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「……時間停止効果のある空間、か」
「はい」
昨夜レベルが上がったこと。時間停止効果が空間につけられるようになったこと。
これさえあれば、迷宮の奥で宿屋みたいな物を出来るんじゃないか。そう聞けばギルマスは深く考えて、唸り声を上げた。
「……ひとつ聞きたい。この部屋くらいのマジックバッグをひと月に三つくらいは作れるんだろ?冒険者にはマジックバッグを持たせるだけで良いんじゃないか。わざわざお前が無理をしなくても……」
「そうですね、アイテムの持ち運びだけなら良いかも知れません。だけど迷宮地下20階層以下では、問題が発生していますよね」
「………アイズか」
そう、情報源はアイズさんだ。
二年前から上位冒険者の護衛が増えてきたが、特にここ半年ほどは『ドラゴン殺し』の護衛が凄く多くなっていた。
既にAランクの彼等は貢献値など必要としていない。
ならば、なぜ護衛をするのか。
それは勿論私の様子を見て、関係強化ーーー繋ぎを作るためだったがそれだけじゃない。
彼等は、迷宮攻略に『詰まって』居たのだ。
彼等はマジックバッグを既に持っている。
それだけではどうしようもない事態が発生して、攻略が詰まったのだ。
「20階層以下では結界が機能しないと聞きます。結界が使えなければ………私が行くのが最効率だと思います。マジックバッグでは無くて、ね」
アイズさん達だけの情報では真偽が分からない。だからおそらくトールさん達の昇級試験は20階層の調査、だろうと予測をつける。
もう四年ここで働いているんだ。それくらいの予測はつく。
おそらく20階層以下の攻略には現状私が必須。それはギルマスもわかっているんだろうが………私を行かせるのが嫌なのだろう。悪意ではなく、善意の心配で。
何せ現場は現状最強クラスの魔物の蔓延る地だ。
「……わざわざ行く必要は無いだろう。あの時と違って行かないと大勢の人が亡くなるわけでもない。お前も、あいつらもそんな無茶はしなくても良いだろう」
それは尤もな話だ。20階までの階層でだってじゅうぶん金は稼げる。
私もアイズさん達もそんな奥に行かなくても特に問題はない……けども。
「そう言って、行くのを止めると思いますか?」
アイズさん達……いや、冒険者達が。
より深層の探検を止めると思うのか。
……目の前に攻略の鍵となる私がいるのに。
そして私も、そんな言葉で彼らを支えることを諦めると思うのか。
お金じゃない。お金なんてマジックバッグを量産すればいいだけだ。
………私は魅入られていた。冒険者の生き様に。あんな大変な所で、だけど楽しそうに敵を倒して笑う彼等に。
彼等を支えたいと思ってしまったんだ。
安全地帯と食事を提供し、荷物を預かりたいと。
「………はあ。マリィ、お前はギルド職員というか完全に冒険者だな。お前と『ドラゴン殺し』の案は考えてやる。他のパーティも20階で詰まってるしな。だが、とりあえず『銀の華』の帰還を待て。現地までの護送問題や大量の食事、宿って言うなら1泊の値段設定とか…布団とかの準備も居るか?さすがにすぐバックアップは整えらんねえ」
「わかりました。我儘言ってごめんなさい。これを準備にでも使ってください」
そう言って差し出すのは私が作ったマジックバッグだ。
解体した肉を保存するなどで役に立つだろう。そう思って差し出せば、ガンツさんは疲れたように笑ってそれを受け取った。
そして直ぐに金庫に向かうとそこにマジックバッグを入れて、中から数十枚の金貨を出してきた。
「とりあえず100万だ。さすがにこんなにやべえもんはタダでは貰えないが、相場を直ぐにポンとは出せない。残りは宿屋計画で稼ぎが出たら払わせてくれ」
「……はい!」




