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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第五章 内廷侍女

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68.リユニオン

 一年の最終月、雨期の九月もいよいよ下旬となった。

 晴れて王妃付きの侍女になった私は、国王と王妃の寝室に繋がる王妃の私室で、パレスナ王妃の相手をしていた。


 ブロンドの髪を結い上げて、後宮時代よりも幾分か豪華なドレスに身を包んだパレスナ王妃は、ただいま語学の勉強中だ。

 王妃に必要となる言語は、世界の中枢『幹』の世界共通語と、隣の大陸ハイリンの言語。そのうち、世界共通語はすでにおおよそ習得しているということで、今はもう一つの方のハイリン語を学んでいる。


 語学の教師はまだ都合がついていないということで、後宮時代に引き続き、暫定的に私が教師役をやらせてもらうことになっていた。

 私の前職である冒険者、庭師は熟練すると世界を巡る仕事内容になるので、言語習得能力は必須だ。当然、私は隣の大陸の言語もマスターしている。

 そんな私が教えることに、パレスナ王妃も不満はないようだ。


 正式な教師はおそらく、王族の誰かが担うことになるだろう。

 語学だけでなく、農学や化学の高度な教育も、パレスナ王妃が王族になった以上必要になるからな。

 ちなみに、王妃としての立ち居振る舞いなどの教育は、後宮の仲間だったミミヤ嬢が担当をすることになっている。彼女の生家、バルクース家は過去に何度も王妃を輩出していることで有名らしい。

 古い家だけあって、王妃に選ばれる機会も多いのだろう。この国の王族は恋愛結婚派だから、バルクース家に伝わる恋愛術とかもありそうだな……。


「言葉の成り立ちについて説明します。世界共通語が、全ての言語の基になっています」


 私は、隣の大陸の言葉、ハイリン語でゆっくりと話す。

 聞くことで言葉を耳に馴染ませるのだ。リスニングってやつだな。内容は一割も理解できればいい方だろう。


「その言葉が、二千年の間に変化しました。言葉が地域ごとに枝分かれをしたのです」


 授業の場には、パレスナ王妃だけでなく侍女の面々もいる。後宮から引き続きのフランカさんとビアンカの親子。そして、新しく王妃付き侍女になったメイヤら三名。そして私と、本日休みを取っている一名の計七名がパレスナ王妃の専属侍女だ。


「アルイブキラの言語は、隣の大陸の言語、ハイリン語から約八百年前に分かれました。文法はほぼ同じです。似通った単語も多いです。しかし、八百年は長いです。言葉がすでに方言と言えないほどまで変わりました」


 侍女達にも是非ハイリン語を覚えてもらいたい。外遊で隣の大陸まで行く機会は今後増えるだろうから、侍女が随伴できないと困るからな。まあ、四人の新任侍女は、そういう条件で選ばれた面子のようだが。


「言葉は月日で変わるものです。パレスナ様は、以前、天使のネコールナコールと会話しましたね。聞き慣れない言葉があったのではないでしょうか。彼女は、八百年前のハイリン語を会話に混ぜます。つまり、彼女も現代のアルイブキラ語を覚えている最中です」


 自分の名前を呼ばれてパレスナ王妃が首を傾げる。ハイリン語を聞き取りきれていないのだろう。いきなり会話の応酬をしろとは言わないから、とりあえず聞き慣れることだ。


「一方、『幹』の言葉、世界共通語は二千年の間変化していません。支配者の女王蟻、女帝蟻が長寿ですから、彼女達は同じ言葉を使い続けています。そして、世界共通語なので、蟻人達は言葉が変化をしないように努めています」


 新任侍女達は、どうやら私の言葉を聞き取れているようで、興味深げに話の内容を聞いているようだ。

 フランカさんとビアンカは、頑張ろう。ビアンカはまだ若いから、言葉に馴染むのも早いのではないだろうか。


 その後も私は、ゆっくりとハイリン語を話し、リスニングを終えた。


「以上です。今度は文字を追いながら、同じ内容を聞いていきましょう」


 私は幻影魔法で空間に文字を投影する準備をする。録音魔法で話していた言葉は録音済みなので、それを流すだけのお手軽作業だ。

 と、そのときだ。部屋にノックの音が響く。


 パレスナ王妃が「入ってもらって」と促すと、扉の近くで椅子に座っていた侍女のメイヤが立ち上がり、そっと扉を開ける。

 そこにいたのは、王宮女官だ。侍女とはまた別の制服を着込んでいる。主人に仕える侍女とは違い、事務方などを担当する女性官僚である。


 その女官がメイヤに促され私室に入室する。

 そして、女官は淑女の礼を取り、パレスナ王妃と軽く挨拶を交わすと、ここに来た理由を話し始めた。


「先王陛下がお目覚めになりました」


 ふむ。先王とな。目覚めたとは、ただ寝坊したというわけではないだろう。先王は病気のため、おそらく昏睡状態になっていたか何かしていたのだろう。

 病気を理由に退位した先王。今の国王や王妹のナシーとは庭師時代からよく顔を会わせていたが、先王とはほとんど面会したことがなかった。

 この間、王宮の儀式の間で行われた婚姻の儀式でも、先王の姿は見られなかった。国王とナシーの母親である王太后おうたいごうはいたようだが。

 先王が実際に、どのような病気なのかは私は全く知らないのだが……。


「新年を前にお目覚めになってよかったわ。結婚の報告をしなくてはならないわね」


 先王の状態を知っているのか、パレスナ王妃がそう言う。

 対する女官は、言葉を続けた。


「そこで、先王陛下が王妃様との面会を希望なさっています」


「わかったわ。いつ頃ご都合がよろしいかしら?」


「あの、それが……先王陛下が直接この部屋にお訪ねになるそうです」


「あら、そうなの」


 訪ねてくるって、病気で寝込んでいたんじゃないのか?

 そう思っていると、力強いノックの音が部屋に響いた。


「パレスナ! 入るぞ!」


 そして返事を待たずに扉が開いた。


 そこにいたのは、巨漢の男だった。顔は、数年前に見た先王の面影がある。

 その男の尋常ではない様子に、私は思わず息を飲んだ。男の体の節々から、枝が生えているのだ。そして、肌のところどころが樹皮で被われていた。


 樹人化症。

 彼はそう呼ばれる病を発症していた。


「陛下! 部屋に入る際は、返事を待ってからと言っていますでしょう! 女性の私室ですよ!」


 女官がぷんすかと男に向けて怒る。やはり彼が先王のようだ。


「がはは、気が逸ってしまったわ!」


 そんなやりとりを行う間にフランカさんがさっと動き、女官と先王のもとへと椅子を運んだ。


「おお、これはすまなんだ。しかしのう、この病になって以来、体重がとんと増えてな。座ると椅子が壊れてしまうかもしれん!」


「問題ありません。侍女のキリンも座れる頑丈な作りとなっています」


 私が基準かよ。いや、まあ確かに成人男性の倍は重い私基準にすると、頑丈さの基準として解りやすいんだろうが。


「キリン! キリン殿か! 王城の侍女になったと以前息子から聞いたが……おお、キリン殿ではないか! 俺だ! バンナギータだ!」


 先王がこちらに向けて手を振ってくる。そこまで主張しなくても、あんたが誰かくらいわかるよ。


「先王陛下、お久しぶりです。パレスナ様付きの侍女となりました、キリンです」


「うむ! こうして顔を合わせるのはいつ以来か……」


 先王には、竜退治の勲章を貰ったりと、式典の場で顔を合わせていた。そこまで親しくしていたわけではないが、顔見知り程度の面識はある。

 本来、庭師の仕事をするうえで、国家間移動をするには王城地下にある設備を使う必要があった。だが、私は住処である魔女の塔に世界樹トレインの隠し駅を持っているから、移動目的では王城にそこまで通っていなかった。式典以外で城に行く機会があったとしたら、それは現国王と会うためだろう。彼は私の昔からの親友だからな。


「息子と娘がよく世話になったようだが……そうか、今は義理の娘の侍女となったのか。よろしく頼むぞ!」


「はい、お任せください」


 私がそう頷くと、先王は葉のついていない枝を揺らしながら椅子に座った。

 椅子はきしむ音すらならさなかった。


「しかし、キリン殿が侍女か……俺が冬眠する前はなにやら魔王退治に行くとか聞いていたが……」


「冬眠、ですか?」


 思わず聞き返してしまう。え、冬眠するの樹人化症って。


「ああ、秋が深まって枝から葉が落ちるとな、ものすごく眠たくなるのだ。そうして春までずっと眠る。まさしく冬眠だ!」


「樹人化症についてはあまり詳しくないのですが……大変ですね」


 秋と春の間には、冬期と雨期の二ヶ月間、計八十日が存在する。その間、何も活動できないともなれば本当に大変である。


「だが、冬眠する以外は調子がよいのだ! この病は、世界樹と自分が繋がりすぎた結果起きるもの。世界樹から絶えず力を与えられるのだ。病と言えど冬以外仕事はしっかりできるのだ」


 そうなのか。世界樹と繋がりすぎると起きるって、気功術使いはみんな起こりえる病なのか? そのあたり詳しくないからなんとも。

 ちなみに、樹人、植物人類種という種族がこの世界には存在する。樹人化症はその種族に見た目が近づくものらしいが、病が完全に進行しきったときにどうなるかも私は知らない。一度調べた方がよいだろうか。


「しかし、まだ働けるといえど、冬眠の間戦争が起きようとは、退位しておいて正解だったな!」


 目覚めたばかりとはいえ、その間に起きたことはおおよそ伝え聞いているのであろう。先月起きた一大事件について先王が言及した。

 そして、今月の出来事と言えば。


「さらに、息子の結婚! 寝ている間に何故こうも色々起きるのだ! 親が寝ていても結婚を断行する息子が酷い!」


 あー、今回の国王とパレスナ王妃の結婚は、国の新体制を内外に知らしめるためとかなんとかで、政治的事情があってあの急なタイミングになったらしいからな。先王一人を待つことにはいかなかったのだろう。


「そういうわけで、起きたら家族が一人増えていたわけだな。パレスナ、ようこそバレン家へ。歓迎するぞ」


「はい、よろしくお願いします」


 先王の言葉に、パレスナ王妃がうやうやしく礼を返した。うーん、パレスナ王妃の敬語って初めて聞くかもしれない。


「俺のことはナギーとでも呼んでくれ」


「えっ、はい、ナギー様」


「んんー! 家族なのだから、様はいらない。敬語もいらん! お前はもう俺の娘だ!」


 パレスナ王妃の父親、公爵閣下が聞いたらどう思うのだろうか、この娘宣言は。

 ただまあ義理の娘には間違いないわけで。パレスナ王妃の反応はというと。


「ええ、わかったわ、ナギーお父さん」


「お、お父さん! その発想は無かった! もう一度言ってくれ!」


「ナギーお父さん」


「娘よー! お前の晴れ姿、目に収めたかったー!」


「もう、仕方ないわねー。キリン!」


「はい」


 パレスナ王妃に呼ばれたので、彼女に近づいていく。

 彼女の要求はいかに。


「魔法で結婚式の様子、映し出せる?」


「こんなこともあろうかと、全部魔法で録画してありますので、問題ありませんよ。ダイジェスト編集したのを上映しましょうか」


 そんなこんなで、今日の午前は突如始まった結婚式の上映会で終わった。

 先王、冬眠から目覚めたばかりだというのに、こんなところで暇を潰していて大丈夫なのだろうかね。まあ、国王を引退しているのだから問題ないか。




◆◇◆◇◆




 その日の正午、食事を終え歯を磨いた後の私は、自室に籠もり世界の中枢『幹』と連絡を取っていた。世界の最高権力者、女帝蟻と直通の会話ができる『女帝ちゃんホットライン』という魔法道具を使ってだ。

 話題は、樹人化症について。


「世界と自分が繋がりすぎたらなると聞いたが、気功術を極めると発症するのか?」


 私が一番気になっていたところを女帝に聞いてみた。

 気功術の達人と言えば、現在の国王だ。彼も発症するとなると、二代で同じ病を抱えることになる。


「ああ、それか。よくある勘違いじゃが、気功術のラインと樹人化のラインは全く別のものじゃ」


 可愛らしい声が魔法道具の向こうから返ってくる。女帝の声だ。


「気功術は、人類に新たな力を与える正規の進化システムじゃ。一方、樹人化は神樹と繋がる神職が、自分と神との境界線を曖昧にしてしまい起きるバグじゃ。世界樹がまだ惑星の大地にあったときから存在した病じゃな」


 神職……つまり、世界樹と交感する職種。世界樹教の神官などかね。

 いや、他にもいたか。豊穣の杖を使い、世界樹に繋がり土地を富ませる職業。王族だ。


「世界樹の実りを調節する王族なんかも発症するのか?」


「ああ、短期間で世界樹にアクセスしすぎたり、トランス状態でアクセスしたりすると、世界樹と相性のよい者は発症するな」


「そうかー。なるほど。ありがとう」


 先王、仕事しすぎだってよ。

 今の国王くらい不真面目なくらいが丁度いいってことだな。


「それで、病が進行したら植物人類種になるのか?」


「ならんならん。体は世界樹に近づいていくが、全く別の種族になんてならぬよ。なんじゃ、身近に樹人化症でも発症した者でもおったか?」


「いや、ちょっと気になってな……」


「アルイブキラといえば……バレン家のナギーが発症しておったな。嘆かわしいことじゃ。働きすぎはよくないと散々言ったのじゃがな」


 ナギー呼びかよ。親しそうだな。


「ちなみに樹人化症は不治の病じゃ。治療法はあるのだがの」


「不治の病で治療法があるって、なんだその矛盾は」


「治療法は、世界樹の影響を受けない範囲に患者を離し、しばし過ごさせること。じゃが、世界樹の上で人が生きる今となっては無理なことじゃな」


「あー、今はここから惑星にでも送らない限り無理ってことか」


「惑星フィーナはまだ植物を植えている最中じゃからのう。一般人が住める環境ではないのう」


 先王は変わらずあのままってことか。まあ、女帝と先王は親しそうなんだから、治せるなら私がどうこう言う前にさっさと治しているか。

 相談して一発解決というわけにはいかなかった。聞きたいことは聞けたからいいか。


「こちらからの連絡は以上だ。すまないな、世界の最高権力者にこんな質問して」


「かまわんかまわん。我は基本的に暇しておるからの。それと、我は『幹』のトップじゃが、世界の最高権力者ではないのじゃ。よく勘違いされるがの」


「えっ、そうなのか」


「おぬし、我ら蟻人が従属種族というのを忘れておらぬか? 世界樹がまだ大地にあった頃、我らは動物人類種に仕えておったのじゃぞ」


 それ、二千年は前の話だよな。

 宇宙船世界樹に乗って滅びる惑星から逃げてきた動物人類種――つまり、普通の人々。それに女帝達が仕えていたとして、その子孫にまで仕えているわけではない。


「仕えていたとしても、そいつら全員寿命で死んでるだろ」


「一人だけ、生きておるよ」


「えっ、二千歳のおじいちゃんおばあちゃん?」


「一万年は生きておる魔法使いじゃよ。宇宙船世界樹の船長であり、世界樹を宇宙船に改造したのもそやつじゃ。昔から、我の本当のあるじといえばその魔法使いじゃ」


 一万年生きる魔法使いって、どうなってるんだそれ。私の師匠の魔女ですら、二百歳で死んだんだぞ。

 世界は驚くことばかりだなあ……。

 二千年だの一万年だの、話のスケールが大きすぎて頭がおかしくなりそうだ。


「その人、今どんなことをしているんだ」


「世界樹の運営システム開発……のはずだったのじゃが、何年か前から何やら人を迎えにいくと言って行方不明じゃな。まあ、どこかで羽を伸ばしておるのじゃろ」


「軽いな、本当の世界の最高権力者……」


「我もたまには外遊ではなく旅行に行きたいのう」


 女帝はVIP中のVIPだからな。そんなほいほいと旅行なんぞに行けやしないだろう。


「キリンよ、旅行に行くならどの国がお勧めじゃ?」


「私も庭師の時代、別に旅行していたわけじゃないから詳しくないぞ?」


 そして、私は正午の休憩時間いっぱいまで、女帝と話して過ごしたのだった。

 女帝、惑星に確保した大陸の復興・開発とかありそうなものだけれど、本当に暇なんだな……。


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