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かぎろひの立つ  作者: 桂式部
第六章 夢と知りせば さめざらましを
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 獄所から出た京士郎たちは、次の場所へと向かう。

 先ほどの猿の様子を思い出しては、京士郎は頭を巡らせていた。

 どうにも腑に落ちなかった。犬と猿とで、あまりにも態度が違っていることに。二匹は等しく、打出の小槌から生み出されたはずなのに、片や鬼の討伐に協力し、片や拒否する。

 このことに何かあるのではないか、と思う京士郎だったが、確証はなかった。それに、犬はこのことについてだんまりを決め込むだろうとわかる。

 京士郎はもやもやしたものを抱えながら、志乃の頭の上で悩んでいた。


「それで、次は誰がいるの?」


 志乃が尋ねると、犬は答える。


「雉だな」

「雉? って、あの鳥の?」

「そうだ、お嬢さん。あの弱い鳥だ」


 犬はそう言った。京士郎は首を傾げた。


「弱い鳥?」

「鷹と比べてしまえば、雉など弱い鳥だろう」


 犬はそう言った。京士郎はますますわからない。いいや、これをわからないと言ったところで、誰もわかってはくれないだろうから、口にはしなかった。

 その代わりに、京士郎は別の疑問を口にした。


「それで、雉はどこにいるんだ?」

「ここから先、塔の一角だ。その一番上にあいつはいる」


 犬が言う通り、この先にあったのは大きな塔だった。京士郎が知る限り、この鬼ヶ島には四方に塔がそびえ立っており、いま見ているのは南方の塔だった。

 見上げれば、それほどの高さはない。物見櫓だろうか。

 志乃は梯子を使って登る。京士郎は志乃の髪にしがみついて、時折怒られながらも共に登った。

 犬はと言えば、下でひょっこりと待っている。

 登った先にいたのは、鮮やかな色の体を持つ鳥がいた。雉に違いないだろう。


「珍しいわ、こんなところまで来るなんて。それに人! 人の女に、小人の男!」

「誰が小人だ」

「貴方しかいないでしょ」


 京士郎の言葉に、志乃は鋭く言った。いまいっぽ、自分が小さいという自覚を持てずにた。

 ふふふ、と笑う雉。それを見て、志乃はへえと唸った。


「女なのね。なんか意外。……あれ、このときは雌って言った方がいいのかな?」


 見当違いなことを言う志乃に、京士郎はやれやれと首を振る。


「しっかりしろ、あれは雄だぞ」

「えっ、うそ!?」

「雉は色が鮮やかな方が雄だ。雌は茶色なんだよ」

「へえ、そうなんだ」


 京士郎の解説に、志乃がうんうんと頷いていると、雉は失礼な! と叫んだ。


「あたしはれっきとした雌でしてよ!」

「は? いや、そりゃあないだろ。俺は何羽も雉を見てきたが、お前のような雌は見たことないぞ」

「仕方ないでしょう、事実、あたしは雌なの。自分のことを雌だと思ってるのよ」


 本当に失礼しちゃうわ、と雉は言った。京士郎はますますわからなかった。

 いいや、むしろ、先ほどから感じていた違和感が具体的になってきたと言うべきだろうか。

 とにもかくにも、まずは雉を仲間にしなければならない。


「私たち、打出の小槌を手に入れたいの。そのために、協力してほしいの。いままで京士郎……この小人が本当はおっきくて、ずっと鬼と戦ってきたんだけど」

「わかるわ、そんな姿にされたのは間違いなく打出の小槌の仕業ね」


 うんうん、と雉は頷いた。頷けるのか、と京士郎は驚いた。


「それで?」

「それで、協力してもらいたいのだけれど」

「はあ、だめね。貴女、顔はとっても可愛いけれど、もっとずるくならなきゃ。女として生きていけないわよ」

「なっ、なっ」


 雉に女について説かれたことに、志乃は顔を真っ赤にした。それは恥ずかしいからか、雉に言われたことに怒りを覚えたからかはわからなかった。


(俺もさすがに、犬や猿に男を説かれたくはないな)


 そう思って、志乃に同情を覚える。


「あのね、あたしに何の益があるって言うのよ。打出の小槌を手に入れて、どうなるのかっていうの。協力してほしいならまず、それを言うべきなんじゃないかしら」

「そ、それは」

「そういう狡さがないと駄目よ。まあ、そこの男は単純そうだから、貴女の可愛さだけで籠絡できそうだけれど」

「誰が単純だ!」


 京士郎はそう叫んだ。

 志乃はというと、頭に乗ってる京士郎にもわかるくらい、赤面していた。


「やっぱり、獣に好かれる質だな」


 京士郎がそう言うと、志乃は途端にぴたりと止まる。そして思いっきり頭を傾けた。京士郎はもう少しであわや落下する、というところで志乃が頭を元にもどした。その頭を軽く殴りつける。

 雉は、ため息をつく。そして羽で、あっちへ行けと仕草をすると、海を眺め始めた。

 京士郎と志乃はゆっくり下へと降りる。犬は座って、二人を待っていた。


「どうだ?」

「……だめね、もう少し考えましょう」

「ふん、やはりか。ではお嬢さん、ゆっくり話せる場所まで行きましょう」


 犬はそう言って、歩き始めた。志乃もそろそろ、休みたい頃合いだろう。

 京士郎は物見櫓を見上げた。そこにまだ雉はいるだろう。そして、もう一度ここに来るはずだ。

 志乃の頭の上で、腕を組んだ。この妙なひっかかりはなんだ。そう問いながら。

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