ユニはトラウマを繰り返す
お久し振りで、申し訳ないです
しばらくこんな感じで更新します
あと、ライト文芸賞ですが、一次突破してました
まさか人生初一次突破作品がこれになるとは、思ってなかったんですけど(笑)
ユニの目の前で、一人のユニコーンの獣人が死に絶えた。
「ああぁ……!」
濃い青の大きな垂れ目を恐怖に染めて、悲痛な声を漏らす。
目の前で息絶えたユニコーンの獣人は、外傷という外傷はなく倒れて、動かなくなる。
神聖かつ重要な部位、角を折られたのだ。
角が折れて力を失うのは、何もユニコーンの獣人だけではない。ユニコーンやバイコーン、その獣人と契約者もそうだ。もっと言えば、一角獣と二角獣である二種以外にも、角が重要な役割を果たしているモンスターや獣人は多く存在する。色魔人も角が折れると力が半減するという言い伝えがある。
しかしユニコーンやバイコーンは、他の有角種の比ではない。それ程に角が重大な部位となっている。
角の破壊。それは死に直結する。
昔こそユニコーンやバイコーンを討伐し、様々な用途がある角を採集するクエストがあった。しかし、その結果急激に数を減らし、世界で採集禁止素材に定められる事となる。
しかしその採集禁止素材に定めるという行為が生んだ結果は、無惨なモノだった。
密輸。
それこそが討伐を禁止された今でも、ユニコーンやバイコーンが絶滅危惧種である理由の一つだ。
禁止されているからこそ、その価値は跳ね上がる。世界には、善人しか居ない訳ではない。悪人も居れば、善人だったが金が必要になって手を染める事もあるだろう。
第一何が善で悪なのか、その定義さえも曖昧だというのに、この議論は意味がないだろう。
ユニコーンの獣人とは、ユニコーンの力を持った、今ではほとんど居ない獣人の一種である。前頭部に生えた純白の角が特徴的だ。
そして、その希少価値はかなり高い。下手をすれば最強の色魔人、その黒魔人赤種であろうと、希少価値で言えば劣るかもしれないぐらいだ。
密輸が流行るというモノだろう。
その結果、絶滅危惧種となったユニコーンの獣人は、小さな村を造って静かに暮らしていた。種族の中でもそれなりに力を持つ彼らだったが、あまり攻撃的ではないのが災いした。
それが、今ユニの目の前で起こっている現象だった。
ユニが暮らしていた故郷は、ユニコーンの獣人の村だった。
しかし、ある日盗賊に襲撃された。盗賊からしてみれば、最近手に入れた凶悪な武器を試そうと手身近に会った村を襲っただけだった。その村が偶然、ユニコーンの獣人が暮らす村だったというだけの話だ。
結果、防護結界を張っていたユニの村は、盗賊が手に入れた武器によって破られ、なす術もなく蹂躙された。
「……い、いやぁ……!」
ユニの大きく見開いた瞳から、涙が流れ出す。
「おっ? こいつ、上玉じゃね? 売ったら金になんねえかな」
ユニを見つけた盗賊は、近くにいた他の盗賊に声をかける。人を殺しているというのに、何とも思っていないような軽い口調である。
盗賊団は皆、利き手に武器を携えている。剣や槍、弓など形は様々であったが、それらから盗賊達の身体にチューブのようなモノが伸びていた。腕に突き刺さっているモノが多く、時折ドクン、と何かを吸い上げている。
「バカ言え。角売った方が高いに決まってんだろ」
しかし声をかけられた方の盗賊はユニの肢体を一瞥しただけで、興味もなさそうに言った。
「そっかぁ。マニアックなヤツに高値で売れると思ったんだが」
「まぁな。けどよ、ユニコーンの獣人だぜ? 俺らみたいなヤツが狙ってくんだろ。その危険性を考えれば、買おうとするヤツも居ねえさ」
ならしょうがねえな、盗賊二人はそう会話した。声をかけた方の盗賊が、ユニの額から伸びる角を掴もうと手を伸ばしてくる。
「っ……!」
恐怖に支配されたユニの頭に、誰かの声が響いた。
――逃げろ!
誰の声かは分からない。それでも、絶望するだけのユニに僅かな活力を与えたのは確かだった。
……逃げなきゃ!
ユニは、逃げた。
死の恐怖に怯える身体に鞭打って、逃げた。
盗賊の「おっ? 鬼ごっこか?」という軽い声を無視して必死に、逃げた。
ユニは必死に、周囲の惨劇には目もくれず、逃げる。
――止まれ。
何かの声がユニに語りかけてくる。ユニは何故、と思う前に足を止めていた。
「……あ」
ユニはここがどこなのか顔を上げて確認し、今いる場所を確信した。
目の前に、この村の象徴であるホーンペガサスの石像があったからだ。何故ユニコーンの獣人なのにペガサスなのか。それは、一角獣と天馬という二種の聖なる馬が存在して、それらをかけ合わせた上位種がホーンペガサスだからだ。
――我と契約せよ、ユニコーンの仔よ。
ホーンペガサスらしき声がユニの頭に響く。
……何で、私なの……?
ユニは尤もな疑問をぶつける。
――汝が、最後の一人だからだ。
「……えっ」
ユニは声に対して、思わず声を出してしまった。声の言っていることが本当なら、ユニ以外のユニコーンの獣人は既に息絶えていることになる。
「そ、そんな……っ」
ユニは愕然として、その場に崩れ落ちてしまう。
――我と契約せよ。
そんなユニの心情を知ってか知らずか、再度同じことを繰り返す声。
「へへっ、見つけたぜ」
ユニを追いかけていた盗賊が、イヤらしい笑みを浮かべて追いついてきた。他の盗賊達もいる。どうやら本当に、声の言う通り、ユニ以外の村人達は殺されてしまったらしい。
「こいつで最後か」
「へい、ボス。さっさと殺っちまいましょうぜ」
右目に傷のある強そうな盗賊が言うと、周囲の盗賊が頷いた。
……この人達が、お父さんやお母さんを……。
――そうだ。この者達が汝の大切なモノを奪った略奪者達だ。
ユニの中に黒い火種が宿り、声が同調する。
「待て。逃げられないよう、甚振ってからにしろ」
ボスが下卑た笑みを浮かべて命じ、盗賊達がジリジリと近寄ってくる。
「悪く思うなよ!」
一人がユニの脚を、持っている異形の剣で切り裂く。
「いっ……!」
切断はされなかったが、これまで平和に暮らしてきたユニにとっては、凄まじい激痛だった。
――我と契約せよ、ユニコーンの仔よ。さすれば汝に力を与えよう。
痛みと共にこいつらが大切な人達を殺したのだと、怒りがフツフツと沸き上がってくるユニ。そこに、声が力の誘惑を放り込んでくる。
……力。
――そうだ、力だ。汝の種族が滅びれば、我も危うい。汝の敵を滅ぼすのだ。
声はあくまで、自分の危機を回避するために、ユニに力を与えると告げる。
「へへっ。ボス、こいつ結構な上玉ですぜ。少し楽しんでからでもいいんじゃねえっすか?」
怯えた様子のユニに対し、嗜虐心を得たのか一人が言った。
「……まあ、角に傷つけなきゃいいだろ」
ボスは呆れた様子で言いながらも、自身もニヤリとした笑みを浮かべていた。
「おらよっ!」
一人が徐にユニの服を掴んで、力任せに破る。ユニは露わになった胸を覆う晒を見て、羞恥に頬を染める。ユニは身体や顔こそ幼いが、胸の発育だけは大人顔負けだった。
――契約せよ。
声が告げる。もう、ユニには猶予がなく、心に余裕もない。周囲から伸びてくる男達の手に、恐怖が映る。
……契約する。だから力を、こいつらを殺す力を!
ユニは初めて、恐怖と共に殺意を抱いた。家族を、友人を殺した盗賊団が許せない。
――契約開始。汝に力を与えよう。
声がユニの怒りに反応する。すると、ユニの身体を神聖な光が覆った。
盗賊団は口々に困惑の声を上げる。
光がユニの傷を癒していく。脚につけられた傷も、逃げる間に知らず知らずの内についた傷も。全てが神聖な光によって、蒸気を上げながら消えていく。
「チッ! 殺せ!」
ボスが命じ、盗賊達は各々に武器を構える。
「……邪なる罪深き者達よ」
幼いユニの声と、先程までユニに語りかけていた声が、ユニの口から重なって発せられる。
「聖なる裁きを受けよ――」
ユニの身体から光が溢れ、周囲に広がっていく。
「なっ……あがあああぁぁぁぁぁ!!」
その光に触れた盗賊が、消滅していく――いや、蒸発していた。
「ひっ……!」
怯えて逃げ出そうとするが、容赦なく光は盗賊達を襲う。
盗賊団全員が蒸発するまで、ユニの周囲には阿鼻叫喚が響いていた。
ここまでが、ユニの最大のトラウマ。
大切な人達が殺され、殺したヤツらを自分が、死体の欠片も残さず殺した。
それがユニが抱える心の闇だった。
しかもそれが、ユニの周囲で延々と繰り返されている。
これが白い悪魔の能力の効果であった。




