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疲れているガンツさんに申し訳なく思いつつも、ウキウキとしながら宿屋の間取りを考える。
扉のすぐ横には…返り血などで血みどろになった鎧とかを落とす水場と、素材を買い取るカウンターを設置した玄関を。
個室と、複数室を何部屋か。部屋には簡単な収納と装備を干す場所とベッドかな。
あと私の私室と寝室と、道具屋ごっこをする部屋に食堂とキッチン。
思いつくままに書き足されて行った見取り図は大変カオスになった。一通り書いてから、それをもう一度整理して書き直していく。
「おい、おい悪食」
真剣に宿の見取り図を書いていると不意にカウンターから誰かに呼ばれた。
そちらを見なくてもわかる。この声と呼び方はアンだ。
「呼んでんだろ悪食!」
しばらく無視をしていたら、大声で呼ばれたので渋々カウンターの方へ向かう。
「仕事中なんだけど、何?私じゃクエストの受注も報告も出来ないわよ」
手招きをされて渋々待合室に出ると、ふと気づく。アンの顔色が真っ青なのだ。
手を伸ばして血の気の引いた頬に触れると、過剰な程にアンは飛び跳ねた。
「な、なんだよ」
「すごい顔色悪いわよ。大丈夫なの?」
「あ……ちょっと昨日、迷宮で怪我してな」
「やだ、本当に大丈夫なの!?こんなとこに居ないで早く帰って休みなさいよ」
「それでなんだけど、ちょっと付いてこいよ」
「は?ねえ、ちょっと仕事中なんだけど!?」
「良いだろちょっとくらい!」
せっかく心配をしてあげたのに、腕を引っ張られてギルドの外に連れて行かれる。
冒険者や職員の数名が心配そうに見てくれたけど、身内のことなんで大丈夫です、と苦笑いで手を振った。
そう、身内のする事だから。
身内だから信じていたんだ。
ギルドを出て、狭い路地をどんどん進んでいく。
言ってもダメだから渋々ついて行く。よく見るとアンの装備はボロボロだった。相当手強い魔物と戦ったようだ。怪我は大丈夫なのだろうか。
狭い路地を抜けるとそこには豪華な馬車が止まっていた。
馬車の前には、綺麗な身なりのおじさんがにっこりと笑っていた。
「……彼女が?」
「そうだよ。これがマリーロズだ。紹介したんだから、これでもう良いだろ」
不穏な気配を感じてアンを睨むも、アンは痛々しい表情でおじさんを睨んでいた。
「そうですね。これで君に使ったHPポーションの貸しは無しとしましょう」
「そうか。じゃあ行くぞマリィ」
「ーーーーですが、私は個人的にお嬢さんに用事があります。ねえ、ギルドお抱えの優秀な空間師さん?」
刹那、アンが吹っ飛んだ。
「アン!?」
死角から現れた人に蹴り飛ばされたのだ。
慌ててアンに駆け寄ろうとすると、蹴り飛ばした人に腰を掴まれて抱き抱えられる。
「ま、マリィ!」
「やだ、やめて!!」
壁にぶつかって倒れたアンが私に手を伸ばすも当然届かず。
そして私の非力な抵抗なんてものともせず、おじさんが乗り込んだ馬車に私を抱えた人も乗り込む。
「これは誘拐っていうんですよ?アーノルドさん?」
もうダメだと思った瞬間、ぐいっと後ろに引っ張られて私を抱えていた男は馬車の中に吹き飛ばされた。
急なことに目を白黒させていると私はアイズさんに抱えられていた。
「よっ、人気者はつれぇな?」
「……は?」
ポカーンとしていると、馬車の中にハンナさんが乗り込むのが見えた。
馬車が数度揺れて、おじさんの悲鳴と男の悲鳴が聞こえたと思うと御者が逃げ出してハンナさんが出てきた。
「ダメよマリィ。モテる女がこんな人気のないところに連れ込まれちゃ」
「え、あ、はい」
「それからもっと肉つけろ。こんなかりぃと片手で抱えて攫われるだろ」
有言実行とばかりにアイズさんは私を抱えているけれど、全く状況についていけてなかった。
そして二人は視線を倒れて呆然とこっちを見ているアンへと向ける。
当然ながらその表情は厳しいものだ。




