55.the answr
なんかいろんなミスあって、編集中の作品が出てしまいました。申し訳ございません。
「ふぅむ……本当に、ほんとーうに非科学的な話だが理解したぜ。俺が死ぬとお前も死ぬから、俺を助ける為に来たんだな。…………だけど、いくつか質問がある」
「ん?なんだい?」
「1つ目、お前が接触することで、俺にどんなメリットがある?話を聞いた限りじゃ、お前はただの馬じゃないか?林みたいな天才騎手でもないし、何か特殊能力があるとも思えない。そして2つ目。その声の主の正体はなんなんだ?声が聞こえるということは、別の何者かが声を発しないといけないわけだ。テレパシーだかなんだか分からねぇけど、声が聞こえてる以上、それを発信するやつがいるはずじゃねぇか?そこら辺はどうなんだ?」
俺がそう言うと、もう1人の俺は何やら神妙そうな面持ちをした。そこから数秒の時が経ったあと、彼は何かまとまったような感じで話し始めた。
「そうだな、まずは2つ目の質問から答えようか。その声の主の正体は………………!」
「正体は…………?」
俺は唾を飲み、鼓動を大きくして彼の言葉を待った。
「分かりません!」
「おい!」
俺は思わず声を荒らげ、あいつを睨んだ。あいつはまるで幼い子供をたしなめるような顔をして、まぁまぁと言った。俺は少し納得か言ってなかったが、一応話を聞いてやることにした。
「ボクは分からないと言ったが、なにも手がかりを掴んで無いわけじゃない。それなりの予想はある。」
「ほんとか!」
俺は目を輝かせてもう1人の俺を見た。そうすると、あいつは、覚えたての知識を披露する子供のような顔をして俺に話し始めた。
「この説を説明するのにおいて、1つ前提知識が必要となる。……キミは馬として生まれ、そして馬として生活してきたよね。そこでキミは、キミが思っていた馬とのギャップを感じたと思う。…………わかるかい?」
俺は必死に考えた。今思えば、想像していた馬と、本物の馬とはかなりギャップがあった。色んな性格の馬もいたし、馬の社会も感じた。陰湿ないじめもあったし、熱いものを持ってるやつもいた……………………
「あ!分かったぞ!」
俺は思わず大きな声を出した。その音に、あいつはニヤリと笑う。
「俺が感じたギャップ…………それは「馬の知能が高すぎる」だ!人間が転生したリュウオーやアースガルドならその知能も納得だが、普通の馬も、人間と同程度の知能を有していた。俺が馬とも人間のように接していたから気づかなかったが、これはとんでもない異常事態だ!」
「その通り!」
もう1人の俺はにっと笑って俺の顔を見た。よっしゃ。大当たりだ。
「キミが言ってくれた通り、このような自体は普通ありえない。いくら馬の知能が高いからと言って、人間並みだとは思えない。つまり、馬の知能をあげるため、何か行動を起こしたやつがいるということだ」
「そして、その行動の犯人こそ、声の主だと言うことか」
「そうなるね」
「でも、なんでお前は馬の知能が上がったということにきづけたんだ?もしもお前が、知能の上がる前に生きていたならまだ理解出来るんだが……」
俺がそう言うと、あいつは再び神妙そうな顔になった。何か大切なことを言おうか言うまいか、考えているような感じだった。少しの沈黙を挟んだ後、あいつは重い口を開いた。
「ボクはね、もう一人のキミなんだ。キミの身体に存在するね。だから、キミの頭の中が分かるんだ。でもね、分かるのはそれだけじゃないんだ。キミの記憶も、見る事ができる。最も、キミが忘れてしまった物事は見る事が出来ないけどね」
「ええっ!お前、俺の記憶を読めるのか!?」
それはまずい。だってあいつに、俺の好きなタイプとか、俺のギャンブル生活とか、俺の弱みとか、俺が1回も付き合ったことがないとか、ぜーんぶバレてるってことだぜ!?
「あ、そうなんだ。知らなかった。わざわざ教えてくれて、どうもありがと」
「うわぁぁぁ!」
「……さてと、話を戻そうか。ボクがキミの記憶を見た時、キミが馬の本を読んでいるのが見えたんだ。そこで知ったんだ。馬の知能は良くて小学生くらいって。だから、ボクはこの異常事態に気づけたんだ。」
俺は心の中で納得し、頷いた。あいつはそれを読み取ったらしく、話をやめた。
「それじゃ、話が一区切り着いたところで、1つ目についても説明してもらおうか?お前が、どのようにして俺を強くしてくれるのか、興味がある」
俺はあいつに話をするよう促した。今度はさっきのように溜めることなく、普通に話し始めた。
「話すと長くなるんだが……まあいい。今キミの中には、ボクとキミの2つの魂があるというのは、さっきから言っているね。でも、表に出ているのは、キミの魂だけだ。ボク……つまり馬の面は全く出ていない。そう、キミの走りには、「馬としての本能」が欠けているんだ」
それを聞いて、俺はハッとした。俺の走りは、競走馬としての走りより、人間としての走りの方が近い。今言われてようやく気づくことができた。
「でも、それって本当に悪いことなのか?人間の指示をよく聞く賢い馬は好かれて、気性難の馬は嫌われるだろ?俺は前者の最も良い例だと思うんだが。しかも、俺の背に乗っているのは天才ジョッキー林だぞ?万が一にでも、間違った指示は出さないはずだ」
俺は思った事をそのままぶつけた。これに関して、俺は全く間違っているとは思わない。そんな俺の気持ちを読み取ったのか、あいつは違う違うといった感じに首を振った。
「キミの意見は全く間違っちゃいないさ。でも、ボクが言っているのは走り方ではない。キミの能力の問題さ」
「能力の問題?」
俺が首を傾げると、あいつは深刻そうな顔で話を続けた。
「ああ。馬の秘めるパワー、これは生物の中でも上位に入る程に強大なものだ。しかし、その力を操る為には、それ相応の「器」と「魂」が必要となってくる。だが今のシンジスカイブルーには、強靭な「器」はあっても、「魂」が貧弱だ。ヒトの魂は、ヒトの力を操るのが限界であり、馬のパワーを、100%引き出すことは出来ない。キミは、シンジスカイブルー自身の身体を無理やり強化することで、フルパワーを出せなくても、強い走りを可能としている。だが、これから先、他の馬たちが本格化を迎えたり、トレーニングの成果が出て、キミに負けないくらいのスピードやパワーを手にした時――」
「キミは、二度と勝てなくなる」
その言葉に、俺は背筋が凍った。はっきり言って、まだあいつの言葉を完全には理解出来ていない。魂だとか器だとか、俺が知らないような単語ばかりが出てきて、話を整理するのがやっとだ。だが、「二度と勝てなくなる」―この言葉は理解出来た。そして、この言葉が事態の深刻さを如実に物語っていた。
馬の本格化は、早ければ2、3歳で迎える馬もいる。また、鬼のような坂路調教で鍛え上げられた二冠馬、ミウラポナパルトは、デビュー時点から高い完成度を誇っていた。つまり、そのような馬が菊花賞で出てきた場合、俺は負ける可能性が高い。そうなると、おっちゃんの借金返済に陰りが出てくる。俺は、俺の事を信じてくれたおっちゃんに、実力を証明するために走っている。だから、こんな所で負けている訳にはいられない。
「なぁ、もう1人の俺!俺は、どうやったら強くなれるんだ!?どうやったら、俺の力をフルで使えるようになるんだ!?どうやったら俺は、レースで勝てるんだ!?」
俺は縋るように叫んだ。精神世界の為、音は反響しなかったが、その必死さは誰が見ても明らかだった。その声を聞いたもう1人の俺は、待ってましたと言わんばかりに笑顔を見せた。
「キミの力を引き出す方法―それは、キミとボクの心をひとつにし、2つの心を表に出すことだ」
今回もご閲覧ありがとうございます。
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