100.善人、嫁たちと早朝に雪かきする
いつもお世話になってます!
コレットと旧校舎で寝た、その数時間後。
俺は目を覚ます。
壁に掛かっている時計で時刻を確認すると、朝の6時前だった。
昨日確認した天気予報によると、雪は朝にはやんでいるらしい。
だが雪が降った翌日、われわれ雪国の人間は、まず雪かきをしないといけないのだ。
「ふぅ……」
俺は起き上がろうとする。
が。
「んんぅ……ジロくんどうしたのぉ~……?」
右隣から、コレットの声がした。
金髪の美しいエルフが、俺の右腕を枕にして、仰向けに眠っていた。
「悪い。起こしたな」
「ううん……。別に……。私がジロくんの腕を……ふぁぁ~……勝手にまくらにしちゃってたから」
むにゃむにゃ、とコレットが眠そうにしながら、腕からどいてくれる。
俺は立ち上がり、壁際へと移動。
洗濯ひもにかけてあった、衣服を触る。
服は乾いていた。
俺は服を手にとって、コレットのもとへと行く。
「ほら、風邪引くぞ」
「ふぁーい……」
あくびまじりに、コレットがうなずく。
受け取った服をベッドの上に置く。
彼女はのそりと半身を起こして、まずはピンクのショーツを。次に同じ色のブラを、身につける。
「ジロくん、後のホックをとめて欲しいなっ」
コレットが白い背中を、俺に向けてくる。
俺は後に座って、長い金髪をかきわけて、彼女のホックを留める。
シミひとつ無い美しい白い背中をみながら、ぱち……っとホックをとめた。
「はいよ。とめましたぜ、お客さん」
「はい、よくできました♪ ごほうびに、ん~♪」
コレットが振り返って、目を閉じ、小さな唇を向けてくる。
俺は彼女のみずみずしい唇に、ついばむようなキスをする。
ぷりっとした唇の感触が実に心地よい。
「ジロくん。わんもあ! わんもあキッス!」
「はいはい」
もう一度同じようにキスをして、俺たちは衣服を身につける。
「ジロくん、今先生のこと、甘えん坊だなーって思ったでしょ!」
しゅる……しゅる……と肌が衣服とこすれる音がする。
「まあ多少は。でも年相応でいいんじゃないか?」
「そうかなっ! そうだよねっ! 私なんていったって18歳だもん! まだまだ若い、子供だからね!」
「そう、まだまだ若いよ。コレットは。着替え終わったか?」
「ん、ばっちり!」
振り返るとコートまできちんと身につけた、長身の美しいエルフが立っていた。
「じゃ、お仕事がんばるぞー!」
「そうだな。朝から大仕事だ」
雪を振った翌日。
われわれは雪かきという大仕事が待っているのだ。
俺たちは旧校舎を出る。
手をつなぎ、並んで、新校舎へと向かって歩く。
ややあって、孤児院の新校舎までやってきた。
そのときだ。
ざく……。ざく……。ざく……。
と、どこからか雪をかく音がする。
「あれ? ジロくんなんか今音しなかった?」
「ああ。誰だろう。まだみんな寝てる時間だろうけど……」
気になって、俺は音のする、孤児院の裏庭へと回る。
すると……。
「あ! ジロさん! おはようございまーす!」
そこにいたのは、元・受付嬢のマチルダ。
「ジロ。おはよ」
赤髪の猫獣人、アム。
「……じろーさん。コレットさん。おはようございます」
鬼族の桜華。
「やあジロー。今朝はずいぶんと早起きだったじゃないか。コレットと楽しくやってたのかい?」
子供と見まがうほどの女性、妖小人の大賢者、ピクシー。
俺の嫁と恋人たちが、防寒着をきこんで、そこに勢揃いしていた。
「みんな……どうしたんだ? こんな早くに」
するとマチルダが、手に持っていたスコップを放り出す。
俺の方へとかけてきて、空いている方の腕を抱いていく。
「えへっ♪ ジロさんわかってますよ。どうせ先に来て雪かきするつもりだったんですよねっ?」
じっと俺の目を見て、マチルダが言う。
その目はニコニコと笑っていた。
「まったく。水くさいじゃない。あたしだって手伝うわよ。もう子供じゃなくて、立派な職員だし」
アムが両手に腰を当てて、ちょっと怒りながら言う。
「……じろーさんばかりに、負担をかけたくありません。わたしたちも……お手伝いしたい、です」
鬼族の桜華が、微笑みながら言う。
「だってさ、ジロー。モテるね君は。ま、私は暇だったから手伝ってあげようって思ってさ。雪国出身だから、朝の雪かきの大変さは身にしみてるし」
くすっと微笑をたたえる先輩。
「みんな……ありがとうな」
彼女たちは笑っていた。
「さてじゃあ雪かきしようか……って、コレット?」
すると隣に立っていたコレットが、つつ……っと涙を流していた。
「どうした?」
「あっ! えっと……なんか、嬉しくって」
青い瞳から、宝石のような涙がこぼれ落ちる。
俺はポケットからハンカチを取り出して、彼女の涙をぬぐった。
「嬉しい?」
「うん……。1年が経ったんだなぁ、って思って」
いわく、去年は、コレットは雪かきを、ひとりでやっていたらいし。
アムはまだ庇護下にあったのと、寒いからかわいそうだと、雪かきはさせなかったらしい。
アムはコレットに近づく。
「コレット。あたしももう大人だから。今年からは、コレットを手伝う。今までごめん」
「ううん。アム……。ありがとう。じゃあ、一緒に雪かき、がんばりましょう?」
コレットがそう言うと、アムがにっこり笑ってうなずいた。
「さて……じゃ、仕事に取りかかるか、みんな」
俺はマジック袋から、自分と、そしてコレットの分のスコップ。そして雪用の長靴を取り出す。
俺たちは手早く役割分担して、裏庭の雪をかく。
ざくざく……と雪をかいていると、やがて日が昇ってくる。
空には雲ひとつ無い、青い空がどこまでも広がっていた。
天竜山脈から登ってきた朝日が、孤児院と、そして俺たちを照らす。
「良い天気だ」
雪かきが終われば、子供たちはまた元気いっぱいに、ここで遊んでくれるだろう。
雪かきは大変だが、子供たちの安全のための作業だ。ぜんぜん苦ではない。
「ジロさーん!!」
マチルダがスコップを持った状態で、俺に近づいてくる。
「どうした?」
「かいた雪ってどうしますか?」
マチルダはダキッ! と俺の腕にしがみつきながら尋ねる。
ぐんにょり、と乳房が俺の腕に押しつけられる。
「森の茂みの方へ捨てる感じで」
「ふむふむなるほど! 茂みの方ですね!」
笑顔でうなずくと、マチルダが手を引いて、森の方へと歩いて行く。
「あの……マチルダ? どこ行くんだ?」
「え、森の方ですけどっ!」
孤児院は森の中の、空いているスペースに立っている。
ちょっと歩くと、すぐにソルティップの深い森へとやってくる。
茂みの方へとやってくると、マチルダがいそいそ……とズボンを脱ごうとしてきた。
「何やってるんだお前は……」
「え? だってだって、今朝はコレットと一緒に楽しいことしていたんですよね?」
むー、と不満げに、マチルダが唇をとがらせる。
「コレットは協定違反です! えっちぃことは夜だけって決まりだったのに! だからわたしもかわいがってもらいたいな、と!」
「いやまあ……。というか、気付いていたのか?」
「はい! たぶん、ほかのみんなも気付いてるのではないでしょうか」
そうなのか……。
すると。
「……あの、じろーさん」
桜華が、俺たちのいる方へとやってきた。
「どうした?」
するともじもじしながら……「わ、わたしも……」と言ってきた。
「こーらあんたたち!」
そこへ猫獣人のアムがやってくる。
「サボってるんじゃないわよ! もう!」
「「「すみません……」」」
マチルダと桜華が、しぶしぶ、俺から離れて、作業へと戻る。
「ジロもっ! もっと強く注意しないとだめでしょ!」
「ああ……。すまん、迷惑かけたな」
俺はアムの赤い髪を、撫でる。
「べ、別に迷惑じゃないけど……。大黒柱のあんたがしっかりしてもらわないと、困るんだからねっ」
「そうだな。すまん」
「……別に、謝る必要ないけど」
そう言うと、アムが自分のしっぽを、俺の腕に巻き付けてくる。
これは獣人同士での、親愛の証である。
「アムもすっかり職員だな」
「そーよ。一年前とは違うんだから」
ふふん、と得意げに胸を張るアム。
「そっか……1年か」
あと1ヶ月もしないうちに、今年が終わる。
数週間後には、新年を迎えるのだ。
「今年は……激動の1年だったな」
スコップを持って、アムと一緒に雪かきをする。
「1年を振り返るのは、まだ早いでしょ?」
「そうだな……。まだまだだな」
まだ12月は残っている。
「イベントが多いから、あっという間に年末。気付いたら新年になってそうだ」
「ん。それは同意するわ」
アムが俺を見上げて、笑って言う。
「あんたがいると、毎日ほんと楽しくて、時間があっという間に過ぎてくの」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
アムがもじもじして、ん……と唇をつきだしてくる。
俺は彼女と口づけを交わす。
「ジロくん! さぼっちゃだめでしょ! そして先生にもキスしなさい!」
「ジロさん! アム! ずるいわたしもー!」
ぎゃあぎゃあ、とコレットとマチルダが大声出しながら、俺に近づいてくる。
数時間後には、子供たちの楽しげな声が、響き渡るだろう。
賑やかで楽しい日々は、まだまだ、続くのだった。
これにて12章終了となります。
幕間を挟んで、13章へ続きます。
また書籍版が11月15日発売です。
活動報告の方でキャララフを公開してます。
昨日はコンちゃん。明日はラビとジロくんのラフを上げる予定です。
また、新連載やってます。
下にリンクが貼ってあります。タイトルを押せば小説ページへと飛べますので、よろしければぜひ!
次回もよろしくお願いいたします!




