93.善人、アムと夜、布団(防寒済み)の中でイチャつく
いつもお世話になってます!
マチルダに部屋の中の暖房器具について教えた、数時間後。
夜。
俺は子供部屋へと向かい、子供たちがちゃんと眠れているのか、確かめに行く。
2階の子供部屋に入ると、かすかに暖かい空気を感じる。
しゅぅう……っと、【それ】がちゃんと動いていること。
そしてタイマーが発動して、ちゃんと暖房が止まっていうることを確認。
次に子供たちが布団から出てないかを確認する。
寝相の悪いキャニスとコンが、布団を押しのけていたので、布団を掛ける。
熟睡している子供たちをしっかりと確認した後、俺は部屋を出て、自分の部屋へと戻った。
孤児院1階、西側の大部屋。
ここが俺たち、大人が使う部屋である。
入ってすぐが共有のリビングスペース。ドアを開けて隣の部屋は、俺と……まあ、夜使う大きなベッドがおいてある部屋。
そのまた隣が、個室となっており、それぞれ嫁や恋人たちが使う部屋となっている。
嫁たちはすでに寝入っており、それぞれの個室で眠っている。
俺は自分の布団に入る。
すると……もそっ、と布団の中で、何かがうごめいた。
「なんだ?」
布団の中の誰かが、俺の体に抱きついてくる。
しゅる……っと腕に細長いものを巻き付けてきた。
肌触りから、これがケモノのしっぽであることがわかった。
「アムか?」
「……ん」
もそっ、と動くと、アムが布団から顔を出す。
くせのある赤髪、月のようにきれいな黄金の瞳が特徴的な、猫耳少女だ。
「……どこいってたの?」
じろっ、とアムがにらんでくる。
「子供たちのとこへ見回り。最近寒いからな。腹出して寝てたら大変だ」
「……そ。だからいなかったのね。気付いたら自分の部屋で、びっくりしたわ」
数時間前、アムと肌を重ねた後、彼女は安らかな眠りについた。
俺は風邪を引かないように、彼女のベッドへ運んだのだ。
「も、もしかしてパジャマ着せたのって、ジロ?」
顔を赤くして、猫耳をぴくぴくさせるアム。
「え、いや。コレットが着せてた」
「………………」
アムが不機嫌そうに頬を膨らませて、脇腹をつねってきた。痛い痛い。
「ばか。着せてくれて良いのに」
「いやさすがに嫌じゃないか? 寝てる間に、男に服を着せてもらうのって」
「……そりゃ、他人ならごめんよ。けど、ジロは特別だもん。ジロにならいいんだもん」
アムはぷいっと背中を向けてしまう。
けれど、機嫌は損ねてないと思う。
なぜなら、彼女の猫しっぽが、未だ俺の腕に、巻き付かれているからだ。
「ごめんな。次からはおまえがしたあと気を失って寝ちゃったら、俺が服着せるから」
「…………ん」
アムがチラッ、と俺を見てくる。
俺は意図を汲んで、彼女の体を、後から抱きしめる。
獣人だからだろうか。体温は高めだ。
眼下の赤髪からは、ふわり、と果実のような甘酸っぱい香りがする。
彼女のしっぽの動きがしゅるしゅるしゅる、と興奮したように上下する。
「ねえ、ジロ」
「ん? どうした?」
胸の中でアムが、くるっ、と向きを変える。
「お布団とっても暖かいんだけど、これってまたジロが何かしたの?」
アムが布団と、そして敷き布団の上にしいている【それ】を見て言う。
「ん。まあいろいろな。この国の冬って、すげえ寒いし、夜もとんでもなく寒いだろ?」
「……うん。だから去年とか、夜死ぬかと思った。目が覚めてまつげが凍ってたときは、さすがに命の危険すら感じたわ」
俺がここへ来るまで、孤児院は経営状態が悪かった。なにせ金貨1万枚の借金があるくらいだからな。
当然、冬の寒さをしのぐのも、一苦労だっただろう。かわいそうに。
俺はアムをぎゅっと抱き寄せる。
「辛かったな」
「……ん。まあ、みんなで肩を寄せ合って寝たし、コレットが頑張って、湯たんぽを一晩中ずっと取り替えてくれたから、なんとかなったけどね」
先生らしいなと俺は思った。
優しいあの子が俺の嫁になってくれて、嬉しかった。
「今年からはそれをしなくても大丈夫だぞ。色々作ったからな」
「ん。そうね、このお布団、とっても暖かくて、湯たんぽいらずね」
アムがぺたっ、と布団に触る。
「もこもこで、でも軽くて、でもとっても暖かいの。なにこれ?」
ふにゃり、とアムの目が、眠たそうに蕩ける。
「これは羽毛布団っていうんだ。中に鳥類の羽が入ってるんだよ」
俺は彼女の頭を撫でると、さらに気持ちよさそうに目を閉じる。
「へぇ、鳥の羽が入ってるだけで、こんなに暖かいのね」
「普通の鳥じゃなくて、水鳥の羽毛が使われてるんだ。それのおかげで軽くて暖かいんだよ」
「そう……なのね……」
くわーっと、アムが眠そうにあくびする。
「本当にあったかいわ。ジロのお布団。すべすべで肌触りも良くって、とってもきもちい……」
俺が地球で、大学時代、一人暮らししていたとき買った、少々お高めの羽毛布団を複製した。
俺は北海道にある大学に通っていたからな。寒冷地の夜はとくに冷え込むので、半端に安いものじゃなくて、割と高めのものを買っていたのである。
「気に入ってくれたか?」
「……ん。すごい。このお布団とってもいいわ」
もそもそ……とアムが胸の中で動く。
「……ずっとこのお布団の中で暮らしたい」
きゅっ、とアムが俺の体に抱きついてくる。
控えめな大きさの乳房が、ぐにゅっと潰れる。
「そうだな。できればそうしていたいな」
けど仕事がある。
朝になれば仕事に行かないといけない。
社会人の辛いところだ。
「……お布団、ジロの良いにおいがする。それに、ぽかぽかして気持ちいい」
アムが俺の首筋に鼻をつけて、すんすんとにおいをかいでくる。
「俺の体が温かいんじゃなくて、下に引いてるこれが暖かいんだと思うぞ」
「何敷いてるの? 毛布?」
シーツの上にそれが引いてある。
「これは電気毛布っていってな、寒い地方に住んでいると、結構重宝される代物なんだよ」
「でんき……? 家電と一緒なの?」
「ちょっと違うがまあ似たようなもんか。電気の力で暖かくなる毛布だよ」
「ふーん、電気って本当に色々使えて便利なのね」
先輩と同じ、北海道の大学に通っていた俺。
そこは毎晩、身も凍るような寒さだった。
だからホームセンターには、電気毛布が普通に売られていて、結構需要もある。
「あったかいけど、これ、火傷とかしない?」
「そうならないよう温度が調整されてるんだ。それにタイマー機能もついている」
「なるほど……。なら安心ね」
アムがもそもそ……と体を動かす。
「……ジロ。仰向けになって」
アムが俺を見上げながら、おねだりしてくる。
「了解」
俺は言われたとおり、仰向けになる。
するとアムが俺の体に、覆い被さるようにして寝る。
「この体勢好きだな」
「ん。だって……ジロを1番近くに感じるし。音とか、においとか、最高だから」
アムが俺の心臓に猫耳を当てる。
俺の鼓動に会わせて、ぴくぴく、と耳が動いていた。
すぅ……はぁ……とアムが息を吸い込んで、安心しきったような表情になる。
「電気毛布とお布団と、あとジロのおかげで……とっても暖かい」
猫しっぽが俺の太ももにしゅるり、と巻き付いてくる。
「あとお部屋も温かいわ。だんぼー? ついてるの?」
「ああ。寝る前に切れるように、タイマーが作動しているんだよ。それに加湿器もついてるから、風邪対策は万全だ」
部屋の隅で加湿器が動いている。
エアコンを含めて、俺がスキルで作った物だ。
「……ほんと、ジロがいてくれて、良かった」
すん……とアムが鼻を鳴らして言う。
「あなたがいてくれたから……こうして……冬でも、温かく……寝れる」
アムがふにゃり、と淡く笑う。
「ほんと、ジロの……おかげ。ありがとう……冬、快適に……過ごせそう」
アムがウトウトし出す。
まぶたがゆっくりと落ちていく。
「……ジロぉ。寝るまで……頭、なでなでして」
物欲しそうに、アムが言う。
俺はアムを抱いたまま、彼女の赤髪をよしよしと撫でる。
「……ほんと、あったかい。ジロ……。ぽかぽかして……。じろ……すき……」
ぺちょん、と猫耳とまぶたが、完全に落ちる。
すぅ……すぅ……とアムが寝息を立て始める。
「おやすみ、アム」
彼女のつるりとしたおでこにキスをすると、俺もまぶたを閉じた。
猫耳少女を抱きながらだったので、快適に眠れたのだった。
昨日も告知したとおり、書籍版11/15に発売します!
次回もよろしくお願いいたします!




