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怪力魔法ウォーリア系転生TSアラサー不老幼女新米侍女  作者: Leni
第七章 首席侍女

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111.英雄復活スレイヤー系熱烈歓迎大団円<3>

 現代に蘇った八百年前の初代国王らしき存在。パレスナ王妃はその存在に会うため、王宮の奥の区画へ向かった。私は彼女を見送り、内廷にある王妃の部屋へ戻る。

 部屋で待っていた侍女達に、初代国王が蘇ったかもしれないと話すと、その後会話は盛り上がり、どういうわけかオカルトチックな怪談話に発展した。


 ほどなくして、パレスナ王妃が私を呼びに部屋へ戻ってきた。


「なんだか話している言葉が、ネコールナコールみたいに古くさくて……ところどころ理解できない単語があるから、キリンに通訳してもらおうって話になったわ」


 そういうのは、古典を研究している学者の出番ではないかな……。

 まあ、私もこの国の古語は、おおよそ理解しているけれども。

 仕方なしに、私はパレスナ王妃に案内され、かつて国王とパレスナ王妃の結婚式の時に訪れた、王宮の最奥区画にやってきた。


「おー、キリリン、待っていたよ」


 国王が私を出迎える。他には、先王と王太后の姿も見える。後は、官僚のお偉いさんとかがちらほら。


「誰であるか、その幼子は」


 と、言葉を発したのは、人を模した男性型ゴーレムだ。

 身長、体格、髪の質、全て人そっくりだが、肌の材質だけは金属製であることがうかがえた。


 私は、そのゴーレムを見ながら、小声で国王に尋ねた。


「ええと、クーレン様と呼べばいいのか?」


「とりあえず俺っち達は、始祖様って呼んでる」


 それを聞いた私は、ゴーレムの方を向いて侍女の礼を執った。


「始祖様、初めまして。私は王妃様付きの首席侍女をしておりますキリンと申します」


「ふむ。その歳で王妃の首席侍女であるか。優秀なのだな」


「ありがとうございます。それで、申し訳ありませんが、始祖様がお話しになっている言語は、今のこの国の者にとっては少々古いため皆に伝わりにくく……私が通訳を担当させていただきます」


「おお、そうか! 確かに、我が眠りについて……そう、八百年近くの時が過ぎたと計測されておる」


 ふむ。初代国王が没した年とそう違いはないな。

 私は、秘かに魔法を使い、国王の頭と思念のラインを作る。


『で、国王。実際にこいつは初代国王なわけ?』


『んー、それを聞き出したいんだよね。俺っち達が発掘した建国史の線で攻めてみたら、真偽が判別するかも』


 ふむ。隠された建国史か。私と国王が、この国に生えてきた遺跡から発掘した秘密史料だ。

 確かに、そこらの魔法師が作った有象無象のゴーレムならば、あの史料の情報は入力されていないに違いない。


「始祖様。申し訳ありませんが、私どもは貴方様が本当の初代国王であると、確証を得ることができていません」


 私がそう言うと、国王を初めとして先王や官僚達の表情がぎょっとしたものとなる。


「ふむ。当然であるな。この身は生前の姿を模しておるが、八百年の月日が経っては、その絵姿も残っているか怪しいものであろう」


「ですので、いくつかお尋ねしたきことがあります」


 そうして、私は建国にまつわる様々な質問をゴーレムに投げかけていった。

 その結果……。


『これ、本当に始祖様だわ。もしくは、同じ年代を生きた王国のお偉いさん。キリリンもっと敬って!』


「大変失礼いたしました。始祖様であることが確認できましたので、これより国賓待遇としてお迎えさせていただきます」


「うむ、苦しゅうない」


 会話の最中にも、私は魔法を放ってゴーレムの特性を探知していたのだが、これは本当に高度なゴーレムだ。

 その製作者の力量は、少なくとも私のゴーレム製作の腕は超えている。おそらく私の師匠に匹敵するか、それ以上の技師による作品だと察せられた。そんな高性能ゴーレムに、初代国王の魂が宿っているのか。


『じゃあキリリン、ここからが本題だよ。なんの目的でこの時代に復活したか聞いてみて』


「始祖様。ところで、長い眠りからお目覚めになったようですが、なにゆえこの時代に蘇ったのでしょうか?」


 私のストレートな物言いに、やはり周囲の人達が渋い顔をするが、これ以外何を言えというのだろうか。物事は力業で進めれば、おおよそなんとかなるのである。


「うむ。実はな、我の眠りは、王城の善意計測器と連動しているのである。知っておるか、善意計測器だぞ」


「ええ、王城全体の人の善意を感知し、各区画の善意のほどを測定しているという……」


 確か、ネコールナコールが後宮でパレスナ王妃に嫌がらせをしていた頃に、国王が語っていたことがある。

 王城では善意数値を計測しており、その異常値を察することで、官僚達の不正を簡単に見つけることができると。

 だから、アルイブキラの国政は、長い年月を経ても腐敗せず正常を保っていられるのだと。


「そうであるな。その善意数値がこのたび看過できない異常値を出した。それにより、我が長き眠りから目覚めたのだ。国に不正あれば、我が目覚め、それを正す。そのために我はこのゴーレムに魂を宿し、世界に還ることなくこの王城で眠り続けていたのだ」


 なるほど。私は古語が多分に含まれていた、その始祖の言葉を皆に話した。

 すると、官僚の一人がこの王宮最奥区画の壁に存在する、魔法モニターを確認に走る。


「異常値発見! これは……王城の成分が火のパラメーターに振り切れています」


 それを聞き、パレスナ王妃を除いた王族達が「あっちゃー」といった表情を浮かべた。


「なになに? どういうこと?」


 パレスナ王妃がきょろきょろと周りの王族を見回し、疑問符を頭に浮かべた。

 国王が、そんなパレスナ王妃に説明する。


「ほら、炎の樹が生えただろう? あれから発する力が強すぎて、善意計測器で異常値を叩き出しちゃったんだよ」


「あ、なるほど。そういうことね!」


「ふむ。幼子よ。どういうことだ?」


 国王達の会話を聞いていた始祖が尋ねてきたので、私はこれまでの経緯を語り始める。


「初めから説明しますと、この国の騎士が世界樹の『最前線』におもむき、多大な成果をあげて世界樹の枝を持ち帰ってきました」


「ほう、この時代の戦士も、なかなかやるではないか」


「それで、世界樹の枝を王城の植物園に植えたのですが……一週間前に天界の門が開き、火の神が世界樹の枝の隣に炎の樹を植えたのです」


「そのようなことが……なぜ火の神は炎の樹を我が国に植えたのだ?」


「それは……なぜでしょう。国王陛下、なぜ火の神は炎の樹を植えたのですか?」


 私は、横で会話を聞いていた国王に話を振る。


「ああ、それねー。なんでも、世界樹の枝を植えるほどにすごいことをしたこの国を火の神が、重点的に観察したがっているからだって、ヤラールトラールが言っていたよ。この国へ治療に訪れる天使が増えれば増えるだけ、火の神の視界が広がるってさ」


 私は国王が言ったことをそのまま始祖に伝える。


「なるほど、それが真実であるならば妥当である。しかし、本当に真実なのかはこの目で確かめる」


 始祖はそう言って、私から視線を外し、国王達をにらんだ。


「諸君、これから我は、王城周辺の視察を行なう。本当にこの異常が炎の樹のせいであるか確かめるのと同時に、今のこの国が正しい治世を行なっているか確認するものである。まさか拒否はしまいな?」


 その言葉に皆はしばしざわついたが、王族達はとりあえず始祖の言葉を受け入れる方向でいくことにした。

 今更、建国王などというカビの生えた古い存在に国政をいじられても困るが、視察するだけで満足して大人しくなってくれるならば、言う通りにしようという魂胆であろう。

 その後、王国からは視察団を組み、始祖を各所に案内することがこの場の話し合いで決まった。


「では、本日はもう遅いので、王宮に部屋をご用意します。どうか、ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 そう私が言ったのだが、始祖は拒否する構えを見せた。


「今の我はゴーレムであるので、夜も眠りはしない。ゆるりと王城を巡らせてもらおう」


 そう始祖が言うと、横から国王が口を挟んだ。


「夜番の衛兵が何事かと警戒しますので、ご勘弁を……」


「む、そうであるな。いかん、田舎の薬師であった頃の感覚が抜けずに困る。王は無闇やたらに動くべきではないか」


 というわけで、明日は初代国王による王都視察が決まったのだった。

 ……私もきっと、同行する羽目になるのだろうな。




◆◇◆◇◆




 明くる日の朝。元気いっぱいの始祖が「まずは、民が安寧に過ごしているか見たい」と言い出した。そこで急遽きゅうきょ、王族及び高級官僚一行は、城下町に繰り出すことになった。私も当然のように同行させられる。

 馬車に乗り込み、王都を回る。

 すると、始祖は「民が幸せそうな顔をしておる。それに、この城下町の発展したさまは、感無量であるな!」と感心しきりだ。


 そして、いくつかの王立の施設を順番に巡っていく。

 本来ならば、王都一番の名所である競技場へ行くところであるが、そちらは残念なことに工事中。


「申し訳ありません。王立競技場は大規模改修中なもので」


 私は馬車で始祖の隣の席に配置されているため、すっかり観光バスの添乗員状態になっていた。


「よいよい。外から見る限りであるが、あの大きさから察することがある。おそらく、民に広く開放しておるのであろう? 民から集めた税を民のために還元する。よい姿勢ではないか」


 工事中なのに外見だけで好感触……!

 さすがは他国でもなかなか見ない巨大競技場なだけある。


 そして、午前も終わりに近づいてきた頃、やってきたのはティニクランドであった。

 ここは、ティニク商会が運営する大規模アミューズメントパークである。

 ティニク商会ということは、当然民営だ。


「これを市井の商人が建てたというのか……。民が富み、国に益を返す。理想的な光景である!」


 なにやら、これもまた始祖の琴線に触れたらしい。

 私達はティニクランドの中に入り、施設を視察することになった。

 まあ、アミューズメントパークの視察でやることと言えば、遊ぶことしかないのだが。


「ふはははは! ストライクである!」


 始祖様、ボウリングで大はしゃぎ。


「しかし、これほどの数の魔法道具、なぜ道具協会が黙っておる?」


 おっと、目の付け所はよいようだ。ティニクランドは私の設計した魔法道具であふれている場所だ。

 私は始祖に説明をする。


「実のところ、道具協会は、遊戯に関しては規制がゆるいのです。なんでも、人が遊んでいる間は子作りを怠るため、人口の増加を抑制できる可能性があるからだとか。この施設の遊具は全て、道具協会の認可を通っております」


「なんと、それは知らなんだ! 知っておれば、我の治世ももっとすんなりといっていたものを!」


 ボウリングで三連続ストライクを取った始祖が、そのように言って悔しがっていたのが印象的だった。

 そして、昼食の時間である。始祖はゴーレムだから食事は取らないと思ったのだが、なんと食事を消化してエネルギーに変える機能が搭載されているらしい。


「このピザという料理、絶品であるな! アルイブキラの食文化は花咲いておる!」


 ……ピザは私が前世の知識でゼリンに伝えた、異世界料理だということは黙っておこう。

 そして、一通りの視察が終わったので、ティニクランドを後にする。


 次はどうしようかという話になり、官僚達は王都名物の温泉に向かう算段を立てていた。

 問題は、金属でできたこの始祖ゴーレムをお湯につけていいかという話だが……。


「この身体は『幹』でも名が知れた魔法師、ウルルチッタが作った高位ゴーレムであるからな! 温泉程度問題はない!」


 チッタという名に、ウィーワチッタである私に周囲の視線が集まる。

 私は、聞き覚えのある魔法名に、苦い顔をして答えた。


「……私の師匠、セリノチッタの三代前の魔女です。弟子オーノチッタに全てをたくし、天界の門をくぐって遠い次元に旅立ったと言われています」


 師匠と同門の作なら、このゴーレムにもろくでもない機能が搭載されていそうだなぁ。

 その機能が発揮される前に、再び眠りについてくれることを望む。


 さて、温泉である。一般市民の訪れる場所が良いと始祖が言いだしたので、王立の公衆浴場に寄ることとなった。

 一般人向けの公衆浴場に、王族と金属ゴーレムが来訪である。当然、騒ぎになったのだが、始祖は笑って浴場に入っていった。

 公衆浴場は男湯と女湯に分かれているため、私はもちろん男湯には同行しない。ただ、ボウリングでパレスナ王妃と王太后が汗をかいていたので、せっかくなので女湯で汗を流すことになった。


 そして、ゆっくりと湯に浸かり、しばらくした後、公衆浴場の入口で始祖達男性陣と合流する。


「はっはっは、始祖ちゃん最高ー」


「ノジーも、よきおのこであるな! おぬしならば、この国を任せられるというものよ!」


 始祖と国王が肩を抱き合って男湯から出てきた。

 こ、こいつら……仲よくなってやがる。

 裸の付き合いってやつか。通訳の私、いらなかったんじゃあないか?


 始祖と国王は拳を互いにぶつけ合い、仲むつまじい様子を見せた。

 帰りの馬車の中でも、私の通訳を介さず二人で盛り上がっていた。ところどころ会話が通じていないが、ノリで意思疎通をしているのだろう。こいつら、やっぱり血縁だな、などと感じるのであった。


 さて、王城に馬車が帰還し、最後に始祖は、世界樹の枝と炎の樹を見たいと言い出した。

 まあ、見るよな。始祖が目覚めた原因だ。確認しないことには、善意数値がどうこうという話も先に進まないだろう。


 私達は植物園に向かい、炎の樹へと歩いていく。

 本来ならば人の出入りがまばらなはずの植物園も、炎の樹ができてからは人の行き交いが激しい。

 今も、今日の治療を終えたのか、一人の天使がすれ違って植物園を去っていった。


「本当に天使が滞在しておるな」


 そう呟く始祖に、私は答える。


「ええ。世界樹の化身が悪魔を判別しているため、今のところ大事には至っていません」


「ふむ。そうであるか。世界樹教を国教と定めたのは間違いではなかったか」


 ああ、国教を決めたの、初代国王だったのか。世界樹教は今も真っ当な宗教団体なので、英断だったのだろう。

 やがて、一行は炎の樹の前に到着する。

 炎の樹の周辺では、今ものんびりと森林浴ポーズを取る天使が幾人かいた。夕方なので、その数は少ないのだが。

 と、ほっこりしていると、突然始祖の方から異音が響いた。

 何事かと見てみると、始祖の右腕から何やら刃物が飛び出して鎌の形を取っていた。


「ネコールナコールぅぅぅッ!」


 そう叫んだ始祖が、鎌状の刃を構えて炎の樹に向けて走り出した。

 始祖の視線の先。そこにいたのは、いつの間にか五体満足な身体を取り戻した天使、ネコールナコールだ。


「ぎゃわー! もしやクーレン!?」


 ネコールナコールが始祖ゴーレムを見て、悲鳴をあげる。

 あっけにとられる私達をよそに、ネコールナコールを凶刃が襲うのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アイエエエ!!クーレン!?クーレンナンデ!? インガオホー!ネコール・ナコールのマッポーめいた悲鳴が庭園に響き渡る!! [一言] 始祖様を説得するのも骨が折れそうですが、いったいどうやって…
[一言] ネコのおかげで推定始祖様の推定がとれたよ!
[一言] ネコールナコール大丈夫か?と思ったら案の定ですね >師匠と同門の作なら、このゴーレムにもろくでもない機能が搭載されていそうだなぁ。 > その機能が発揮される前に、再び眠りについてくれること…
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