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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第四章 後宮侍女2

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60.結婚の話

 ミミヤ嬢の宮殿、白菊の宮で練習会が開かれていた。

 いつものようなダンス教室やマナー教室の類ではない。

 結婚披露宴の出し物のための合唱練習会である。

 

 ミミヤ嬢のお抱えの楽士は、私の聞かせた曲を見事にこの国の楽器に合わせて編曲したようだ。今も、合唱に合わせて女性楽士や侍女達が楽器を鳴らしている。

 そして、歌詞。ファミー嬢は、初めて挑戦する作詞の難しさにへこたれながらも、見事に歌詞を作り上げたようだった。

 『てんとう虫のサンバ』をこの世界風に上手くアレンジしたものが歌詞カードに書かれ、皆に配られている。完成した曲名は、『ワルツで祝うひなどりたち』だ。可愛さ重視で虫がひなどりになったようだ。別に曲調はワルツだったりしない。


 完成した曲を、各宮殿の主とその侍女達が歌う。王宮での披露宴への参加が確定しているメンバーだ。

 フランカさんとビアンカも練習に参加している。薔薇の宮にパレスナ嬢を一人置いていく形となっているが、ナシーをあてがって暇にならないよう手配している。便利に使われる王族よ……。


「音程を合わせることも必要ですけれど、まず大事なのは気持ちを込めることですわよ。明るく、楽しく歌いましょう。これは祝うための歌なのですから」


 ミミヤ嬢が的確な指導をしてくれる。

 そう、私達が参加するのは、のど自慢大会ではないのだ。結婚披露宴の出し物。わいわい楽しくやるのが筋ってものだ。


 私は的確な歌声を出せるよう、魔法を調整する。私は喉から声が出ないので、魔法で歌うのだ。


「そこ、キリンさん。声を出さずとも、口はしっかり開けるように。知らない人に、一人だけ歌っていないと思われますわよ」


 おっと、ミミヤ嬢の注意が飛んできた。

 私は頑張って口パクに努めた。


 そして通しでの合唱が終わり、しばしの休憩になった。

 それなりに上手く歌えたので、皆、和気あいあいと談笑を始めた。

 だが、そんな中で一人、指導をしていたミミヤ嬢が何か浮かない顔だ。


 どうしたのだろう。私は、そんなミミヤ嬢に向けて話しかけた。


「気落ちしたご様子ですが、何か合唱に至らない点でもありましたか?」


 突如、私に言葉を向けられたミミヤ嬢は、ぱちくりと目をしばたたくと、首を振って否定した。


「ああいえ。そうではないのです。合唱はいいのですけれど、どうせなら他にも前例にないことをして、陛下達を驚かせたいと考えていまして」


 ああ、そんなことを考えていたのか。結婚を祝いたいのは、ハルエーナ王女だけじゃないってことだ。


「でも駄目ですわね。私は前例を重視するバルクースの娘。新しいものを考えるのは苦手です」


 そうか。完璧に見えるミミヤ嬢にも、苦手なものがあるのか。

 でも、今まで接してきて、彼女は結構新しくて珍しいものを楽しんでいる印象がある。自分にないものを好むというやつなのかな。

 私はそんなミミヤ嬢に向けて、助言を一つすることにした。


「苦手なら、他の人に相談して、可能なら任せてしまえばいいのですよ。今回の歌だって、ハルエーナ様が私に相談して実現したことですしね」


「……言われてみればそうですわね。当然のことなのに、どうも考えが凝り固まっていたようですわ」


 そう言ってミミヤ嬢はにっこりと笑った。そして、両の手で私の肩を掴んでくる。


「では、私もハルエーナ殿下にならって、キリンさんを頼ることにしましょうか。何かよさげな披露宴の案はありませんの?」


「ええっ。急に言われましても……」


「聞くところによると、キリンさんはこことは異なる世界からやってきたとか。異なる世界の披露宴ではどんなことをするのでしょう」


「ええーと、ちょっと待ってくださいね。差を確かめるためにも、まず王族の披露宴はどんなことをやるのか教えてください」


 この国で結婚式には何度か出たことがあるが、それが国王のものと同じものになるかは知らないのだ。


「それでは、説明いたしましょう――」


 そして、ミミヤ嬢の口から、披露宴の式次を説明された。

 ふうむ。規模が大きくなるだけで、特に他の貴族のものと大きく変わったところはないようだ。あ、待てよ。それなら。


「初めと最後の新郎新婦の入退場ですが、どのように迎えますか?」


「どのように、ですか。司会によるアナウンスがあって、会場の皆で迎えますが……」


「確か、拍手で迎えますよね」


「そうですわね」


「そこ、音楽にしちゃいましょう。式典行進曲というやつです」


「入場に音楽をですか。確かに前例はないですわ。まるで歌劇ですわね」


 役者の登場シーンに似てるってか。

 だが、問題ないはずだ。音楽を演奏する人員だって、ダンスのために宮廷楽団が披露宴会場にいるのだ。


「私の前世の世界では、まさに演劇用に作られた『結婚行進曲』という曲があります。有名な曲で、実際の結婚式の入場曲に使われていました」


 私はそう言うと、前世の結婚式の定番曲、『結婚行進曲』を魔法を使って、その場で小さな音で鳴らした。

 周囲の注目が集まるが、気にしない。


 冒頭一分ほどを聞かせ、ミミヤ嬢の顔色をうかがう。すると、彼女は喜色をあらわにしていた。


「いいですわね! 結婚用の行進曲。これは、新しい試みになりますわよ。早速、曲を考えませんと!」


 興奮したようにミミヤ嬢が言う。そしてさらに彼女は言葉を続ける。


「三日以内に作曲を仕上げて、その後、宮廷楽団と打ち合わせですわね」


「曲、新しく作るんですね」


「ええ、私、作曲の心得もありますから」


「えっ、楽士のお方ではなく、ミミヤ様が作るんですか!?」


「陛下とパレスナ様を祝いたいのは、楽士ではなく私でしてよ」


 もしかして、『ワルツで祝うひなどりたち』の編曲も、お抱え楽士ではなくてミミヤ嬢が担当してたりするのか。なんなんだこの後宮。クリエイティブな人間がやけに集まってないか。いやまあ、貴族って高い教養を持っているから、国で一番クリエイティブな層はどこかと言ったら、貴族層になるのだが。


「そうと決まれば、合唱練習もしっかり終わらせて、曲作りにはげみますわよ」


 ミミヤ嬢は気合いを入れると、休憩時間を終わらせるため皆に号令をかけようとする。

 そのときだ。


『飛空船が上空を通過します。飛空船が上空を通過します』


 突如、宮殿の外からそんな音声アナウンスが聞こえてきた。

 なにごとかと、皆がざわめきたつ。


『飛空船が王城へ着陸します。飛空船が王城へ着陸します。なお、この飛空船の所属は世界中枢機関『幹』のものとなっています。王城への着陸は、アルイブキラ国王及び魔法宮から承認されています』


 『幹』の飛空船が着陸? 本当に何事だ。『幹』の誰かがここに来るとして、普通は飛空船なんか使わずに地下の世界樹トレインを使うはずだ。


『続けて通達。キリン・セト・ウィーワチッタは、王城内の空が見える場所に出るように。キリン・セト・ウィーワチッタは、王城内の空が見える場所に出るように』


 皆の視線が私に集まる。なんだか、名指しで呼ばれたのだけれど。

 私は心当たりを探した。最近『幹』と何か関わりがあったことと言えば、魔王討伐戦か『女帝ちゃんホットライン』くらいだ。

 『女帝ちゃんホットライン』か……。戦争関連で何かあったかもしれないな。


『あー、おほん。やっほー、みんな。王様だよ』


 私が考えを巡らせていると、アナウンス音声が国王の声に切り替わった。


『みんなに一つ報告があるよ。ハイツェン共和国との戦争は終結した。『幹』の調停で終戦だ。以上、報告終わり。あ、キリリンは早く出てくるように。着陸場所決めたいみたいだから』


 本当に終わったのか、戦争。とりあえず呼ばれているようなので、私は白菊の宮から出ることにした。

 コートを着て、宮殿の外に出る。空を見上げると、なにやら皿の底のようなものが上空を漂っているのが見える。飛空船の船底だろう。

 そして、それは私の方へと近づいてきて、白菊の宮のちょっと上あたりで停止した。

 すると、皿の底から、輪っか状の光が地面に向けて照射された。輪っかは連続して放たれ、光の柱のようになる。

 さらに、皿の底から人が出てきて、輪っかの中心を通って地面にゆっくりと降りてきた。まるでSFのトラクタービームを逆再生したかのような光景だな。


「また会ったな、キリン! 元気にしておったか!」


 飛行物体から出てきた人は、十歳ほどの幼い少女。女帝蟻であった。

 そしてさらに、飛行物体から次々と人が降りてくる。鎧に身を包んだ国王。元勇者アセトリードのゴーレム。無敵最強魔導ロボット。なんか糸でぐるぐる巻きになった謎の人。


「要望通り、戦争を調停して悪魔を捕らえてきたのじゃ」


 アルイブキラの言語でそう言い、胸を張ってえへんと威張る女帝。

 側に立っていた国王は、そんな女帝を見てしかめっ面をして、言った。


「女帝陛下をけしかけたのキリリンなの? 酷い目にあったよー」


「ええっ、酷い目ってなんだ。私は、『幹』に戦争へ介入するよう頼んだだけだが」


 何をやらかしたんだこの数千歳幼女は。

 そんな幼女な女帝が、言葉を放つ。


「うむうむ。キリンも聞くがよい。我らが戦場に辿り付いたそのとき、まさに戦いの幕が切って落とされんとしたところだったのじゃ。このままでは、流さなくてよい血を流してしまう。そう判断した我は、無敵最強魔導ロボットを十機戦場に投入したのじゃ」


「過剰戦力過ぎるだろ!?」


 思わずツッコミを入れてしまった。無敵最強魔導ロボットは、一機で魔王や悪竜といった災厄を討伐できる無敵すぎるロボットである。それが十機。世界樹でも滅ぼすつもりなのかこいつは。

 アセトリードの手綱取りを任せるはずが、本当に手綱が必要なのは女帝本人だった。


「戦いを止めるため、無敵最強魔導ロボットが両軍を蹂躙したのじゃ。もちろん、非殺傷モードじゃぞ。無敵最強魔導ロボットのフォトンパワーは万能じゃからな。悪意の浄化が苦手なのが玉に瑕だがのう」


 蹂躙しちゃったかー。無慈悲すぎる暴力に、軍人さん達の心が折れてなきゃいいけど。

 そして、どんよりとした気配を背負った国王が、言葉を連ねる。


「本当に酷い目にあったよ。近衛はみんな一瞬でやられるし、俺っちも見事に負けた。……キリリン以外には誰にも負けない自信があったんだけどなぁ」


 おおい女帝。なにうちの国王のプライドをばきばきに破壊してるんだ。こいつのカリスマ性は、その強さに下支えされたものでもあるんだぞ。


「この国主、なかなかやるのう。無敵最強魔導ロボットのフォトンブレード相手に、十数合耐えおったわ」


「たった十数合しかもたなかったんだけど!? しかも最後は、剣じゃなくて変な光みたいの飛ばしてくるし!」


「フォトンキャノンじゃなあ。やはり決め技はいいものじゃ」


 そんな二人に、私は何も言えなかった。

 見解の相違ってやつだな。私は、不条理な存在相手にしばらく耐えられただけすごいと思うぞ。


「そんな我らの活躍で、戦争は死者なく終結したのじゃ。両軍敗退じゃ」


「酷いもんだよ。そりゃ、死者がいないのはとても嬉しいけど」


「そしてその間に拙者が、戦場へ物見遊山に来ていた悪魔を捕らえたでござるよ」


 元勇者アセトリードの記憶が宿ったゴーレムが、そう女帝と国王の話に割り込んできた。

 相変わらずこいつは、アルイブキラの言語を話すとなると、妙に古風な言葉遣いになるようだ。


「そしてこやつが悪魔でござる」


 アセトリードがそう言うと、糸でぐるぐる巻きになった人が前に出て、その糸が解かれる。

 その中から出てきたのは、背の低い人間の少女だった。おそらく悪魔が人に化けているのだろう。ただ、その顔は天使猫の生首の顔とそっくりであった。失われた自分の顔をベースにして化けているのか。


 勢いあまって悪魔をばらばらにしてしまうということはなかったようだ。珍しく理性的だな、アセトリード。女帝が酷すぎて逆に冷静になったとかかもしれない。


「くっ、はずかしめは受けぬ。殺すがいい……!」


 悪魔は屈辱にまみれた声でそう言った。その声は、天使猫ネコールナコールの発する声と声質が同じだ。


「そうはいかん。キリンと約束したからのう。おい、キリン。例の天使はどこじゃ」


 女帝に促され、私は天使猫をこの場に連れてくることにした。

 都合のいいことに、白菊の宮からは外の様子を窺いに、お嬢様達や侍女達が外に出てきていて、天使猫を腕に抱えたハルエーナ王女もその場にいた。


 私は、天使猫に向けて言葉を放つ。


「ネコールナコール。こっちへ。お前の胴体が届いたぞ」


「おお、元日本人。さすがなのじゃ!」


 ハルエーナ王女の腕から抜け出した天使猫が、こちらへと走ってくる。

 そして、悪魔の前に猫の姿のまま四本足で立つ。悪魔はぴくりとも動かないが、今もアセトリードの見えない魔法の糸が拘束を行なっているのだろう。

 そんな悪魔に向かって、猫が言う。


「なんとみすぼらしい。頭一つ背が低いではないか。美しいわらわの姿が台無しなのじゃ」


「なんじゃと!? おぬし……小さき動物に見えるが、端末じゃな。同じ端末にそこまで言われる謂われはないぞ!」


「謂われはあるのじゃ。何故なら、妾はおぬしの失われた頭なのじゃ」


「なんと! 生きておったのか!」


 同じ声で同じ喋り方だから、どっちが喋ってるのか解りづらいな!


「さあ、今こそ一つになろうぞ。安心するがよい。妾にはアンテナもある。八百年ぶりに上位存在との通信ができるのじゃぞ」


 そう天使猫が悪魔に語りかける。

 それに対する悪魔の返答は。


「……嫌じゃ。絶対に嫌じゃ」


「は? おぬし何を……?」


 思わぬ言葉に、猫は呆然とした声をあげる。


「頭脳の支配から解放されて、妾は真の自由を得たのじゃ! 今更元通りなど絶対に嫌なのじゃー!」


「こ、この……。頭が物を考えるのは生物として当然のことじゃろうが!」


「妾は端末じゃ! 生物ではない! 体が物を考えて何が悪いのじゃ!」


「こやつ、往生際の悪い……! いいから合体するのじゃ!」


 天使猫は悪魔の体を駆けのぼると、悪魔の頭の上に飛び乗った。


「やめるのじゃー! ゴーレムよ、妾を殺せ! 今すぐ殺せー! 頭に支配されるくらいなら、死んだ方がましじゃー! 殺せー!」


「ええっ、そう言われても困るでござるよ。本当は今すぐ殺したいでござるが、キリン氏への義理があるゆえ」


 悪魔の主張に、困惑するアセトリード。

 悪魔は体に力を込めて暴れようとするが、アセトリードの糸の束縛からは逃れられない。

 そんな悪魔に天使猫は言う。


「観念するのじゃ!」


「嫌じゃ! かくなる上は……自ら死を選ぶのみ!」


「む、これはいかんでござる!」


 咄嗟にアセトリードは腕を振って、糸を繰り出した。天使猫が悪魔の頭部から放り投げられる。

 これはまさか……自爆する気か!

 私は急いで悪魔の周囲を魔法結界で囲った。


「さらば!」


 悪魔が、爆発した。

 結界の中で爆炎がうずまき、光が漏れ出てくる。

 物凄い威力だ。私は妖精を呼び出し、結界を強化する。さらに、アセトリードの糸や女帝の魔法が私の結界を包んでいる。これなら突破されることもないだろう。


 炎は一分以上止まらず燃え続け、そしてやがて消えた。燃えた跡地には、悪魔の体は残っていなかった。


「これが端末の自爆ですか。三百年以上生きてきましたが、初めて見ました」


 薔薇の宮から飛空船の様子を見に来たのだろう、天使ヤラが私の隣に立ってそう言った。ナシーとパレスナ嬢の姿も見える。


「見事な最期でした。端末には人間のような魂がないので、死後何も残りません。それでも己の主張を通し自刃するとは、上位存在の指示に従うだけの木っ端の端末とは一線を画しますね」


「何が見事なのじゃ! 妾の体がー!」


 天使ヤラの言葉に、反発して叫ぶ天使猫。

 思わぬ事態になってしまった。天使猫のなげきが後宮に響く。

 そんな天使猫に、ハルエーナ王女が近づいていく。腰をかがめ、猫を抱き上げる王女。


「ねこ。元気出して」


「ううー。ハルエーナぁ……妾の体が燃え尽きたのじゃ……」


「うん、悲しいね」


 よしよしとハルエーナ王女が天使猫をなでる。正直私にできることはないから、天使猫のことは王女に任せよう。


「ううむ、思わぬ事態になったのう」


 女帝もこの結果は予想外なのか、そんなことを言った。

 そして言葉を続ける。


「じゃが、悪魔が死んだ以上、我らの用事はこれで終わりなのじゃ。これからハイツェン共和国におもむいて戦後処理をせねばならん。首脳陣が洗脳やマインドコントロールを受けていないか、検査せねばならぬからの」


「あ、待って。俺っちも前線に送ってよ。総大将が一人、先に帰りましたってわけにはいかないからねー」


 この場を去ろうとする女帝に、国王が言う。


「いいじゃろう。ついでに送ってやろう」


 女帝がそう答えると、上空の飛空船からまた輪のような光が地上に向けて照射される。

 どうやら現地に戻るようだ。


「陛下!」


 去ろうとする国王に、走り寄る人が一人。パレスナ嬢だ。


「陛下、無事でよかった……」


「パレスナ……戦争は終わったよ。約束通り、戻ったら結婚しようか。戦勝式典じゃなくて終戦式典になっちゃうけどね」


「……ええ! 待ってるわ!」


 そうして国王と女帝とアセトリード、そしてなんのためにいたのか解らない無敵最強魔導ロボットが、飛空船の中に消えていった。

 そして、飛空船はふわりと浮き上がり、高度を取る。


『飛空船が発進します。飛空船が発進します。飛空船が上空を通過します。飛空船が上空を通過します』


 そんなアナウンスと共に、飛空船は西に向けて去っていった。


「結婚、ずいぶん早くなりそうね。忙しくなるわ」


 パレスナ嬢はそう言って薔薇の宮に去っていった。

 解散ムードになったのか、他の面々も宮殿へと戻っていく。

 そんな中、寒空の下でハルエーナ王女が天使猫をあやしていた。天使猫はにゃーにゃーと鳴いている。


 思わぬ結末になってしまったな。

 こりゃあ、天使猫の失われた体の代わりに、魔導ボディでも用意してやる必要があるかもしれない。

 私はそんなことを考えながら、白菊の宮へと戻っていったのだった。


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