96.善人、エルフ嫁と朝の見回りをする
いつもお世話になってます!
桜華とその娘たちと、風呂掃除をした翌日。
早朝。
普段職員は6時に起きるのだが、俺はその前に動き出す。
ベッドから出て衣服を着込み、大人部屋を出る。
「……寒いなぁ、今日も」
俺がいるのは、孤児院の1階、ホール。
北側の壁はガラス戸になっているのだが、結露で真っ白になっていた。
と、それを見ていた、そのときだ。
「うわっ、真っ白だね、ジロくん」
背後から、女性の声がした。
振り返るとそこには、金髪のハーフエルフの少女が立っていた。
流れるような金髪に、深い青の瞳をした美少女。
「コレット。早いな」
「それを言うなら、ジロくんもでしょ」
コレットは苦笑しながら、俺の側に寄ってくる。
「こんな早くからどうしたの?」
「ん、まあ、ちょっとな」
自分からこう言うのを明かしていくのは、ちょっとどうなのだろうかと思ったので、言葉を濁す。
するとコレットが微笑む。
「先生の名推理を聞きたいかね、ジロくんや」
「ほう。聞きたいな」
コレットが目を閉じて、指をピンと立てる。
「朝、みんなが起きる前に、お部屋を暖かくておこうってことでしょう?」
見事ぴたりと、コレットが言い当ててきた。
「さすがコレットだな」
「いやいや、そんなたいした推理じゃあないよ」
ぴこぴこ、とエルフ耳が動く。
「ジロくんはホント、優しいね」
ニコッと笑って彼女が言う。
「そんなことないって。単に早起きして暇だっただけだよ」
「ふーん。毎朝このくらいの時間に起きてるような気がするんだけどなー?」
コレットが俺の目をのぞき込んでくる。
「バレてたか」
「ふふ、先生にはお見通しなんだぜ。ふふっ♪」
コレットが俺の腕に抱きついてくる。
「ジロくんが私の旦那様で、本当に良かった」
嬉しそうにそう言って、ぎゅーっと抱擁を強める。
腕にぷにっとした、柔らかな乳房があたる。
ふわりと甘い髪のにおいが鼻腔をくすぐった。
「ジロくんや。誰も見てないよ? 見てませんよ?」
んー♪ とコレットが唇を突き出してくる。
ついばむように、軽くキスを交わす。
「もっとねっとりとでいいのに」
不満げにコレットが、唇をとがらす。
「朝だからな」
「それもそうね」
その後俺は、コレットともに、朝の孤児院の見回りへと向かう。
見回りというか、朝起きて、寒くないように、色々と電源を入れていく感じだ。
まず、1階ホールの電気カーペットと、こたつの電源を入れる。
最近の子供たちは、起きてすぐ、このこたつに駆け込んでくるからな。
次に部屋の隅の加湿器の電源を入れる。
「ジロくん、部屋のあちこちにあるけど、これってなんなの?」
コレットが加湿器の前でしゃがみ込んで、俺に尋ねてくる。
「加湿器っていって、蒸気をふきだす機械だよ」
「蒸気? 湯気のこと?」
「ん、まあそんなところだ。この時期って空気が乾燥するだろ」
「そうねー冬の外って結構乾燥してるわ。走るとのどが痛くなるし」
「そうそう。だから乾燥防止。あと湿度を上げておくことで、インフルエンザ対策だな」
「いん、ふる?」
はてなにそれ、とコレットが首をかしげる。
「まあ風邪みたいなもんだ。湿度を上げておくと、風邪引きにくくなるんだよ」
「なるほどー。ジロくんは物知りさんですね」
コレットが立ち上がって、ニコッと笑い、俺の頭をなでる。
身長差があるので、彼女は背伸びをしていた。
「なんか昔を思い出すな」
「ね。でもあのときより、ずっとおっきくなってる。先生の身長を簡単に追い抜いて、まったくもう、頭撫でにくいじゃあないか」
ニコニコ笑いながら、コレットが俺の頭を撫でる。
その後、ホールを離れ、次は食堂の加湿器をつける。
この加湿器は、タイマー付いているのだが、切りタイマーしか付いてないのだ。
俺が地球で使っていた物が、そういうタイプだったのである。(ちょっと安い物を使っていたのだ)
「ジロくん。だんぼーはつけなくて良いの?」
「時間になると自動的につくんだよ」
「ほほう、だんぼーくんは優秀だね」
食堂を出た後、俺は孤児院2階へと向かう。
2階は吹き抜けになっている。
渡り廊下は、【コ】の字を左に90度、曲げたような形になっている。
渡り廊下には、それぞれ、辺ごとに【それ】がおいてある。
俺は【それ】の前にしゃがみ込む。
「ジロくんや」
「なんだいコレットくんよ」
しゃがみ込む俺の、コレットが後から覆い被さる。
その大きな乳房が、俺の頭の上に乗っかって、ぐにゅっと潰れていた。
ミルクに蜂蜜を入れて煮込んだような、蕩けるような甘いにおいがする。
「これはなに?」
「これは【石油ストーブ】だ」
俺はストーブを指さして言う。
小さめのドラム缶のような形をしていた。
「せきゆ? 車とかにつかうあの石油?」
「それそれ。石油を燃やして暖を取るんだよ」
俺はストーブの土台をチェック。
残量を示すメーターが付いているので、それで残りを確かめる。
まだ余裕があったので、補充はしないことにした。
「これもジロのくんの世界のものなの?」
俺はうなずく。
学生の頃、俺は雪国に住んでいた。
そこでは厳しい冬を乗り越えるために、色んな工夫がこなされていた。
石油ストーブもそのひとつだ。
一家に一台くらいは、あったような気がする。
「ふーん。学生時代かぁ。ピクシーと付き合ってたんだよね」
コレットの声が頭上からする。
顔を見なくてもわかった。
嫉妬の波動を感じたから。
「いや、前世での話だよ」
「コレットさんは2番目の恋人だったわけですね」
「違うって。この世界では一番。コレットが一番だよ」
「リップサービス?」
「違うって。信じてくれって」
その後数分間かけて、コレットをなだめた。
俺はマジック袋(【無限収納】が付与された袋。何でも入る)からチャッカマンを取り出す。
石油ストーブの【栓】をひねる。
「こうしてこの入り口のところに、チャッカマンをツッコんで、火をつけるんだ」
火が付いたら、ひねりをねじって、火加減を調整する。
「廊下がぽかぽかしていたのって、このストーブくんのおかげだったんだね」
ほわー、と感嘆の声を上げるコレット。
「使い方簡単そう。私にもやらして」
「ああ、いいぞ」
廊下においてある、残り二つの石油ストーブに、火をともす。
じんわりと暖かくなってくる。
「これで終わり?」
「まだまだ」
俺は次に、洗面所へと向かう。
ずらりと並ぶ蛇口たち。
俺はそれを、ひねっていく。
「何してるの?」
「水を出しているんだよ。寒いところの冬場って、水道が凍って水が出なくなるんだよ」
実際に、蛇口をひねっても、水がちょろちょろとした出てこなかった。
「へー、そうだったのね。ということは、ジロくんが毎朝、こうやっててくれたの?」
「冬になってからだよ。毎日じゃない」
ややあって、水のでが良くなる。
それを確認して、洗面所の加湿器の電源を入れる。
ちょうどタイマーが作動し、暖房が起動していた。
洗面所を出て、俺は今度は、子供たちの部屋へと向かう。
大部屋をふたつぶち抜いて作った部屋は、大きい。
ベッドが6つあり、それぞれ、子供たちがくぅくぅと寝息をたてていた。
布団から体を出している子供を、布団の中に入れる。
ごぉおお……と暖房が起動しているのを確認する。
「……ジロくん。今度は私に、カシツキの電源入れさせてっ」
「……ああ、いいぞ」
子供たちが起きないよう、声を潜めて会話する俺たち。
コレットは加湿器の前にしゃがみ込んで、俺が教えたとおり、電源を入れる。
しゅぅうう…………と蒸気が噴き出す。
「わっ、急に出たっ」
コレットがびっくりして言う。
「……コレット。声が」
「……おっとっと」
どうやら誰も起きてないようだ。
子供たちは1時間後くらいに起きるので、まだ寝かせてあげないとな。
俺はコレットともに、部屋を出る。
「わっ。お部屋の中、だいぶ暖かくなってきたね」
「あちこちで暖房動いてるからな。それに石油ストーブもつけたし」
俺はその後、2階の鬼娘たちが使っている部屋、そして赤ん坊のいる部屋へと向かう。
そこでも、子供たちの部屋と同じ操作をして、1階へと降りていく。
厨房には、桜華が立っていて、朝食の用意をしていた。
1階の水道は、起きてすぐに水を出していたので、普通に使えてるみたいだ。
俺たちは孤児院の1階、ホールへと帰ってきた。
「朝の点検は以上だ。あとは朝食の準備とか、掃除とか洗濯とかしてるよ」
「なるほどなぁ。ジロくんは毎朝、みんなのために色々やっててくれたのね。うーむ、ジロくん!」
バッ……! とコレットが両腕を開く。
「どうした?」
「先生が偉い偉いしてあげますっ。そこにしゃがんでください」
気恥ずかしかったが、俺は嫁の言うとおりにした。
コレットが笑顔で、俺の頭をぎゅっとハグする。
顔にとんでもなく、柔らかな乳房が押しつけられる。
くらくらするほど、甘いにおいが、鼻腔をくすぐった。
「でもジロくん。1人で何でもしようっていうのは、偉いよ。けど少しは、私たちにも手伝わせてね」
ぽんぽん、とコレットが頭をなでながら、優しい声音で言う。
「そうだな。次からはそうするよ」
「ん。そうするがよい。ふふっ♪」
そうやってしばし、コレットとイチャつくのだった。
書籍版、11月15日に発売です。
発売を前に、活動報告でキャララフを公開してます。
昨日はアムちゃんのイラストを公開しました。
明日はキャニスのイラストを載せる予定です。
次回もよろしくお願いいたします!




