19
「姉ちゃん、よく冒険者達にも怒れるねえ。流石に怖くて僕は無理だよ」
「ん?みんな優しいわよ」
「いや、まあそうなんだけど…」
へらっと笑うと果汁を凍らせて作ったシャーベットをお盆に載せる。
このシャーベットはネロの得意料理だ。
魔法適性があったネロは腐りかけて売り物にならない果実を氷魔法を使ってよくこれを作ってくれていた。
「ネロ、こんなに沢山作って魔力は大丈夫?」
「えっと、大丈夫。沢山使って沢山回復した方が良いんでしょう?」
「そうね。でもハキポはクソまずいから無茶しないでね?」
「うん」
ネロの髪をぐしゃぐしゃっとかき混ぜるようにして笑い合うと、全てのシャーベットを載せ終えたのでリリエラと共に運ぶ。
「リリエラは大丈夫?」
「余裕よ。私ここで働いてお姉ちゃんのマジックバッグを買って、良いお婿さん見つけるの」
「た、逞しくて頼もしいわ」
ふふふと輝かんばかりの笑顔で笑うリリエラは化粧もオシャレもバッチリ決めて、大人っぽく見えてすごく綺麗ですごく羨ましい。
「変な人に引っかからないように目を光らせないとね」
そう言うとリリエラは小首を傾げて可愛らしくお願いね?と笑った。
sideトール
「悪かったな。どこまで飛ばせるか確認しときたかったんだ」
マリィが居なくなった途端、急に雰囲気を変えてアイズさんが獰猛に笑った。
それを受け止めて、『アサシンズ』のエストラは楽しそうな殺意を込めた笑みを浮かべ、『ツバサ』のシンは目を閉じて静かに受け止め、『ハルティ』のガバウは治癒士らしからぬ狂気の籠った笑みを浮かべた。
俺はただアイズさんを見るだけだ。
試すように挑発するように両サイドの二人が走り出したのはここにいる誰もが気づいていた。マリィが気づくよりもずっと前に。
ハンデがあっても関係ない。
地理に慣れてなくても関係ない。
高ランクの冒険者ならこの程度行けるだろ?と無言で問われ、皆無言で『余裕!』
と返しただけだったのだ。マイクも無理そうなら俺が担いで走る予定だった。
だがマイクもそこそこの元冒険者。プライドがあるのかここまではきっちり完走した。
たとえ半日でも高位冒険者の本気の走りに付いてきたのだ。その実力は賞賛に値する。
「しかし噂の空間師ちゃんは随分と可愛いんだな」
「だろ?うちのギルドで育てた大事なマスコットだよ。お前らもいじめんなよ?」
「いじめないさ。コマネズミみたいで可愛いし」
「あんな子供を苛める下劣な趣味はない」
そう言うとシンと数名の冒険者はちらっとこちらを見た。
あの不名誉な噂か。もう二度と外で泥酔はしないと未だに付きまとう汚名にうんざりとしつつ、無言で素知らぬ顔をする。
「んで、『アサシンズ』はどこまで地理を把握してる」
「ギルドで買えた地図に関しては全て頭に叩き込んである。が、多分この迷宮なら恐らくまだしばらくは最短ルートがわかると思う」
ギルドで販売してる地図は……確か15階層までのものだったか。
「そうか。ならしばらく任せる。こっから先は戦闘に手間取る場面もあるだろうからそんときはうちか『ハルティ』が『アサシンズ』と共闘しよう。指揮はエストラが取れ。うちと『ハルティ』の構成はわかってるな?」
「もちろん」
「戦闘時は残った方と『ツバサ』が『銀の華』の護衛だ。良いか、今回の護衛対象は一人だ。こんだけの人数でたった一人の護衛なんて楽勝楽勝すぎる護衛道中だ………マリィには傷のひとつも付けさせねえぞ」
最後にアイズさんがドスの利いた声で言うとあっちこっちから返事が聞こえた。
と、その時一同の殺気威圧が消えた。俺もわかっていたが、マリィとその妹のリリエラがデザートを運んできたのだ。
「はい、トールさん」
俺だけ名指しで渡されたシャーベットは他のものより少し大きかった。時間的に彼女の手作りではないだろうが少しでも良いものを食べさせたいという彼女の気持ちが垣間見えて微笑むと、マリィも嬉しそうに笑った。
余談だが、アイズさんとハンナはマリィに謝り倒してシャーベットを獲得していた。
と言ってもシャーベットはちゃんと人数分あった。彼女は元からあげるつもりだったのだろうとその場の誰もが察して、彼女の優しさを微笑ましく見守っていた。




