54.相対
リハビリです。大目に見てね
俺達は互いに見つめあった。もう一人の俺の目に雲がかかっているのは変わらない。だが、俺には分かる。あいつが俺に目線を向けているということが。こう、相手の考えてる事が頭に入ってくるというか……心が通じあってるというか……言葉では表せない不思議な感覚だった。
「やはりキミはボクの予想を簡単に超えてくる。これだからキミは!」
あいつは嬉々として俺に話しかけてきた。その顔はどこかスプリングスターさんに似ていた。ただまぁ、そんな事はどうでもいい。俺はこいつに1つ言っとかなきゃいけない事がある。それは―
「お前は結局、シンジスカイブルー本体の魂なのか?」
この疑問を解決せずにはいられなかった。あの心臓を痛めた時、足りない頭で必死こいて考えた仮説が合ってるのかどうか。こいつに聞くのが1番早いとずっと思っていた。
「ふぅん?それはつまりどういうことだい?」
俺はあいつに俺の仮説について解説した。俺は元人間で、偶然お前の身体に魂が入り込み、お前の身体のコントロールを奪ってしまった。そして、あの時話しかけてきた奴こそ、シンジ本体の魂ではないか―と。
「ははははは!キミはそんな事まで分かっていたのかい!驚かせようとしたボクの計画が台無しじゃないか!」
もう1人の俺は、今までの嬉々とした表情を崩して、大笑いし始めた。その言葉を聞いた瞬間、俺は心の中でガッツポーズした。俺の中に秘められていた研究者魂が、再び躍動しているようだった。
「そうだねぇ。それに気づいたのは――」
もう1人の俺は笑うのをやめ、話を始めた。
「それに気づいたのは、意識を持ってすぐだったね。産まれたばかりの頃はまだ何もわからなかったから」
「ボクは、暗がりのような所にいた。そこは光の入らない暗闇のような所で、ボク以外の生物は存在していないようだった。今のボクだったら、辺りを探索したり、出る方法を見つけようとしていたと思う。だけど、当時のボクは幼すぎた。幼すぎて、そんな事はできなかった。ボクに出来るのは、ただ時が過ぎ去るのを待つだけだった。それが2週間続いた」
「だが、遂にそれも終わりを迎えることになる。その日は、何の変哲もないような日だった。今日も何もせず過ごすのか、ボクはそう思っていた。だが、突然、本当に突然、ボクの目に光が飛び込んできた。その光の方向に目を向けると、何かの穴のようなものが見えた」
「ボクはそこに辿り着いた。そして、その穴に顔を突っ込んでみた。その時に見えたのが、キミ、シンジスカイブルーだった」
「どうやらボクはシンジの1m後ろで世界を見ているようだった。ボクにとって、世界の景色は新鮮だった。あまりに綺麗だったので、しばらく眺めていると、突如、頭の中で声が響いた」
「その声は、40くらいの男の声だった。特にこれといった特徴はないが――少し声のトーンが高かったね。ボクはその声に耳を傾けた」
「キミは、今キミが見ている競走馬のもう1つの魂―今の身体は、彼がコントロールを握っている。つまり、今の段階だとキミはここから彼を見ていることしかできない。気楽だと思うかい?だが、この身体が死を迎えた時、それはキミの死にも直結する。そして競走馬は、レースに勝たなければ...処分される。もしもキミが生きたいならば...」
「「キミが彼に協力して、レースに勝ち続けなければならない」、と」




