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ハンナさんはスタスタと歩くと、アンの前にしゃがみ込んだ。
「ねえ君。マリィをあいつに売ったの?」
「ち、違う!!紹介するだけで、顔を見せ合うだけで良いって言うから!」
「それで?こんな人気のないところに連れ込んで?あのままだとマリィは攫われていたわよ?」
ハンナさんがそう言うと、アンは悔しそうに唇を噛んだ。
私はまだ頭が働いてなかったけれど。段々と、理解が進んでくる。
『君に使ったHPポーションの貸し』
アンはあのおじさんに何らかの借りを作って、その対価として彼は紹介するだけだったみたいだがーーーー私を差し出したのだ。
ボロボロな装備。おそらく、深い怪我を負って高級なポーションを使わざるを得なかったのだろう。
昔っから自信家で、無茶して。
余裕!と笑って、木に登って果実を取って落ちて怪我をしたアンを思い出す。
懐かしい思い出が、すっと冷めていくような気分だった。
アイズさんに下ろしてもらって、泣きそうな顔のアンの元に行って彼を見下ろす。
「違う、違うんだマリィ!あいつ繋ぎが欲しいから紹介してくれるだけで良いって言うから!!」
黙って空間から、小袋を取り出す。
先日ギルマスに貰った100万ロイだ。
それをアンの前にそっと置く。
「マリィ……?」
「それで装備買い直して、今度は無茶せず堅実に頑張って。私は二度とあんたに関わらないし、ケツは拭かないから」
「マリィ!悪かったって、マリィ!!」
アンはグダグダ叫んで居たけれどそれを無視してギルドに向かって戻るために歩く。
すぐに右にアイズさんが。左にハンナさんが並んだ。
何も言えず、何も言われず。
ただ歩く。
……迷ったけれど一言だけ聞いておくことにした。
「私は、狙われていますか」
前を向いてぽつりと呟けばアイズさんから答えが返ってきた。
「正道でも邪道でもコンタクト取りたがってるやつはごまんといるな」
「作れそうな、きっと作れるであろう人と言われてるわね」
具体的には言ってないけれどマジックバッグのことだろう。まだそんな作ったことは無いのに。唇を噛んでから、ため息を吐く。
「兄妹っぽいから様子見してたが、あの兄ちゃんはダメだな。考え無しすぎるぜ」
「本当よ。紹介してくれるだけで良いなんて、裏の匂いがぷんぷんするじゃない」
「全くですよねえ……本当、馬鹿なんですよね…考え無しで突っ込んで、怪我して心配かけてばっかりで……」
『悪食!』そう言ってニヤッと笑うアンの顔が浮かんで……それを、消した。
「ご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます」
「礼は一つしか望んでねえぞ」
「そうね。私のパーティも攻略、詰まってるのよねえ」
冒険者らしい冒険者の二人の不器用な気の遣い方に思わずふっと笑いがこぼれた。
「お前んとこはパーティランクはあげねえのか?」
「うちは戦闘狂ばっかりだから、戦えれば良いのよ」
「お前んとこの短期決戦力はすげえよなあ、うちも戦闘狂ばっかだからわかるわ。そういえば…」
会話をする二人の間で、そっとひとしずくだけ。
思い出が籠った涙がこぼれ落ちた。




