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「あ、ダーツ。取り急ぎ詠唱速度が早くなる魔道具が欲しい」
「それなら移動の間誰かに借りるか?魔職なら絶対に持ってるから」
「本当ですか?助かります」
詠唱速度が上がる指輪、壊れちゃったからなあ。真っ二つに割れた指輪を取り出してしょんぼりするとトールさんに頭を撫でられ「直ぐにちゃんとした指輪贈るから」と囁かれて顔が赤くなる。
マキエさんとダーツ、私とトールさんで話していると先程紹介されようとしていた五人が戻ってきた。
「マキエ、空間やばいな」
一番年上の…マキエさんよりも年上のおじさんがそう言い出そうとするとマキエさんは唇に人差し指を当てて来た全員を黙らせた。
「やばいどすえ。なあ、あんたたち……マリィお嬢ちゃん、ここを貸してくれはるそうどすよ」
「え、ここって…ここか?」
そう言って一人目が指さしたのは馬車が置いてある広場。マキエさんが笑顔で頷く。
「え、こっちは?」
二人目が指さしたのは水場と竈。
こちらもマキエさんが笑顔で頷く。
「……あれは?」
残った三人が恐る恐る館を指さして…それにもマキエさんは艶やかに笑って頷いた。
固まる五人。
その硬直が解けるのもまた五人一緒であった。
「ま、ま、まじか!?じゃあマキエ、ここにズラーっと出店並べてもいいのか?」
「構いまへん。でも計画をちゃんと立てなさいな」
「あ、あの家!自室作ってもいいのか!?」
「部屋数はありそうどすからええんじゃない?」
「お、俺たちついに自分の店を持てるのか…!」
「店というか商店街と言うか、難しいところどすがねえ。この中に売り場をしっかり作って、各町では扉を開くだけに出来たら宿代も浮きますし理想だなあとは思いますねえ。でもタダで借りるわけじゃないどすよ」
マキエさんがそう言うとはしゃいでいたおっさんたちは一瞬で沈静化した。
マキエさんとダーツは確信犯なのかにこにこしていて、自己紹介はまだまだ先になるだろうなあ。
そう思いながら、トールさんの手を引いて扉の外に出て馬車の荷台に座った。と言っても振動が酷くてまともに座れないけれど。
「お、出てきたのか。もうラクーンは出たよ」
「お、おつか、れさま、です」
幌の外には、ラクーンの街並みが見えていた。
私が育った、大切な故郷。
ーーーーいつか、絶対帰る。
じっとラクーンを見て胸に誓って……扉の中から聞こえる大歓声にふっと笑った。
「トールさ、ん。このあと、はどこに、行くんですか」
「予定では村をいくつか経由して鉱山都市に行くそうだ。俺たちの装備を整えないといけないからな」
そうか。
環境は変わってしまったけれど……私はまだ、宿屋ができる。大切なみんなと一緒に。
新しい環境でも、もがいて、必死に生きていこう。
火傷跡のある掌を見て、ぎゅっと握りこぶしを作った。
「あ…」
「どうしたマリィ」
やばい。ロディさんのことすっかり忘れてた。絶対、絶対に怒られるんだろうなあ。
後でちゃんと出して紹介するから。
ーーーーもうちょっと待っててね。
心でロディさんに謝りながら、遠くなっていくラクーンの街並みをトールさんとムサシさんと一緒に眺めた。
ラクーン迷宮編完了にて一度完結とさせていただきます。
行商人になったマリィ達による移動式宿屋&商店の話し、地底から来たロディの話、鉱山都市編のお話はまた今度書きますが、他の作品も書きたいので連載再開まで今しばらくお待ちください。




