56.必勝法、見つかる。
どうもこんにちは、大城です。
リハビリエッセイの方がめちゃくちゃ伸びて、本当に驚いてます。賛否両論ありますが、ぜひ読んでみてください!
※エッセイから来てくれた皆様、今回は来てくださってどうもありがとうございます!ぜひ楽しんでいってください!
「そ、それってつまり」
「俺とお前が2人で1つになるってことか!?」
「まぁ、そうなるね」
声には出さなかったが、俺は焦りを感じていた。傍から見たら「気さくなおじさん」に見えるかもしれないけど、本当な「シャイなおじさん」なんだぜ。調教師やおっちゃん、林とかその他大勢のおかげで、何とかここまで来たが...心を通わせるとまでいくのは、かなりきついぜ。
「あら、心配してるの?」
「しまった!こいつ、心が読めるんだった!」
俺がそう言うと、あいつはくすくすと笑った。なんだよ、人の弱点を笑いやがって!
「まぁまぁ、焦ることはないさ。何もいきなり仲良くなれってんじゃないし、じょじょーに仲良くなればいいんだ。」
その言葉に、俺は首を縦に振った。あいつはニカッと笑って俺の方を見る。
「じゃあ仲良くなるための第一歩!お互いにあだ名を付けよう!いつまでも「もう1人のボク」とか「キミ」とかだと言いづらいでしょ?」
「それは確かにそうだな」
「じゃあ...君は今から1号!シンジスカイブルー1号だ!続いてボクは2号!」
なんだそれ。俺はあいつのセンスを鼻で笑った。そうしたらあいつは少しムッとした表情をして、俺に言った。
「1号の記憶の中にあった作品を元にしたんだよ!キミが子供の時に好きだったロボットアニメ!」
「ああ、アストロガガンガーーン」
「そう、アストロガガンガーン!あれに出てくるガガンガーン1号は、2号より製造年が早いでしょ?だからボクより早く生まれたキミが1号!ボクが2号さ!」
それを聞いて、俺はまたクスッとした。ちょっと子供っぽい所とあるんだな。そうしてまた、2号は怒り出した。ふふ、仲良くなれそうだ。
――
「じゃあなんかボクに聞きたいことある?1号」
「そうだな。じゃあ、俺が気になって仕方ないいくつかを について教えてもらおうかな、2号」
「ん?何かな何かな!」
俺がそう言うと、2号は目をキラキラさせて問いかけてきた。よっぽど2号って言われた事が嬉しかったんだな。まぁそれはいいとして、聞きたかった事を聞きますか。
「じゃあまず聞きたかったこと1つ目な。心を通わす、って言うけど、どうにかしてさっさと力を解放する方法はないのか?俺が目標としているレース、菊花賞は10月の第4週に始まっちまう。それまでに、何とかして力を出せるようにしておきたいんだ!出来るか?」
「うーん」
2号は考えたように黙り込んだ。おいおい、まさか「そんなものはない」って訳ではないだろうな。もしもそうなった場合、かなり厳しい状況になってしまう。俺はドキドキしながら2号を見つめた。
「あ、分かったぞ!」
甲高い声が静寂を破った。その瞬間、俺自身も、まるで自分が難問を解いたかのように喜んだ。
「で、その方法とやらは?」
俺は2号に答えを急かした。2号は100点満点のテストを見せる子供のように、じっくり、笑みを浮かべながら言った。
「そう!滝行だ!」
「ほーん、滝行...」
「え!滝行!?」
あまりにもピンと来ないものだから、俺は声を張り上げてしまった。普通、心を通わせる為にする事といったら、一緒に遊んだりとか、いっぱいお喋りしたりとか...そういうのじゃねぇか?
「ふっふっふっ、甘いねぇ1号。そもそもキミはまだ、この世界でしかボクと会話が出来ないじゃないか。それができなければ、レースで心を通わせる事も出来ないでしょ?だからまずはキミに集中力をつけてもらって、リアル世界でもお話できるようにしたいんだ。集中力さえあれば、リアル世界でもお話ができる。で、集中力をあげるための修行と言えば……」
「滝行ってわけか」
なるほど、ようやく話が点と点で結ばれたぜ。でも多分、これも俺の漫画から持ってきたやつだな。こんな滝行なんて、バトル漫画のテンプレだろ。俺がそんな事を思っているとも知らず、2号はふふんと鼻息を鳴らし、口角を上げて嬉しそうにしている。今の心を読まれたら、せっかくのいい気分を台無しにさせてしまうな。危ない危ない、今のうちに消しとくか。
「さぁ1号。1つ目の疑問についてはこれくらいでいいかな。他にも聞きたいことあったら何でも聞いてね!ボクは何でも答えるよ!」
2号は自信満々にそう言った。よかったよかった。俺の心を読まれてはなかったようだ。さて、2号の気分が変わらないうちに聞いとくかな。
「なんでお前は、俺とお前の心が通い合うと強くなるって分かったんだ?馬の知能が上がっているっているのは俺の記憶を見れば分かるが……さすがにこれに関しては分からないだろ。しかも、強くなるメカニズムや、俺が本当の力を出せない原因まで
知ってる。それはなんでなんだ?」
「そ、それは……」
2号は明らかに動揺し始めた。この動揺の仕方は、先程のものとは比べ物にならない。本当に、言っていいのか迷っている、そんな感じだ。でも、こういう大切なことはしっかり聞いておかないと困る。今後の信頼関係にも影響すると、菊花賞に間に合わなくなってしまう。そして何より、この答えを聞いた先に、俺は、俺たちは何故こんな状況になっているのか。その答えがあると思ったからだ。
「2号、頼むよ。俺とお前が心を通わす、つまり一心同体になるためには、情報共有が大切なんだ。ここで聞き逃したら、俺は、後悔して止まないと思う。まだ会って何分かの関係だし、お前だって俺を信用しきれない気持ちも、すっごいわかる。でも、俺はどうしても強くなりたい。俺はどうしても力を解放したい。俺はどうしても、おっちゃんを助けてやりたい!俺の可能性を信じてくれたおっちゃんを!おっちゃんだけじゃねぇ!林、調教師、厩務員さん。そして、「俺を応援してくれるファンの人達」!みんなに、勇気と、感動。そして、「夢」を与えたいんだ!俺はたくさんの事を競馬から貰った。今度は俺が届ける番だ。だから頼む。俺に、協力してくれないか」
俺は熱く、そして諭すように言った。自分自身の心の内を、全て2号にぶつけた。本当はこんなこと、会って数分の人に言うべきじゃないかもしれない。でも、それらは勝手に俺の口からこぼれた、2号に本当に伝えたい本心だった。2号は俺の勢いに圧倒されたのか、ただ口を開けて突っ立っていた。そして、幾秒かの時が過ぎた後、彼は声を発した。
「分かったよ。キミの熱意、すっごく伝わってきた。本当は、何を言われるのか分からないけど、すっごく怖いけど、言うよ」
「分かってくれたのか!2号!」
俺は歓喜の声でそう言った。2号は真剣な表情をし、うなづいた。
「何故ボクがこんなことを知っているのか。それは、あの声の主が教えてきたんだ。キミが、スーパーパケットと戦った後にね。」
「謎の声の主……」
「ああ、そうさ。あのレースが終わったあと、ボクは感動して、キミをずっと眺めていた。そこから、10秒くらい経った頃かな。急に、頭の中で声が響いたんだ。ボクは驚いたんだけど、今までの事があったから、何とか聞き取ろうとできたんだ。そこで彼が言っていた言葉は、一言一句記憶してある。今からそれを言おう」
「「シンジスカイブルーのレース、見させてもらった。なかなかいい走りをしている。そう思わないか?だが、あれが完成系だとは思わない。野生の力、馬としての本能―それが足りないんじゃないか。今のあいつは、人間の魂だけその強大な力をで支えている。それにはいささか無理がある。だからこそ、馬の魂であるお前の力が必要なのだ。このままだと、他の馬が本格化を迎えた時、シンジは勝てなくなる。だから、お前とシンジで心を通わせろ。そうすれば、勝てるようになる。そして、ゆくゆくは――」」
「ゆくゆくは?」
「そこで途切れてしまった」
「なるほどなるほど。教えてくれてサンキューな」
少ない情報だったけれど、大体掴めたぞ。俺の予想だと、全ての元凶は、その声の主だ。俺がこうなったのも、馬の知能が上がったのも、全部そいつのせいだと思う。理由や道理なんてのはわからねぇけど……多分そいつのせいだ。
「うん、ボクもそう思うよ。でも、あんまり重要なことを会話したくないんだ。多分あいつは、今この空間も覗くことが出来るのだと思う。だから、ボクたちの会話はやつに筒抜けだ。正体が分からないやつにバレるのは、やっぱり嫌だろ?」
俺の心を読んだ2号が言った。そうか、そういう事か。盲点だった。俺もあんまりいい気はしないな。重要な事は話していないといえ……だな。
「OK、わかったぜ。ありがとう。良く勇気を出して言ってくれたな」
その言葉で、2号は不安そうな顔を晴らし、再び無邪気な顔を照らした。俺は少しほっとした。これで心を閉ざされてたらと思うと……大きな賭けだったが、何とかなって良かった。心をぶつければ、何とかなるもんだなぁ。
「さ、1号!もう聴き逃したことはないよね?だったら今すぐ戻りなよ!キミには時間がないんだろう?だったら早く滝行しなよ!ボクのことは気にしなくていいから!さ、早く!」
2号はその笑顔のまま、俺の事を軽く小突いた。俺はへへへと言いながら、2号に向かって満面の笑みをし返した。
「じゃ、また会おうぜ!2号!」
「約束だよ!1号!」
瞬間、俺の身体を風が襲った。これは、この世界にアクセスした時と同じ現象だ。辺りに光が溢れ、トンネルの道が目の前に現れた。俺はその道に脚を踏み入れようとした。
「あ」
――
「ぴよぴよ」
小鳥のさえずる音が聞こえる。どうやら気を失っていたらしい。俺はその声につられて目を覚ました。
「あ!シンジさんが目を覚ましましたよ!」
林の嬉しそうな声が聞こえた。俺はその声を聞いて、無性に嬉しくなった。さて、はたして林はどんな顔をしてるのかな。俺は林の方は顔を向けた。
「ぐえふ!」
向いた瞬間、林の強烈なハグをもろに食らった。1部の人は大喜びしそうだが、俺からしたら苦痛でしかない。俺は何とか抜け出そうと必死にもがいた。
「もう!心配してたんですよ!急に心拍数が上がったと思ったら、すぐに落ち着いたりして……とりあえず、シンジさんが無事でよかった!」
林はニカッと笑って俺の方を向いた。何だか、日常が戻ってきたような感覚だ。まだそんなに経ってないのにな。
「ああ、本当にな。三冠がかかる勝負に挑めないなんて、あってはならなかったからな。何が起こるか未知数だったから、余計に心配で……」
この声は調教師だ!俺が喜んでいると、調教師は大きな体を曲げて、林の上からぴょこんと顔を出した。そのダンディな
顔は、いつにも増してかっこよく見えた。俺結構怖がってたんだな、俺も。
「さて、と。本題に入ろうか」
少しの余韻に浸った後、調教師が場を仕切るように言った。それと同時に、林は俺から離れ、定位置に立った。
「この未知数なトレーニングを決行したのは、シンジが言う所の「もう1人の魂」に会うためだ。こうして無事に戻ってこれているのを見ると、しっかり会話出来たみたいだな。」
調教師の言葉に、俺は頷く。それを見て、調教師は小さく笑った。
「そうかそうか!それはよかった!じゃ、早速教えてもらおうかな。その内容を」
ふふふ、来たな!そりゃ気になるよな、会話の内容!俺だけ驚きっぱなしじゃ不公平だからな。お前らも驚かしてやるよ!
「ああ、いいぜ。この会話は、非常に大きかった。なぜなら、これさえ出来れば絶対に勝てるっていう、「必勝法」を見つけたからな!」
「「お!」」
2人の声がシンクロして響いた。いい食い付きだ。このままの流れで行ってやる!
「そうそう、この修行さえ完璧に出来れば、ぜっったいに勝てるね。約束するぜ」
「おい、そんな事いいから早く教えろよ!」
「そうですよ!シンジさんだけが知ってるなんて不公平です!」
「いいよぉ、教えてあげるよぉ!究極最強になるための特訓、それは―」
「「そ、それはぁ!?」」
「滝行だぁ!」
「「ほーん、滝行ねぇ」」
「「んんん!?!?!?たきぎょおー!」」
よっしゃ!こっからシンジスカイブルーの冒険パート3、始まるぜ!待ってろよ菊花賞!待ってろよ2号!俺はすぐに会いに行くぞ!
今回もご閲覧ありがとうございました!
ここから物語は急加速していきます!次の展開を、寝て待て!




