98.善人、嫁たちに天気予報アプリの使い方を教える【前編】
いつもお世話になってます!
初雪が降った、その日の夜の出来事だ。
その日は、昼前には、雪がやんだ。
午前、午後と、子供たちはめいいっぱい、外ではしゃぎまくっていた。
晩飯を食べると、子供たちは、風呂に入らずにぐっすりと眠ってしまった。
話は子供たちを寝かしつけた後。
俺たち職員は、1階ホールに集まっていた。
明日からの打ち合わせをしていた。
ホールには、大型のこたつが3台ある。
俺たちは寒いからということで、こたつに足をツッコんでいる。
「というわけで、雪が降ったわけだが……」
と会議を始めたのだが。
「コレット! もっと端っこにつめてください! わたしのお尻が入りません!」
「十分詰めてるわよマチルダ。入らないのなら、無理にジロくんの隣に、座らなくていいんじゃないかなっ!」
エルフ嫁のコレットと、元受付嬢のマチルダが、左右で言い争いをしていた。
美しい金髪エルフと、愛嬌のある笑顔が特徴的な美少女とが、ポジションを取り合っていた。
というのも、こたつは大きいとはいえ、大人3人が、並んで入ることは難しい。
だからどっちが俺の隣に座るかで、ふたりが揉めているのだ。
「嫌です! ジロさんの隣が良いんです! コレットは隣の辺に行けば良いと思います!」
「それはできないわっ! ジロくんの隣はお嫁さんである私の場所だもん!」
とまあ、誰かが俺の隣に座るか。
それで揉めていて、会議にならなかった。
「いいなぁ……」
と正面に座る、猫獣人アムが、指をくわえている。
「……じろーさんは、人気者ですね」
アムの隣には、黒髪美女の鬼の母、桜華が座っていた。
この2人は、遠慮して場所を譲ったのだ。
問題はコレットとマチルダ。
どちらもが自分が自分が! と主張し合って、一歩も引かないでいる。
「ふたりとも。ケンカはしないでくれ。身内同士で争うのは良くないぞ」
俺が言うと、コレットたちはぴたり、と止まる。
良かったケンカをやめてくれて。
「じゃあジロくん。だれがいい?」
と、コレットが真剣な表情で聞いてくる。
「だれがいい……とは?」
「だから、マチルダと私、ここにいる人も含めて、だれがジロくんの隣がいいですかという質問です!」
ジッ……と嫁や恋人たちからの視線が、俺に集まる。
マチルダとコレットが俺を見るのはわかるが、なぜアムと桜華まで、真剣な表情になっているのだろうか……?
「それは当然じゃないか?」
と、俺の心を読んだかのように、隣から声がした。
そこにいたのは、紫色の髪をした、子供と見間違うほどの女性。
妖小人の大賢者、ピクシーだ。
眼鏡の奥から、先輩がにやにやとした視線を向けてくる。
「ここで誰が良いか、と明言することは、つまりこの中でだれに、1番に隣にいて欲しいと明言するのと同義だからね」
うんうん、と嫁と恋人たちが、いっせいにうなずく。
「なぜそうなる……? みんなが俺の隣にいて欲しいよ。みんな1番だ」
すると嫁たちが、照れて顔を赤くし、もじもじと身をよじる。
その姿を見て、先輩が苦笑する。
「ジローはほんと、優しいね。群れのオスには向かないタイプだ」
「けど! ジロさんのそんな優しいところ、わたし大大だぁ~いすきです!」
「ま、まあ……ジロちょっと優柔不断だけど、そういう誰も傷つけないところ……き、嫌いじゃないわ」
マチルダがまっすぐに、アムがやや変化球気味に、俺へ好意を伝えてくる。
「……じろーさん」
すっ……と桜華がその場から消える。
こたつ布団の下に、潜ったようだ。
「桜華どうした……? って、おい!」
なんか腰のあたりがもそもそするな、と思って下を見ると、桜華がそこにいた。
顔を真っ赤にして、目に♡を浮かべていた。
かちゃかちゃ……と俺のズボンを脱がそうとしている。
「桜華! いけないわ!」
「桜華さんがメロメロモードになってます!」
コレットとマチルダが、協力して、俺から桜華を引きはがす。
「なんてパワー!」
「もうっ、桜華さんずるいですよ! わたしだって我慢してるのにー!」
ギャアギャアと騒ぐこと数分後。
「みんな、仲良くしような」
「「「はーい……」」」
結局俺の隣は空けることにした。
俺から見て正面に桜華とアム。
右にコレットとマチルダ。
左に先輩、という布陣で、落ち着いたのだった。
「ふぅ……」
「お疲れジロー」
くす……っと笑って先輩が言う。
「先輩。わざとあおるようなマネ、やめてくれよ」
「わざとじゃないさ。事故さ事故」
「ホントか……? ならいいけど」
すると先輩が苦笑して、「ジローはほんと、人が良いよね」といって、顔を伸ばし、俺の額にキスした。
「! はいはい! ジロくん次は私!」
「ずるいです! 次はわたしですよね、ジロさん!」
コレットたちが手を上げて、どちらがキスするかで揉めていた。
「2人とも。話が進まないから。あとでな」
「「はーい……」」




