95.善人、桜華と鬼娘たちと風呂掃除する【前編】
いつもお世話になってます!
子供たちと鍋を食った、その日の夜。
子供たちを風呂に入れて、寝かしつけた後。
俺と桜華は、裏庭にある露天風呂、竜の湯の掃除をしにいった。
季節は12月。
まだ雪は降ってないとはいえ、おそらく降雪は秒読みだ。
そんなふうに、気候が寒くなってきていたとしても、孤児院の子供たち、そして職員たちも、好んでこの竜の湯を使うのである。
そして竜の湯の掃除は、俺たち職員なのだ。
竜の湯の湯船の前、俺と桜華は立っている。
「さ、ちゃちゃっと掃除して、風邪引く前に帰ろうか」
「…………」
桜華がモジモジ、と体をよじる。
頬を染めて、うつむき、ちら……と俺に物欲しげな視線を向ける。
「どうした?」
「……いえ、なんでもありません」
はふん、と桜華が悩ましげな吐息をはく。
薄く口紅を引いた唇から、桜の花のような、甘いと息が漏れた。
「その割には表情が晴れないな。なにか悩み事でもあるのか?」
「……いえ、そういうわけじゃ。その、あの……」
桜華が頬を赤く染めて、潤んだ目を俺に向けてくる。
「……あの、じろーさんさえよければ、その、お掃除の前に、その、一緒に、その」
と、そのときだった。
「よぉ兄ちゃん! 一緒に風呂入ろうぜい!」
がらっ! と女子更衣室(竜の湯に隣接されている)のドアが開いた。
そこには長身長髪、髪の毛を武士のようにポニーテールにした少女。
鬼娘の一花が、立っていた。
……全裸で、何も身につけずにだ。
「い、一花っ! 前を隠しなさい!」
桜華が顔を真っ赤にして、注意する。
一花はニンマリ笑うと、胸を張ってどうどうと、俺に近づいてくる。
桜華の遺伝子を濃くついてでいるからだろうか。
一花の胸は、桜華に引けを取らないほどの爆乳だ。
たっぷんたっぷんと、乳をなびかせながら、一花が俺たちの元へやってくる。
「まぁまぁ、おかーちゃん。固いこというなうんじゃないさね。ここは風呂場。風呂には裸で入るもんだろ?」
「……それは、そうですけどっ! 男のひとが……じろーさんがいるんですよ!」
一花が俺を見て、にやりと笑う。
「兄ちゃんになら見られて全然おっけーさね? なんなら触ってもいいんだぜ? ほら触る?」
挑発するように、一花が俺の腕をつかんで、ぎゅっと抱いてくる。
恐ろしいほど張りのある、柔らかな肉が、俺の腕にあたる。
ふわっ……と南国のフルーツを想起させる、甘酸っぱいにおいがした。
「なぁ兄ちゃん。兄ちゃんに裸を見られてもう我慢できないんさね。風呂で一回戦といかないかい?」
情熱的な視線を、一花が向けてくる。
はぁふぅ、と熱っぽい吐息が、俺の産毛をくすぐっていた。
「……もう! もうっ! 一花! あなたって子は!」
桜華が顔を真っ赤にして、娘の腕を引っ張る。
俺から一花が離れ、あの独特の、むせかえるような甘いにおいが遠のく。
「……隙あらばじろーさんにめいわくをかけてっ!」
桜華が一花を前に、怒り心頭の表情を浮かべる。
「迷惑? そんなつもりは毛頭ないさね。兄ちゃんに気持ちよくなってもらいたい。純粋なサービス精神の発露さね」
「……そう言ってあなたは、じろーさんを押し倒すつもりだったでしょうっ?」
「なーんだばれてら。ちぇ、おかーちゃんは鋭いねぇい」
いたずらがバレた子供のように、一花が楽しそうに笑う。
「それで一花、どうしたんだ? 風呂掃除中って看板出しておいたはずなんだが?」
「ん、単純さね。お風呂掃除たいへんそうだから、あたしらで手伝おうかなって思ってさ」
すると更衣室の方から、残りの桜華の娘たちが入ってくる。
「いっちゃん、早いよう」
小柄で巨乳の次女・弐鳥。
「おじさま、こんばんわ♪」
「こんちゃー! 私たちも混ぜて-!」
おっとり四女の肆月。ボーイッシュな五女の風伍。
桜華の娘たちが、ぞくぞくと、俺たちの前にやってくる。
一花たちと同様、彼女たちは全員、
「……あなたたち、どうして全員、タオルを巻いてないんですかっ!」
鬼娘たちは裸身を惜しみなくさらしている。
恋人の娘とはいえ、うら若き乙女たちだ。
確か桜華は、娘たちは人間で言うと十代半ばくらいだと言っていた。
そんな女子高生たちの裸を、まじまじと見るわけには行かない。
彼女たちの肌を見ないよう、目線をそらす。
「だっておにーさんになら裸みられてもいーもん。むしろみてみてっ!」
「ええ、おじさま。どうぞ見てくださいまし。そしてお食べになるときは、ぜひともわたくしからっ」
「あ、ずっりー! ねっ、ねっ、おっちゃん! 私の見てムラムラしてよ! 一緒に楽しいことしようぜ!」
俺を前にして、桜華の娘たちが、惜しみなくその裸身をさらして、笑っている。
「……もうっ! あなたたち! 節度を守りなさい! じろーさんが困ってるでしょうっ?」
桜華が俺の前に立って、子供たちの裸を見せないようにする。
「ほほぅ」「節度か~」
楽しそうな、一花と弐鳥の声。
「……な、なんですか?」
すると一花が、
「末っ子ども。おかーちゃんを拘束するんさね」
「「はーい♪」」
四女と五女が、左右から、桜華の腕をつかむ。
「そんじゃー失礼して」
一花が桜華の背後に立つ。
母の衣服の下に、その長い腕をするり、と滑り込ませる。
「……な、なにするんですかっ! きゃっ! もうっ! どこを触ってるんです!?」
パッ……と一花が桜華から離れる。
「ねぇねぇ、いっちゃん。ママ、どうだった?」
「もう我慢できないってくらい、ぐっしょりさね」
一花がにやにや笑いながら、俺に手のひらを向けてくる。
その手は若干だが濡れていた。
桜華が耳の先まで、顔を真っ赤にする。
「もうっ! バカなことしてないで、部屋に帰りなさい!」
桜華が声を荒げて言う。
おしとやかな彼女がここまで怒るとは。本気で怒っている証拠に思えた。
「桜華。落ち着け。どうしたんだ?」
「……あ、や。な、んでもない……です」
怒気を沈めて、桜華が体をしゅん……と縮める。
もじもじ、と内股気味になっていた。
「兄ちゃん。おかーちゃんはさ、兄ちゃんとお風呂に入りたがってたんさね」
「あわよくばお外でニャンニャンって、したいんだーって、ママの体が言ってたんだよ~」
一花と弐鳥が言う。
桜華が「……ち、ちが」と弱々しく反論する。
「そんな物欲しげに否定しても無駄さね。よしみんな、おかーちゃんを真っ裸にしな!」
「「「がってんだー!」」」
俺の目の前で、桜華が娘たちから、衣服を奪われていく。
「きゃあっ! 何をしているの、あなたたち!」
「まあまあ」「動かないで動かないで~」「ショーツが脱がしにくいですわ♪」「やっぱお母さんのぶらでっけーわ」
あれよあれよと、娘たちが母の衣服を脱がしていく。
ややあって……。
「準備完了さね!」
「ママってば恥ずかしがり屋さんだね~」
くすくす、と娘たちが笑う。
その前に……桜華が立っていた。
彼女はタオルなど、何も身につけてなかった。
手で局部をかくし、きゅっと身を縮めている。
爆乳が、腕に押しつぶされて、ぐにゅっとひしゃげていた。
「……すみません、お見苦しい体を見せて」
桜華が消え入りそうな声で、つぶやく。
「あ、いや。そんなことないぞ。とってもキレイだ」
「……じろーさん」
潤んだ目で、桜華が俺を見やる。
「お母さまは、どうして恋人の前なのに、恥ずかしがっているのでしょうか?」
「わっかんねー。彼氏の前なんだから素っ裸になってもへーきじゃんね?」
ねー、と四女と五女が、顔を見合わせて言う。
「……バカなこと言わないでくださいっ!」
声を荒げる母に、しかし娘たちは悪びれなく笑っている。
「んじゃおかーちゃんも裸になったことだし、家族水入らず、風呂でも入って親睦を深めようかね」
「「「おー♪」」」
桜華の娘たちが母の背中を押しながら、湯船へと向かう。
「家族水入らずなら、俺、いない方がいいんじゃないか?」
すると一花が、きょとんと目を丸くして言う。
「何言ってるんさね。もう兄ちゃんはおかーちゃんの番いじゃないか。家族だよ、あたしらは」
ニカッと笑って一花が言う。
「そうか。そうなるな」
「そっ♪ だから兄ちゃん、ほらほら服脱いでおくれよ」
一花が俺のズボンに手をかける。
ぺろっ……と舌なめずりしながら、うきうきとズボンをはぎ取ろうとする。
「一花。更衣室で脱いでくるから」
「ん。りょーかいさね」
「あといくら母親が相手とは言え、無理矢理衣服をはぎ取るのはやめような」
「ん。それもわかってるよ。悪気はないさね。もどかしいお母ちゃんの背中を押しただけさ」
「わかってるなら良いよ。けど気をつけような」
俺は落ちてる桜華の衣服を拾い集めて、女子更衣室に服を戻し、男子更衣室へと向かったのだった。




