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一方その時トールも大変困惑していた。
鉱山迷宮は装備の素材を取りに何度か来たことがある。
各層への短距離移動装置『トロッコ』はトンネルの壁を迷宮のどの魔物でも簡単に壊すことの出来ない『モグラの爪』を素材にしたものでコーティングしてあるので崩落の心配も、魔物の襲撃の心配もなく最短距離で現地に行けるとても効率的な手段だった。
また『トロッコ』は一般市民も乗れるもので仕事が休みの日に小遣い稼ぎに来る一般市民も居ると聞く。さらに街の子供たちはトロッコに乗るのが大好きだという。
だから、わからなかった。マリィがここまで泣きじゃくる理由が。アイアンの名物だから喜びこそすれ、ここまで何に怖がっているのか理解できてなかった。
トールのその認識は大幅に偏ったものがあった。
トロッコに乗って鉱山で小遣い稼ぎをする一般市民は鉱山都市に住む『ドワーフ』が主だった。
『ドワーフ』は優れた土魔法を覚えているものが多く、体力も人に比べてとても高い。
故に一般人の、しかも女性のマリィとは体力や運動神経にも大きな差があった。
さらに一般市民のドワーフが小遣い稼ぎをするのは上層だ。
目的地と出発地の高低差が少ない分坂道は緩やかで1時間もしないで着く。
マリィ達が向かっているのは下層。高低差が大きい分傾斜が急で、速度が物凄く早い。しかも乗っている時間も平均で五時間。
落下防止の安全ベルトが着いたトロッコも存在するが、下層行きのトンネルはその速度ゆえ稀にトロッコが横転するためいつでも飛び降りられるようベルト禁止。というかそもそも下層でも生き残れる戦闘力の持ち主以外乗らないのだ。
かくして、
マリィはトロッコから落ちる危機感で泣きじゃくり
トールは落ちると思ってないからなぜ泣いてるのかよく分からない。
あまりのマリィの泣きっぷりと慌てっぷりに困惑したトールはマリィをぎゅっと抱きしめてから……トンっと首裏を叩いて意識を落とし、トロッコから落ちないようにしっかりと抱え込んだ。
なお、リオはスタートダッシュの悲鳴が切れた時点で気絶していた。
sideダーツ
あっという間にトールさん達は文字通り跳んで行った。
それを見送って…すうっと息を吸う。
落ち着こう。貴族様とは接したことあるじゃないか。大丈夫、きっと大丈夫だ。
背筋を伸ばしてマキエ姐さんの横に並んでにっこりと微笑む。
「お気遣いいただきおおきに。初めまして私責任者のマキエどす。こちらは迷宮宿屋の管理補佐をしとりますダーツどす」
「初めまして、お会いできて光栄です。ダーツと申します」
「あの有名な迷宮宿屋の!君と君の姉には是非会ってみたいと思っていたんだ。マキエも彼女達を連れてきてくれてありがとう」
にこにこと笑いつつ、ん?と気になることが多々ある。マリィ姉さんと姉弟なんて言ってない。調べられてるなあと、そこまではまだいい。
マキエ姐さんがただの運び屋みたいな言い方をしたような気がする。
「そないな、気にしいひんでください。仲間と一緒に旅をして来ただけどすさかい。なあ、ダーツ?」
「ええ。マキエ姐さんから学ぶことは多くて助かってます」
仲良しアピールをマキエ姐さんから貰ったので僕からもパスを返すと貴族様は嬉しそうに笑った、ように見える。その内心はさっぱり読めない。
「仲が良くて何よりだ。ああ、私はアイギス・ラウラだ。食事でもどうかと思ったが忙しそうだからな。また日を改めて誘うとしよう。落ち着いたら連絡を寄越してくれるか?」
「わかりましたわ。身支度が整うたら連絡しますわ」
そしてあっという間にラウラ様は去っていった。
でもまだ気は抜けない。ギルドマスターの方はいらっしゃるのだから




