動作入力】の応用だ。ソリが地上へ帰ってきてる状態で、1回降りて、もう一回載ると、ソリが自動でのぼるよう【動作命令プログラム】をくんであるんだよ」


 キャニスが笑顔で、また斜面を滑る。


 レイアがマネして地上でソリをおいて、頂上へと戻っていった。


「お-。これならいちいち登らなくてもいいから便利」


「そういうことだ。ほら、いっぱい滑ってきな」


 俺はコンを持ち上げて、地上に降ろす。


 人数分のソリを出して、子供たちに配る。

「にぃ、ごいすー」


 きらきら……とコンが目を輝かせて言う。

「ありがとう。ほら、遊んでこい」

「ふふ、ボーダーコンさんと呼ばれたみーの実力、とくとご覧じろ」


 コンはソリの上に載ると、すぅ~……と頂上へと登っていった。


「あのあの……にーさん、ひとりで滑れないからその……」


 ラビがちょこちょこと近づいてきて、俺のズボンを引っ張る。


 キャニスたちと違って、ラビはちょっと気弱な部分があるのだ。


「おう、了解。よし、一緒に滑ろうな」

「おいらたちもー……ぉ」「あ、アタシも……」


 ラビ、あやね、アカネはインドア組。

 この3人はおとなしい性格をしている。


「わーい! ぼくが1番はえーぞおめーら!」

「はしゃいじゃってまるで子供ね-!」


「へいレイア。ゆーもたのしそー。みすたーちゃいるどれんだね」  

「あんたもめっちゃはしゃいでるでしょ-が!」


 一方キャニス、コン、レイアはアウトドア組。

 体を動かすのが大好きな3人組だ。


 何度かソリから降りても、笑顔でソリを持ってまた滑っていく。


 しばらく子供たちを、自由にソリで遊ばせた。

 

 アウトドア組は俺が同伴して、一緒に滑る。


 ややあって、ラビがこんなことを言ってきたのだ。


「あの……にーさん。らび……1人で滑ってみるのです!」


 おそらくキャニスたちが楽しそうにしていたのが、羨ましかったのだろう。


 ラビが自分1人でやると、そう言ってきた。


「お、そうか。頑張れラビ」


 ラビがこくん、とうなずくと、ソリの上に乗っかる。


 すぅ……っとソリがラビを乗せて、頂上へと登る。


「! おいてめーら! ラビがひとりで滑るぞ!」


 キャニスがその事実にいち早く気付き、子供たちを収集する。


「それはスクープ。みなのしゅー、応援しようぞ」

「「「おー!」」」


 地上で俺と子供たちは、ラビの同行を見守ることにした。


「あう……。怖いのです……」


 ラビが頂上で尻込みしている。


「ラビ頑張れ!」「やればできる。じゃすとどーいっと」「気合い入れなさい!」


「ラビちゃんだいじょうぶだよー……ぉ」

「そうだぜ! 転んでもバリアでいたくねーから!」


 地上から子供たちが、声援を送る。


「ラビ、無理はしなくていい。けど頑張れ。おまえならできるよ」


 声を張って、俺がラビに言う。


 それを聞いたうさ耳娘は、キッ……と覚悟をきめた表情になった。


「うう……。てりゃーっ」


 ラビが手綱をにぎり、ソリを出発させる。


 しゃぁああああーーーー……………………。


 ラビを乗せたソリが、なめらかに斜面を滑ってくる。


 ややあって、俺たちの前に、到着した。


「わぁ……! できたのですー!」


 にぱーっと笑って、ラビが両手を挙げる。

 子供たちがラビの周りに集って、ぱちぱちと拍手する。


「おー! やるじゃねーかラビ!」

「女見せたな。やるね、ラビ」


 ラビは俺に笑顔を向けると、


「えへへっ♪ にーさんっ、ひとりでできたー!」


 と両手を挙げる。


 俺はラビをよいしょと抱っこして、その背中をぽんぽんと撫でた。


「おう、見てたぞ。よく勇気出せたな。頑張ったな」

「えへへっ♪ にーさんと、みんなが応援してくれたおかげなのです!」


 くる……っとラビが子供たちを見て言う。

「みんな……ありがとー!」

「「「わー!」」」


 そんなふうにして、午前中・午後と、子供たちはソリをして遊んだのだった。

書籍版、11月15日発売です!

また書影が公開されました!



活動報告のほうにアップしてますので、ご興味のひかれた方はぜひ!


またAmazonでの予約が開始してます!

できれば予約していただけると、とってもうれしいです!


以上です。

ではまた!

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