表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】善人のおっさん、冒険者を引退して孤児院の先生になる 〜 エルフの嫁と獣人幼女たちと楽しく暮らしてます  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/189

99.善人、エルフ嫁と旧校舎で語らう【前編】

いつもお世話になってます!



 初雪が降り、嫁たちに天気アプリの使い方を説明した、翌朝。


 明け方。

 俺はふと、目を覚ます。


 俺はベッドの上で、右向きで眠っていたようだ。

 俺の右隣には、エルフ嫁のコレットがいたはず。


 なのでこの体勢だと、彼女の美しい金髪や寝顔が見える……はずなのだ。


「ん……?」


 俺の目の前には、誰もいなかった。

 右隣は空っぽだ。


「コレット……?」


 俺は半身を起こして、辺りを見回す。

 ベッドの上には桜華やアムといった、他の嫁や恋人たちが、すぅすぅと寝息を立てチア。


 だがいくら探しても、ベッドの上に、コレットの姿はなかった。


「トイレにでもいってるのか……?」


 まだ職員が起きる時間じゃない。

 かといって朝の見回りにしては、早すぎる。


 用を足しにいったのだと思い、俺はベッドに横になる。


 トイレへ行って帰ってくるくらいなら、何も問題が無い。

 俺は彼女が帰ってくるまで、意識を沈めないでいた。万一があるかもしれないからな。


 そして……数十分後。


「……帰ってこないな」


 トイレにしては長すぎる。


 俺は起き上がり、壁に掛けているダウンジャケットを羽織る。


 この時間では、まだ暖房のタイマーが起動していない。

 だから室内は恐ろしく寒いのだ。

 なにせ、部屋の中にいても、吐く息が白くなるのだから。


 俺は自分の寝室を離れて、孤児院1階、ホールへと赴く。


 しんと静まりかえったホール。

 そこから移動し、俺は1階と2階のトイレを調べた。


 だがどちらにも、コレットの姿はなかった。


 ホールへと戻ってきて、ひとりごちる。


「どこいったんだ……?」


 と考えていた、そのときだ。


 ひゅぅうう…………。


 と、どこからか冷たい風が吹いてくるではないか。


「ん? なんだ」


 前の古い孤児院ならばいざしらず、この新築ですきま風が吹いてくることはない。


 ならば窓やドアが閉め忘れていたことになるのだが、それもない。


 寝る前にはきちんと、戸締まりをしているからな。


 孤児院のあるソルティップの森は、私有地となっており、万に一つも泥棒は入らない。


 戸締まりをするのは、外気が入ってこないようにするためだ。

 に冬場は特に寒いしな。


 しかしそれでも、風が吹いてるとなると……。

 

 俺は風が出ている方へと歩いて行く。

 孤児院の出入り口だ。


「ドアが、開いてる……?」


 開閉式のドアが、少しだけあいていた。

 そこから風が吹いている。


「……昨日は、ちゃんと閉めたはずだよな」


 いなくなったコレットと、閉じているはずのドア。


「まさか……」


 俺は嫌な予感がして、そのままドアを開けて、孤児院を出る。


 頭上からは無音で、大量の雪が降っている。


 曇天からは絶え間なく切片が降り注ぎ、地面に雪を積んでいた。


 日付が変わる前から降り出した大雪は、まだやんでないようだ。


 白く積まれた雪の絨毯の上に……ぽつぽつと、小さな足跡が残されていた。


 足跡はよく見ないとわからないレベルだ。

 後の上に雪が降り積もっている。


 出て行ってそこそこ、経っているように思えた。


 凝視しないと見えない足跡を、俺はたどっていく。


 孤児院を出て、おっていくと……。


 そこは昔使っていた、旧獣人孤児院の建物があった。


 今を新築する際、取り壊さずに残したままにしておいたのだ。


 足跡は旧校舎(古い方の孤児院という意味で)の中へと消えていった。


 建物の中へと入ろうと思った……そのときだ。


 ザクッ……。

 バサッ……。


 と、屋根から何かが落ちる音がした。


「コレット!」


 嫌な予感がして、音の方へ駆けつける。

 つもりに積もった雪の上は、非常に走りにくかった。


 靴の間に雪が侵入し、靴下がぐっしょりと濡れている。


 音のした方を見るが……しかし、最悪の事態には至ってなかった。


 単に雪の塊が落ちただけみたいだ。


「…………」


 安堵のあまり、へたり込みそうになる。

 その間にも、屋根の方から、ザクッ……ザクッ……と雪をかく音がした。


 俺は靴に力を込める。


 この靴は、以前靴に【飛行フライ】の魔法を付与した特別なものだ。


 ぐっ……と力を入れると、体が浮く。


 そのまま俺は、旧校舎の屋根の上へと、着地した。


 果たしてそこにいたのは……。


「ジロくん?」


 コートとニット帽、という出で立ちの美少女エルフが、立っていた。


「は、早いね。朝起きるのっ」

「…………」


 俺は彼女の手元を見やる。

 土木作業用のスコップが、その手に握られていた。


「コレット。何やってるんだよ、こんな雪降ってる中」

「あ、あはは……ちょっとね」


 雪をかく音。

 落ちてきた雪。

 そしてスコップを持っている……コレット。


 これらが導き出す答えは、ひとつだ。


 恐らくこの旧校舎の屋根に積もった雪を、下ろしていたのだろう。


 俺はコレットに近づく。

 自分が着ていたダウンジャケットを脱いで、彼女の肩にかける。


「寒いだろ。これ着ろ」

「……ありがとう」


 一気に寒くなったが、中にインナーを着込んでいるので、まだ耐えられた。


 コレットがもそもそ……と俺のジャケットを、コートの上からはおる。


「雪かきしてたんだよな?」

「うん。すごい大雪でしょ。だから、かいとかないとって思って」


 コレットが中空を見上げて言う。


 灰色の空からは、無数の切片が降り注いでいる。


 スコップでかいた部分に、うっすらと雪が積もりだしていた。


「朝になってからでも十分だと思うぞ。というか、今やってもまだ降ってくるから、朝雪の勢いが落ちてからやるのがベストだ」


「そうね。けど……この建物、古いから。雪の重さで、すぐに天井に穴空いちゃうの」


 コレットがその場にしゃがみ込んで、旧校舎の屋根を触る。


「…………」


 なるほど、と俺はコレットの行動の真意に気付いた。


 なぜコレットが、旧校舎の屋根の雪かきをしていたのか。


 おそらく彼女は、守りたかったのだろう。

 古くなった、この旧校舎。

 今では使われてないこの建物も、彼女にとっては、思い出の建物だ。


 それが大雪の重さで、ぺしゃんこになってしまうことを、彼女は恐れたのだ。


 俺はマジック袋から、スコップを取り出す。


「コレット。先に中に入ってな」

「ジロくんは……?」


「今残っている雪下ろしたら、すぐに後を追うよ」

「そんな……手伝うよ」


「いや、良いから。すぐに終わるし。それにコレットはもうずっと雪かきやってたんだろ。風邪引いちゃうって」


 俺が言うと、コレットがじわ……っと涙をためる。


「うん……。わかった。ありがとう、ジロくん」


 そう言って、彼女は屋根から降りていった。

 どうやら2階の窓から、はしごを使って、ここへ登ってきたらしい。


 1人残された俺は、ざくざくとスコップを使って雪下ろしするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ