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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第四章 後宮侍女2

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66.会者定離センドオフ系終戦記念ウェディング<4>

 ホールに国王夫妻が姿を見せる。その瞬間、待機していた宮廷楽団が、一斉に音楽を奏で始めた。

 びくりと体を震わせる国王。だが、困惑を顔に出すことはなく、二人はゆっくりとホールの中へと歩いてくる。


 逆に、驚きの顔を見せるのは、招待客の方だった。

 いつもなら味気ない拍手で迎えるはずの新郎新婦の入場。それが、聞いたことのない華やかな音楽で演出されているのだ。

 さらに国王夫妻が歩みを進めると、彼らの頭上から色とりどりの光の粒が舞い散った。光の魔法だ。宮廷魔法師団によるものだろうか。

 演劇の一幕のようなその演出に、人々は驚き、そしてその美しい光景に感激した。


 そして、国王夫妻はホールの一番奥に備え付けられた席へと着席した。

 それに合わせて、音楽も終了する。


『ご来場の皆様へ、国王陛下からお言葉をいただきます』


 そうアナウンスが入る。

 国王は立ち上がり、手に拡声の魔法道具を持った。


『いやー、すごいね。音楽で迎えてくれるとか、何この熱い演出。やるねえ。詳しく知らされてなかったから、思わずびくってしちゃったよ』


 ミミヤ嬢は言葉を濁して伝えていたのか。説明しなさすぎるのも問題だな。


『それで、この子が俺の奥さん、パレスナ。美人さんでしょ。ドレスも白くて綺麗だよねー。今日はみんな見る分には許すから、目の保養をしていってね』


 その国王の言葉に、会場から笑いの声があがる。


『戦争は終わった。鋼鉄の国は塩の国に併合されるから、もう戦火に怯えることはない。だから、終戦を祝って皆で騒ごう!』


 そういえば、この結婚披露宴は、終戦式典も兼ねているのだったな。今更思い出した。


『じゃあ、今日はみんな楽しんでいってね。以上!』


 そう言って国王は魔法道具をテーブルの上に置き、着席する。

 すると、会場中から拍手と歓声があがった。

 長々と演説するようなところで、ずいぶん簡潔にすませたな。


『それではこれより終戦式典及び、結婚披露宴を開宴いたします。立食パーティとなっておりますので、みなさまご自由にお食事をお楽しみくださいませ』


 そのアナウンスと共に、人々が動き出す。

 着席したままの国王夫妻のもとにも、給仕が料理と酒を運んでいく。

 時間は昼飯時。長丁場となるので、少しは料理を腹に収めたいところだ。

 出陣式のときに振る舞われた果実ジュースを酒にしたやつも、終戦を祝って一杯は飲んでおきたいしな。


 そう思ったときのこと。


「キリンさん、早速やりますわよ」


 モルスナ嬢が私のところへとやってきた。いきなり音声付き漫画スライドショーを開演するようだ。

 まあ、この演目は見て聞くだけだから、お客さんは食べながらでも楽しめるだろう。


「ではビアンカさん、ちょっと行ってきますね」


「はい。私はここでご飯食べてますねー」


 そしてモルスナ嬢についていき、ホールスタッフのいるところへと向かう。

 予定通り演目を始めることを伝えて、モルスナ嬢は拡声の魔法道具を受け取った。


 拡声の魔法道具のスイッチを入れて、モルスナ嬢が会場にアナウンスを響かせる。


『ご来場の皆様、早速ですが宴を盛り上げる演目を開演いたします。題して、新郎新婦の出会いと恋。是非ともお食事をお楽しみになりながらご覧ください』


 すると、モルスナ嬢が私に向けて合図を送ってきた。

 私は、幻影魔法を発動し、ホールの各所に絵を投影した。

 モルスナ嬢の魂がこもったカラー原稿だ。


『それは、二年前の晩春。国王である俺は、仕事でゼンドメル領にやってきていた』


 国王の声で、ナレーションが入る。もちろん、国王が話しているわけではない。私が魔法で音声を作ったのだ。ばっちりの出来のものを録音したため、失敗はない。

 突然聞こえた自分の声に、国王はぎょっとした顔をしている。サプライズ成功だ。


 そして、台詞とともに、投影された絵が次々と切り替わっていく。

 国王とパレスナ嬢の恋愛事情が、音声付きで赤裸々に公開される。以下はその内容だ。


 ゼンドメル領で出会った二人は、すぐに打ち解け、そして二人は同時に恋に落ちた。

 別れの時がやってくるが、王都とゼンドメル領は目と鼻の先。国王はパレスナ嬢の元に足繁く通った。

 しかし、互いに相手が自分を好きかどうか確信できず、微妙な距離を保つ二人。

 そして、とうとうしびれを切らした国王が告白をする。


『俺はもしかして誰も好きになれない人間なんじゃないかって思っていた。でも違ったんだ。好きだ、好きなんだ、パレスナのことが!』


『……私も! 私も陛下のことが好きなの!』


 相思相愛の告白シーンに、会場中が盛大に沸く。

 国王とパレスナ嬢は、恥ずかしさからか顔を真っ赤にしていた。これも新郎新婦の試練だ。頑張れ二人とも。


 話の舞台は後宮へ。

 国王は恋人である次期王妃のために、彼女の助けとなる人物を後宮に集めた。

 そして、自身も後宮へ通うことはかかさない。

 だが、そんな二人を引き裂く事態が起きる。鋼鉄の国から宣戦布告をされたのだ。


『俺は、この戦いに勝利する。だからパレスナ。俺が帰ってきたら、結婚しよう。帰ったら開く戦勝式典。そこで、盛大に結婚式をあげよう。みんなの記憶に残るような式を。……どうかな?』


『はい……今の状況でこんなこと思ったらいけないのかもしれないけれど、すごく嬉しい……!』


 笑顔で見つめ合う二人。そこで『終わり』の文字が掲げられた。

 会場中から万雷の拍手が浴びせられた。


 いやー、感動のシーンの連発でしたね。しかも、嘘偽りの一切ない、事実を基にして作られたお話だ。

 モルスナ嬢が目撃できるわけがないシーンが多数あったのに、どうやって描いたんだろうね。

 私は情報をリークしていないので、フランカさんとビアンカのどちらかが怪しいな。


 演目を終えた私達は、赤面する国王夫妻に一礼すると、元の席に戻っていった。


「大成功ね!」


「大成功ですね!」


 私達はそう言い合い、ハイタッチをした。私の背が足りないので、モルスナ嬢は頭の前に手を掲げる感じだったが。


 そして、私達はビアンカのもとへと戻ってきた。そこには、すでにフランカさんもいた。その隣にいる男性は、旦那さんだろうか。


「いい演目でした。話題を提供した甲斐があります」


 うわ、リークしたのはフランカさんだったのか。


「私もいろいろお話ししましたよー。ちゃんと再現されててすごかった!」


 って、ビアンカもか。犯人は二人もいた。


「あとでパレスナ様からどやされそうですね」


 私が苦笑して言うと。


「キリンさんも共犯よ」


 そう言ってモルスナ嬢は不敵な笑みを浮かべた。共犯かぁ。まあそうだな。

 そんな話で盛り上がる私達のもとへと、近づいてくる人が二人。

 ナシーと天使ヤラだ。


「モルスナ、キリン、最高だったぞ! あの兄上の恋愛事情が赤裸々に! これが笑わずにいられるものか!」


「いや、笑うためのものじゃないですよ、あれは」


 笑みを浮かべながら駆けつけたナシーに、そうツッコミを入れる私。

 もっとこう、二人の恋愛事情を知ってほんわかしてもらいたくてだな。恋愛小説家なんだから参考にしろよ。

 もう一人の天使の方はどう思ったのか。私はナシーの隣に立つヤラに聞いてみた。


「いかがでしたか、先ほどの演目は」


「アルイブキラが今後も繁栄するようで、大変喜ばしいことです」


 おう、模範解答ありがとう。


『続いての演目は、後宮合唱団による祝いの歌となります。合唱団の皆様は、ホール中央にお集まりください』


「あら、キリンさん、また出番よ。殿下、失礼します」


 モルスナ嬢に促され、私達はナシーの前を立ち去ることになった。

 そんな私達に、ナシーは笑顔で言った。


「おお、例の合唱か。楽しみにしているよ」


 そうして私達はナシー達と別れ、ホールの中央へと向かう。

 そこには、後宮のお嬢様達と侍女達が勢揃いしていた。見覚えのない顔もあるが、各宮殿の料理人等だろうか。

 私達は事前に決めていたとおりに整列する。向きは当然、ホールの奥、国王夫妻の方だ。


「さあみなさん、元気よくいきますわよ」


 ミミヤ嬢の合図で、楽器を持ったドレス姿の侍女達が音を奏で始める。

 練習で何度も聞いた伴奏だ。その伴奏に合わせて、私達は一斉に歌を歌い始めた。

 後宮の外の人はまだ誰も聞いたことがない新しい歌、『ワルツで祝うひなどりたち』。それを合唱する。


 歌を聴いた人々は、皆、笑顔だ。国王とパレスナ嬢も楽しそうに歌を聴いてくれている。

 やがて歌の一番が終わり、二番の伴奏が始まる。

 すると、侍女達の演奏に合わせて、宮廷楽団が楽器を鳴らし始めた。


 えっ、どういうこと。

 困惑していると、さらに私達の周囲にいた聴衆達が一斉に歌い始めた。

 女性だけだった合唱に、貴族の男性の低い声が混ざり、さらに後宮所属ではない女性の声も重なり、大合唱となる。


 私は、ちらりと横目でミミヤ嬢を見た。すると彼女は、満面の笑みを浮かべながら歌を歌い続けていた。

 驚いたな。今度は私達がサプライズされたのか。


 やがて繰り返しのサビも歌い終わり、演奏が終了する。

 会場にいる合唱に参加していない聴衆達から、盛大な拍手が送られてきた。


「ミミヤ様、いつの間にこんな用意をしていたのですか」


 そう私がミミヤ嬢に問うと、彼女はおかしそうに笑った。


「準備期間が長かったので、王都在住の方の屋敷を回って、協力を打診していたのです」


「なるほど、それで成功させるあたりが、さすがミミヤ様ですね」


「今回ばかりは、バルクース家の名に感謝ですわね」


 そうして場は解散となり、皆、思い思いの場所に散っていった。

 ビアンカはフランカさんが面倒を見るだろうし、私も出し物は全て終わった。

 さて、どこへ行こうかとふらふらしていると、変わった顔を見かけた。


「おお、キリンか。息災そうじゃの」


 なにやら『幹』の女帝が、美味しそうにカスタードプリンを食べていた。

 そのかたわらには、先ほど合唱が終わって別れたハルエーナ王女と、豪奢な衣装に身を包んだ中年男性の姿があった。ストロベリーブロンドの髪を後ろに流している。


「今、エイテンの国主と話をしておってな」


 どうやらこの男性は、塩の国の国王らしかった。会うのは初めてだ。ついまじまじと相手の顔を見てしまう。

 そんな私にハルエーナ王女が、紹介をしてくれる。


「キリン、この人が私のお父様」


「初めまして、お嬢さん。エイテンの国王をやらせてもらっているよ」


 男性がハルエーナ王女よりも流暢な言葉遣いで、自己紹介をしてきた。アルイブキラの言語だ。私も同じ言葉で相手に返す。


「初めまして。後宮で侍女をしておりました、キリンと申します」


「ハルから届いた手紙によれば、以前、庭師をしていたそうだね。私のところにもその活躍は届いていたよ」


「恐縮です」


 私は塩の国の国王に向けて、淑女の礼を取った。

 ハルエーナ王女に似て、温和そうな人だな。


「それでな、キリンよ。エイテンとハイツェンの合併国の国名を何にするか話し合っておったのだ。何かよい名はないか?」


「はあ、国名ですか。……そうですね、安易に二つの国名を繋げるだけなのはお勧めしませんね」


 女帝の問いに、私はそう答えた。

 グレートブリテン及び北アイルランド連合王国とか、覚える方が可哀想になるからな。


「むう、エイテン・ハイツェン連合王国は駄目か」


「どちらの名を前にするかで揉めますよ」


 こういうのは思い切って一新するくらいで丁度いい。

 そして女帝は国名決めは後回しにすることに決め、私を交えて雑談をすることになった。

 塩の国の国王も、私に気さくに話しかけてくる。


「これからも変わらずハルの友人でいてくれたまえ」


「ええ、もちろんです。遠く離れようとも彼女は得がたい友人です」


 などと、国王が娘の友人関係に気を使う場面なんかもあった。

 そうしているうちに、ホール中央では近衛騎士団だの魔法宮だのの出し物が繰り広げられていく。宴もたけなわ、会場中が盛り上がっていった。

 そして、アナウンスが響く。


『これより、ダンスの時間となります。皆様どうぞお楽しみください』


 すると、王宮楽団が華やかな音楽を鳴らし始めた。

 それを聞いた塩の国の国王が、笑みを浮かべて言う。


「おや、ダンスかね。ハル、一緒に踊ってくれるかな?」


「ん」


「では、私達はこれで失礼するよ」


 ハルエーナ王女は父親に差し出された手を取り、二人は開けた場所へと移動していった。

 私と女帝は残された形になる。


「ダンスか。この国の様式はよう解らんのう」


「では、適当にうろつくか」


 そう言って私は女帝を連れて国王夫妻の席の近くに向けて歩いていった。パレスナ嬢の姿も、ちゃんと目に収めておかないとな。

 魔法で視線を飛ばすと、国王夫妻は二人でダンスを踊っているようだった。二人とも踊りにくい衣装でよく踊れるものだ。本来ウェディングドレスでやる二人の共同作業って、ダンスみたいな激しいのではなくて、ケーキ入刀とかだよなぁ。


 そんなことを思いながら国王夫妻席に近づいてみると、なにやら背の低い一団が集まって騒いでいた。

 貴族の子供らしき男の子達の集団だ。口々に、俺が行くだののお前は黙ってろだの言い合っている。

 その彼らの視線の向かう先、そこにはビアンカがいた。

 ははーん。


「ビアンカさん、もてもてですね」


 私はビアンカにそう話しかける。

 すると、ビアンカは困ったように言った。


「誘うなら早くしてほしいですねー。優柔不断なのは困ります」


 その言葉に、男達はざわっとする。


「なんじゃ、あのわらしどもはダンスも誘えんのか」


「一番手で踊ったからといって、何か得するわけでもないんだがね」


 女帝と私が男の子達に聞こえるようにそう言った。

 そして、しばらく女帝を交えてビアンカと会話をしていると。


「あ、あの!」


 ようやく来たか。


「僕と踊っていただけませんか?」


 差し出される男の子の手。その手は……何故か私の方を向いていた。


「え、私ですか?」


「はい!」


 ええー。ビアンカを誘うところだろうそこは。


「キリンちゃん、もてもてですね」


 ビアンカがおかしそうに笑う。ええ、私、ビアンカから男を横取りした形だぞ。いいのか。

 こ、これが魅惑の妖精の力! 駄目じゃん。男を他人から奪い取る妖精とか、神官に退治される類の妖怪だぞ。

 そんなことを思っていると。


「キリリーン。踊ろうぜー! ってあれえ? 邪魔した?」


 パレスナ嬢とのダンスはもう終えたのか、国王が単独で場に参上した。私に手を差し出していた男の子は、ぎょっとした顔をして、手を引っ込めた。

 男の子達の集団も、ざわざわと騒いでいる。

 あー、なんだか滅茶苦茶だ。だが、都合がいい。


「いえ、踊りましょうか」


 私はさっと国王に近づき、手を取った。


「状況が見えないんだけど?」


「子供達の恋を邪魔するところでした。いいタイミングでの登場です」


「ほほーん、なるほどね。今日のビアンカは特に可愛いもんね。キリリンが隣にいると、キリリンの存在感ありすぎて印象薄れるけど」


「そんなに存在感ありますか」


「昔とギャップありすぎて笑えるー。以前はパーティ出てもそんなドレスなんて着てなかったし、化粧のせいで別人みたい。あはは」


 お前も笑うんかい。まあ、変に目をつけられるよりは笑われるくらいがいい。

 と、今、パレスナ嬢とすれ違った。白いウェディングドレスのまま、器用にダンスを踊っている。ダンスのパートナーは長い金髪の中年男性だ。

 ずいぶん仲むつまじげな様子である。私はそれが気になって、国王に聞いてみた。


「パレスナ様と踊っていらっしゃるのは、どなたでしょうか」


「ああ、あの人? エカット家の当主。公爵だよ。パレスナのお父さんだね」


「なるほど。あの方が」


 主賓ともなるとひっきりなしにダンスを申し込まれるだろうが、まずは身内からか。国王はそんなセオリー無視して、私と踊っているが。

 そうして私は国王と一緒にしばらく踊った。


「自分の倍以上の重さの足が、足元をうろちょろしていると思うと、気が気じゃないね」


 とは国王のダンスの感想だ。確かに私は重いがな、結構ダンスを練習したんだ。踏まないぞ。


 そしてダンスを終えて国王と別れ、私は元の場所へと戻っていった。

 するとそこには、すでにビアンカの姿はなかった。無事ダンスに誘われたようだ。代わりに、男の子に囲まれ、仲良くプリンを食べている女帝の姿があった。


「おお、キリンか。どうじゃ、我、もてもてじゃろう? 我、可愛いからのう」


「左様ですか」


 男の子達に、そいつは数千歳のババァだって言ってやりたい。


 そしてその後も私は、商人のゼリンと顔を合わせて難しい話をしたり、奥さんを連れた騎士ヴォヴォに美しいと褒められて微妙な空気になったり、近衛宿舎にいた小姓達と再会しダンスを誘われたり、人に酔ったファミー嬢に治療の魔法をかけてやったり、酒に酔いすぎたゴアード侯爵の酒精を散らしてやったり、プリンを食べすぎて満腹になった女帝の面倒を見てやったりと、いろいろあった。

 立食ダンスパーティは大いに盛り上がり、そして終わりの時間が近づいてきた。


「楽しかったわ。キリン、ありがとう」


 そして今、私は国王夫妻席の前でパレスナ嬢と会話していた。


「感謝は、ハルエーナ様に。私はアシスタントで、プロデューサーはハルエーナ様ですから」


「なにそれ。まあ当然、ハルエーナにも感謝しておくわ。大披露宴の後は、お別れ会だから、そこでね」


 後宮は名目上解散となっている。だが、そのまま別れるのでは寂しいだろうと、後宮の面々で集まってのお別れ会が予定されている。


「とうとうこの日が来たって感じよねー」


「それは、結婚のことですか? お別れのことですか?」


「両方。嬉しくもあるし、寂しくもあるわ」


「出会いもあれば別れもある、とそれっぽく言うことは簡単ですが、寂しいものは寂しいですね」


「そうねー」


 私達はそう会話を交わし、少しばかりしんみりとした。結婚式の場で話す話題じゃないな、これ。


「でも、今日はいい思い出になったわ。ありがとう、キリン」


「お礼の言葉は先ほどもいただきましたよ」


「あら、そうだったわね」


 そう言って、私達は笑った。


 そして、とうとう披露宴は閉宴となり、王宮楽団の演奏する行進曲とともに新郎新婦が退場していく。二人の門出を祝福するように、華やかな光のシャワーが二人に浴びせられる。

 私はビアンカと、そしていつの間にかこちらに来ていたのか、ハルエーナ王女と一緒に、その様子を見送った。


「キリン、大成功。ありがとう」


「ええ、どういたしまして。ハルエーナ様の努力のたまものですよ」


「『プロデューサー』できてた?」


「完璧です。一流プロデューサーですよ」


 うたげの後の独特の空気に寂しさを覚えながら、私はハルエーナ王女にそう言って笑った。


 婚姻の儀式と結婚披露宴を終え、私の主はこうして王妃候補者から正式に王妃となった。

 そして私も、後宮侍女から王宮侍女へと立場が変わるのであった。


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