98.善人、嫁たちに天気予報アプリの使い方を教える【後編】
雪が降ったその日の夜。
孤児院1階ホールにて。
俺たち職員+先輩は、明日からのことを打ち合わせしていた。
「みんなも知っているとおり、今日初雪が観測された。だが昼前でやんだことで、積雪には至らなかったわけだ」
冬本番になったとはいえ、まだ12月に入ったばかりだ。
まだ雪は本降りにはなっていなかったわけだ。
「ただみんなもこの国に住んで長いからわかると思うが、今は序の口。本番はこれからだ」
俺の言葉に、嫁や恋人たち、全員がうなずく。
「そうよねぇ……。こっからいっきに寒くなるし」
「雪もバンバン降ってきますもんねっ!」
「……お洗濯物がかわかない季節になりますね」
こくりと、みんながうなずく。
アムが眉をひそめていう。
「それより子供たちのことも心配よね。あんまり雪が降りすぎると、外で遊ばしていたら危ないわけだし」
アムの言葉に、俺はうなずく。
「そう、そこだ」
冬場の何が危ないというと、その厳しい寒さに加えて、大量に降る雪も、気をつけないと行けない。
「雪は結構重い。屋根から落ちてきた雪が頭に当たって死ぬ……ってことも十分にある」
先輩はメガネをかちゃっとかけなおしていう。
「それに雪に埋まって窒息というケースも考えられるね。なんにせよ大雪の日には子供たちを外に出さないのが、賢明だろう」
職員たち全員が、同じ思いだった。
「……けど、じろーさん。子供たちがずっとおうちの中だと、かわいそうです」
「ああ。まあ雪が振るっていっても、何も毎日大雪が降るわけじゃない。晴れるときもあれば、雪の降りが弱いときもある。そこで子供たちを外に出して遊ばせようと思ってる。異議は?」
ふるふる、と嫁たちが首を振るう。
「そんなわけで、俺たち職員は、業務をしていく上で翌日以降の天気を把握している必要がある」
「そうね。雪が降ったときとそうでないときじゃ、仕事の仕方が変わるものね」
コレットの言葉に、賛同するように、全員がうなずく。
「でもジロさん。明日以降の天気なんて、わかりませんよね? わたしたち天気の神様じゃあないわけですし」
マチルダが首をかしげる。
「そこで……だ。みんな、スマホを出してくれ」
俺がそう言うと、嫁たちはうなずいて、スマホをこたつテーブルの上に置く。
俺はスマホを手に持って説明する。
「ホーム画面の、この【天気】ってアプリをタッチしてくれ」
電源を入れると、雲と太陽のマーク、そして【天気】と書かれたアイコンが、すぐに見つかる。
「はいはい! ジロさん! どれだかわかりませんっ!」
マチルダが手を上げて、勢いよく立ち上がると、素早く俺の隣に移動。
体を寄せてくる。
するとその大きな乳房が、俺の腕にあたってぐにゅっと潰れる。
マチルダの張りのある胸は、俺の腕をぐいっと押し返してきた。
「あー! マチルダあなたねー! ずるいわよー!」
コレットが鬼の形相で、マチルダをにらむ。
「あーん、ジロさん怖いです! コレットがとっても怖くて~」
「……マチルダ。まじめにな。それとコレット、年長者なんだから落ち着いてな」
「「はーい……」」
しかしマチルダはその場から動こうとしなかった。
コレットが怒って、俺の隣へ移動。
無理矢理大人3人が、並んで座る状態になった。
最初に戻ったのだが……まあここで揉めるとまた話が進まなくなる。
多少窮屈だが、我慢しよう。
「それで、このお天気アイコンを押してどうするの、ジロくん?」
コレットが俺の肩にぎゅーっとくっついていてきいう。
マチルダと違った、柔らかさと張りとが半々くらいの感触が、腕にあたる。
「するとそこに数字と、あと天気が表示されてるだろ」
「……この、5℃、というのが外の気温、でしょうか?」
「曇りマークが今のお天気ってこと?」
桜華たちに向かって、俺はうなずく。
「5℃! 寒すぎますよー!」
マチルダがそう言うと、俺にぎゅーっと密着してくる。
ふわり……と花のような、甘い髪の毛のにおいが鼻腔をくすぐった。
笑顔のマチルダがすぐそこにいる。
「マチルダ! ことあるごとにジロくんにぎゅーっとして! ジロくん、怒ってあげなさい。離れろよぉって!」
「いやまあ……別に悪いことしてないし、怒る必要ないだろ?」
するとコレットが、子供のように唇をとがらせると、
「ジロくんはマチルダが1番良いんだ……」
としょぼくれた。
「コレット……違うから。別に誰が1番とかないから」
「……ホントかな? 口でならナントでも言えるもんな」
「コレット……。違うって」
「ジロさん、違うんですか?」
「マチルダはちょっと黙ってような」
その後コレットをなだめすかして、やっと本題に入る。
「このアプリを使えば、今日の天気と気温。明日の細かい気温と天気の変動。そんで1週間の天気と最高気温は確認できる」
おおー、と現地人たちが感心したようにつぶやく。
「とっても便利ねー、これ」
コレットが俺の膝の上でいう。
結局彼女の機嫌を直すためには、コレットを膝の上にのせて、後からぎゅっとしないとダメだった。
ぷにぷにとしたお尻の感触。
眼前の美しい金髪からは、マチルダよりも濃い、花の甘いにおいが漂ってくる。
「コレット。ずるいです! どいてください!」
「ほっほっほー。ここはお嫁さんのポジションなのだぜ。譲れないんだぜ」
ふふん、と得意げな声のコレット。
「それでジロ。これもあんたが、スマホを改造して使えるようになったの?」
アムが俺に聞いてくる。
「ああ。先輩から【予報】って魔法を教えてもらってな。それをスマホにくっつけた」
「【予報】? って、なにピクシー」
「レアなモンスターが出現する場所、その出現確率など、知りたい事柄の、近しい未来の出来事を文字通り【予報】してくれる魔法だ」
「なにそれ。最強の魔法じゃない」
「ああ。ゆえに使い手がほとんどいない。たぶん今現在では大賢者である私しか使えないだろう」
先輩はこの世にある、古今東西のあらゆる魔法を知っており、また使えるのだ。
俺は先輩の魔法を【複製】して、【予報】を使ったわけである。
「それにこの【予報】というのものは確定した未来の出来事を言い当てあるものじゃないんだ。あくまで直近の、最も起こり【そうな】できごとを教えてくれるもの。確実にそうなるとは限らないのさ」
「ふーんそうなんだ。じゃあ結構あたらないのね」
アムの声の後に、先輩が言う。
「とはいっても天気予報程度の情報なら、わりと信用にあたるデータが出ると思うよ」
この【予報】魔法と、スマホとを複製合成(一緒に複製すること)。
あと【動作入力】の魔法で、お天気アプリを開くと、【予報】の魔法が発動する、と条件を設定。
すると地球で使っていたように、アプリを開けば、誰でも手軽に、天気が確認できるようになった……。
という、次第である。
「ジロさんはやっぱりすごいです! 明日の天気が知れるなんて、神様になったみたいです!」
マチルダがそう言って、コレットを「失礼します!」と言って押しのける。
「きゃあ!」
すてーん、とコレットが俺の膝から転げ落ちる。
「えへへっ♪ ジロさんのお膝の上! ジロさんがすぐ近くにいる!」
くる、とマチルダが向きを変える。
俺と対面して、膝の上で座るような体勢になる。
そしてそのまま、正面からハグしてきた。
ぐんにょり、と柔らかな物体が、生暖かい感触とともに、胸板にあたる。
マチルダはそのまま、俺の首筋に鼻をつけて、すんすん、とにおいをかぐ。
「ん~♪ ジロさんの良いにおいっ。大人の男の人の、とってもセクシーなにおいがします!」
「……どんなにおいだよ」
するとコレットが立ち上がり、「どーん!」と言って、マチルダを押しのける。
「ジロくんのそこのポジションは、先生のものなんです! 他の子を乗せてはいけませんよ、ジロくん!」
ぷんすこと怒りながら、コレットがマチルダと同じ体勢で座る。
むぎゅーっと俺を抱きしめてくる。
大きくて暖かい乳房が、俺の胸板にあたって気持ちが良かった。
「もう! コレットどいてください!」
「ジロくん、言ってあげて。どかないぜ、ここはコレットの席なんだぜって!」
ぎゃあぎゃあ、と口論になる。
賑やかなのは良いんだが、もう少し声を潜めてもらいたいのだった。
書籍版11月15日に発売です。
また、新連載始めました。
https://book1.adouzi.eu.org/n6089fb/
下にリンク貼ってます。
タイトルをクリックすれば、作品に飛べますので、よろしければぜひ!
ではまた!




