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エセ勇者は捻くれている  作者: 星長晶人
第二章 迷宮都市

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“狩り取る旋律”は噛ませっぽい

 メランティナの案内で無事宿屋を見つけることができた後。

 情報収集に回していた三人を見つけて風鈴亭へと集めた。


 一旦旅のために持ってきた荷物を置くためだ。荷物を担いだままでは動きも阻害されるからな。


 とはいえ一週間かけてディストールに来たので、目に見えず体感できない疲れがあるかもしれない。

 ということで、七人で集まってからは宿屋で就寝することになった。


 明日は冒険者ギルドの集会所に行って、ダンジョンの情報がないかを調べよう。


 俺も疲れていたのだろう、その日はすぐに眠りに着けた。


 ――そして翌日。

 ダンジョンの情報を後々で共有するのも面倒なので、全員で集会所へ向かった。ニアとミアだけを留守番させるわけにもいかないからな。


 そして集会所の扉を開けて中に入ったわけだが。


「ようこそ、ディストールのギルド集会所へ」


 にっこりと営業用の作り笑いを浮かべたミリカが出迎えてくれた。


「……えぇ! み、ミリカさん!? なんでディストールに!?」


 ユニが驚きながらもミリカへと抱き着いて予想よりも大分早かっただろう再会を喜ぶ。


「転勤になったんですよ。どこかの誰かさんが、人に言いづらい事情を隠してるので」


 彼女は抱き着いてきたユニを微笑ましく撫でながら、俺を見て言った。……俺が外套の剣士だとバレないようにするのに一役買ってくれるってことか。この街ではどうしようかと思ってたんだが。


「あっ、ミリカさん。あれ、その人達が知り合いってことは……」


 ミリカの同僚らしい女性が声をかけてきてこちらを見回し、やがて俺をじろじろと値踏みするように眺めてくる。


「……ふーん。この人があれ? ミリカさんが無理言って転勤までして追いかけてきたっていう――」

「……なんのことだかさっぱり、なにを言ってるのかわかりませんね先輩。裏でよぉーく話しましょうか?」

「照れちゃってもうっ。男を待ってたんでしょ? ならあの人しか」

「いいから少し黙ってください! あんまり適当なこと言うと怒りますよ!」

「えぇー?」


 怒って威圧感を出しているのはミリカなのだが、流石に冒険者の多いこの街で受付嬢をやっているだけはあるのか、全く暖簾に腕押しというかどこ吹く風である。


「……なんだ、想い人でもこっちに来てるのか」

「「「へっ?」」」


 俺がぽつりと呟くと、なぜか周りが驚いたようにこちらを見てきた。……なんだよ。


「……そういう話じゃなかったか?」

「……そういう話なんですけどそういう話じゃないというかあなたにだけは言われたくないんですけど」


 ミリカは頭痛がするように額を押さえている。俺はなにか間違ったことを言ったのだろうか。『観察』でも女心はわからないからな、間違えるのは仕方がない。俺が理解できないモノは『観察』してもわかるわけがないのだ。


「苦労するわね、ミリカ」

「……はい、ホントに」


 なぜか言い合いをしていた二人が仲良さげにしている。怒っていると思ったら落ち込んでいるようにも見えるのだから不思議だ。


「……本題に入りたいんだが」

「はいはい、わかってますよ。この街にあるダンジョンの情報でしょう?」

「……よくわかったな」

「はい、前の街でもダンジョンが目的だと聞いてましたからね」


 横から「それで一生懸命ダンジョンについて勉強してたのね」と言われて一瞬睨みつけるものの、すぐに作り笑いに変えて説明してくれる。


「今あるこの街のダンジョンは全五十階層からなります。過酷な環境はなく、パーティであれば平均ランクがCランク以上なら挑戦を認められます。クレトさん達はB二人、S二人、G一人の平均Bランク相当なので問題ないでしょう。しかし全五十階層ある内の四十五階層までは既に突破されていますので、数日中にどこかのパーティが攻略するでしょうから本格的な攻略は次のダンジョンからになるかと思います」


 今は五十階層のダンジョンか。しかし九割方突破された後、と。流石に今からでは追い越すのは無理だろうな。


「ダンジョンはパーティ内で誰か一人でも途中まで突破していればその階層までワープできますが、誰も突破していない場合は第一階層からの攻略になります。流石のメランティナさんでも一から五十まで突破するのを他のパーティより早くは、無理だと思いますので。まずはダンジョンに慣れることから始めるといいと思いますよ」


 ダンジョンに慣れる、か。ダンジョンは地下にあるなら狭い通路内で戦闘になる可能性が高いからな。そういう普段戦わない場所で戦う感覚を養った方がいいのか。


「おいおい。さっきから聞いてりゃなんだ、嬢ちゃん。どこかのパーティだとか他のパーティだとかよ。はっきり言えよ、今のダンジョンを攻略するのは俺達“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー”だってな」


 せっかくミリカから説明を受けているというのに、割って入ってきたヤツがいた。……またあのダサい名前の連中の一味か。

 俺がうんざりしながらそちらを見ると、二メートルはある巨漢が立っていた。銀の短髪で身体中に刻まれた傷跡と全身から放つ猛獣のようなオーラが歴戦の猛者であることを物語っている。背に負っているバカでかい大剣が武器だろう。


「……。いえ、まだ確定していませんのでギルドとしても不確定な情報を他の冒険者にお伝えするわけにはいきません」


 ミリカもうんざりしたような顔を一瞬するが、いつもの作り笑いできっぱりと告げた。


「はっ! “まだ”攻略してねぇ、ってだけだろ。前のダンジョンもその前のダンジョンも、俺ら“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー”が攻略したんだ。もうディストールでトップクラスのパーティ、じゃねぇ。ディストールトップのパーティなんだからよぉ」


 凄い自負心だな。わざわざこれだけでかい口を叩くのだから相当強いのだろう。


「あら。随分見ない内に大口を叩くようになったのね、ベルゼド。私にボロ負けしてた頃のあなたなら泣いて逃げ出したでしょうに」


 しかしメランティナが嫌に冷たい声音で笑った。冷笑というヤツだ。どうやら顔見知りのようである。


「はっ! メランティナか。いつまでもそうやって過去に縋ってろよ。もう俺はとっくにてめえを超えた。今ならてめえの死んだ夫の代わりにてめえの持て余した身体を慰めてやってもいいんだぜぇ?」


 にやにやと彼女の身体を舐め回すように見るベルゼドというらしい男。


「お断りよ。図体と口だけ大きな男なんて」


 いつになく言葉に棘がある。下品な物言いをするからだろう。しかしこいつは本当に強いのだろうか。あの白い悪魔や勇者ほどの力を感じない。メランティナより強いと自負するくらいだから奥の手ぐらいあるだろうが。クリアやナヴィよりも弱そうだ。


「……ミリカ。説明の続き、いいか?」


 まぁこいつはメランティナに突っかかっているようなのでその間に説明をしてもらおうと声をかける。


「おいてめえ。なに俺を無視してんだ!? メランティナや黒魔人に戦わせてヒモってるだけの不能野郎がよぉ!」


 なぜか急に俺の肩を掴んで睨んできた。……なんだそれ。まだこの街に来て二日目なのに、どんな噂が立ってるんだか。


「……説明に割り込んできて勝手に喧嘩売ってこないでくれるか。あっち行ってくれ」


 邪魔だから。

 俺が鬱陶しそうに告げると、ベルゼドの額に青筋が浮かぶのが見えた。そしてミリカがしてやったりという顔で笑っているのも見えた。……ああ、こいつが調子乗った冒険者か。もしかしてわざとこいつが釣れるような言い方をしたんじゃないだろうな。これだから女は腹黒くて嫌なんだ。


「この俺を誰だと思ってやがる!」

「……“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー”のベルゼドだろ、さっき聞いた」

「嘗めてんのかてめえ! ぶっ殺すぞ!」


 うわ、凄い物騒だ。元の世界なら「……すんません。今財布にこれしかないんで」とかぼそぼそ言いながら金を差し出しただろうが、異世界に来た今ならそんなに怖くない。話の通じないモンスターの方が怖いまである。


「ふぅーっ……。いや、いいこと考えた。てめえは殺さないでおいてやる。代わりにてめえの周りにいる女は貰う。てめえの前で好き放題ヤってやるからよぉ」


 下卑た笑みを浮かべて笑う。……俺に寝取られの趣味はないぞ。別に俺の女ってわけじゃないんだが。ニアとミアには手を出さないでくれれば後は自分でなんとかするだろ。


「……そうか」


 こいつに彼女達が負けるとも思えない。勝手にやって返り討ちに遭えばいいと思う。


「てめえふざけてんのか! ……まぁいい。ならお望み通りてめえの女は貰ってくからなぁ!」


 そう言ってベルゼドは俺の右手の先、ミアのいる方に手を伸ばしてきた。

 俺は瞬時に腰から剣を抜き放ち、全身の傷跡に沿って死なない程度に切り刻んでやる。……やっぱり身体能力上がってるな。レベル制じゃないんだが、悪魔との戦いを経て俺のステータスが上がったんだろうか。


「が、ぐっ……なっ!」


 呻いて尻餅を着いたベルゼドは、なにが起きたかわかっていない様子だった。目を丸くして血を払い剣を収める俺を見上げている。


「……なんだ、口ほどにもないな」

「て、てめえ! なんのイカサマを……!」

「……イカサマもなにも、ただ切り刻んだだけだが?」

「……」


 俺が応えると、ベルゼドは口をぽかんと開けた間抜けな顔で黙ってしまった。


「……俺、なんか間違ってたか?」

「間違ってないわ。でもクレト、前より強くなってない? 私は目で追えたけど」

「オレなんか十回目までしか追えなかったぜ。流石は師匠だ」


 メランティナとナヴィが言ってくる。……俺も不思議だ。昨日といい今日のこれといい、一度ステータスを見直しておくか。


「流石はクレトさんですね。やっぱりSランクの昇格受けた方が良かったんじゃないですか?」

「……いや、あんまり目立ちたくないし」

「今の状況を見て、もう一度言ってください」


 ミリカに言われて周囲を見渡し、多くの冒険者が今の一幕を見ていたと悟った。……ヤバい。俺としたことが異世界に来て浮かれてしまってたんだろうか。ここまで目立つ事態になってしまうとは。


「……今のをクリアがやったことにすれば」

「クレトが切り刻んだ、って言ったんですよ?」


 ……でしたね。


「……まぁ、いいだろ。あんたそんなに強くないんだろ? だったらチンピラを倒すくらいの感覚になるから――」

「彼はSランク冒険者ですね」


 俺は全身を切り裂かれて血を流すベルゼドに言うも、それをミリカに切って捨てられた。


「……冗談じゃなく?」

「はい。彼はれっきとしたSランク冒険者の一人ですよ。“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー”のメンバーでも四人しかいない内の」

「……それはやらかしたな。Sランクってのはメランティナやナヴィぐらい強いもんだと思ったんだが」

「メランティナさんと比べてはダメですよ。全盛期はあの街のギルドマスターと共に神級クエストをこなしたこの世界でも屈指の強さを誇る冒険者ですから。ナヴィさんも黒魔人赤種ですからね」


 俺が言うとミリカに苦笑されてしまった。……そうか。Sランク冒険者の中でも差が出るのは仕方がないのか。そういやSランクでも千年級や神級に挑むことのできる冒険者は限られるとか最初に説明してくれてたような気がする。


「……そうか。それは悪かった。Sランクがそんなに弱いとは思ってなかったんだ。まぐれだと思って気にしないでくれ」


 俺は謝りながら彼に手を差し伸べる。ベルゼドはわなわなと震え出し、俺の手を払った。


「てめえ! 今ので俺が本気だと思うなよ! 絶対後で殺してやる!」


 そして起き上がるとそのまま集会所を立ち去っていく。……負け惜しみが強いな。もちろん、俺が傷に塩を塗るようなことを言ったのはわざとだが。『観察』のできる俺があれくらいわからないわけがない。


「……俺も別にスキルは使ってないんだが。まぁいいか。ミリカ、説明の続きを」

「はい、クレトさん」


 とりあえず逸れてしまった話を戻す。ミリカは思い通りにことが進んだからか晴れやかな笑顔を浮かべていた。作り笑いではなさそうなので、本当にあいつがいなくなってせいせいしているのだろう。


「今のダンジョンはそろそろ攻略されそうなのでダンジョンに慣れましょう、というところまで説明したと思います。ダンジョンは基本閉鎖的な空間です。思い切り力を振るえない場面も多々あります。狭い通路内での戦闘も多いでしょう。更に罠もあります。『罠感知』は必須スキルと言えるでしょうね」


 罠か。ダンジョンならあるだろうな。しかし俺は今のところ持っていない。誰か持っている冒険者のを『模倣』するか。


「万が一罠にかかってもそれを打破するだけの対応力も求められます。例えば毒霧が噴射される部屋に閉じ込められた、などですね。そこで解毒の魔法を使えれば難なく突破できます」


 回復ならクリアかユニが持っている。俺も二人から『模倣』させてもらえば問題ない。


「後はモンスターへの対応力、ですかね。ダンジョンでは様々なモンスターが出現します。環境はほとんど一定とはいえ炎に強いモンスターがいる階層と、氷に強いモンスターがいる階層とがあったり、たまに両方のモンスターが同時にいたり。後者はもっと難易度の高いダンジョンでなければないケースらしいですけどね」


 弱点属性が異なる、などモンスターに対しての対応力か。他にも物理が効きにくいとか魔法が効きにくいとか、斬撃武器が通りにくいとか色々とあるのかもしれない。


「特に狭い場所で戦うことへの慣れは必要だと思います。ダンジョン内は一応明かりがありますが、松明を一本持っておくといいですよ。暗闇の罠にかかった時とか、そういう場所があると厄介ですからね」


 他には辺りを照らす魔法などがあるといいと思います、とミリカが言った。


「……なるほど」


 これで大体わかった。兎にも角にも、ダンジョンという場所に慣れることを先決に今のダンジョンは見送る。次のダンジョンから最前線を競い合うように攻略していく。この方針がいいようだ。


「……じゃあそれで行くか。メランティナはダンジョンに入ったことがあるのか?」

「ええ、あるわよ。私は後回しでもいいけど」


 それは良かった。メランティナも慣れさせないといけなかった場合、ニアとミアをどうするかという問題が出てくる。


「クレト。一つ、提案なんだけど。二人も冒険者にしてはどうかしら」

「……なに?」


 二人というのは、あれか? ニアとミアのことか? それはいけない。二人を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


「……がんばる」

「ぼうけんしゃ!」


 しかし当の二人はやる気になっていた。……しかしな。


「渋る気持ちはわかるけど、さっきのこともそうだけど目の敵にされた時ある程度戦えた方がいいわ」

「……そう、か」


 確かに二人に宿で待ってもらって、俺達がダンジョンに行っている間二人が誘拐されましたでは話にならない。それなら一緒にダンジョンへ入った方がいい、のか?


「それに二人は悪魔の襲撃があってからクレトの力になりたい、って戦い方を教えて欲しいって言ってきたのよ。それなりに戦えるわ。後は実戦あるのみ」

「……そう、だったのか」


 俺はメランティナに言われて、俺の服をぎゅっと掴み見上げてくる二人へ目を向けた。


「……くれと、まもる」

「まもる!」


 どうやら二人は俺のことを守りたいようだ。……こんなに小さいのに、立派なことだ。


「しばらくは私が二人のことを見てるから大丈夫よ」

「……わかった」


 俺はため息交じりに言った。


「……ありがと」

「うれしい!」


 ニアとミアが笑顔を見せてくれる。……守らなければ、この笑顔。


「……その代わりに、無理だけはするなよ」

「……ん」

「わかった!」


 俺は二人の頭を撫でてそれだけは言っておく。

 ということで、ニアとミアも冒険者登録をした。その後メランティナは二人のために装備を購入すると言って三人で別行動になる。

 クリアとナヴィにはユニと一緒にダンジョンへ行ってもらう。連携というモノを覚えることと、クリアとユニの冒険者ランク上げのためだ。


 俺は冒険者ギルドに『罠探知』のスキルを持った冒険者を紹介してもらってその人物と会うために、風鈴亭へと戻ってきていた。

 ……ここにいる、“狩り取る旋律メロディ・ザ・リッパー”に並ぶと言われるパーティの一つにいる冒険者を訪ねるためだ。あまり新たな人と関係を持ちたくはないが、ダンジョン攻略に必要なことなので仕方がない。精々クリアやナヴィのように懐かれないよう『嫌われ者』になるとしようか。

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