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「すみません、馬車初めてなせいか揺れがきつくて…」
「仕方ないどすえ。今回はちょっと人数を集めようと一番大きい馬車を指定したので一番揺れが酷いんどす…こちらこそ配慮できず申し訳ないどす」
空間の向こうとこっちでペコペコと頭を下げ合う----と。
扉の向こうから、馬車に座っていた人たち全員が中を覗き込んでいた。
「お、おいなんだそこ!」
へ?
なんだと指さされて後ろを見る。
そこはいつもの百人宿屋だった。
と言っても兵士さんたちが集合をしていた広場には馬車が四台停まっていて、玄関の辺りでリリエラがマキエさんのとこの人たちをちょうど中に案内してるとこだった。
冒険者みんなの姿は見えない。恐らくもう室内にいるのだろう。
「どうかしましたか?」
「どうかって、おま、お前!!」
「姉さん、姉さん、そのサイズの空間は規格外のでかさだからね…」
「あ、そっか」
「これは…噂以上にやばいお人でおすなあ」
いやこっちから言わせてもらえばそのやばい揺れで平然と喋ってるそっちの方がやばいんですけども。
「うち来ます?」
と言った瞬間御者以外の全員がこっちに来た。そしてトールさんがアサシンズで比較的軽傷でまだ動けるケントさんに御者の護衛を頼んでいた。
そうか、トールさんは私も向こうのみんなも守るためにいたのか。
「お、おい!これはなんだ!」
と言って指さされたのはまだ水空間を繋いでいない水場だった。
蛇口を必死に触って目をキラキラさせてこっちを見るおじさんの元へ急いで水空間を設置した……瞬間、水が吹き出して顔面から水を被ってびしょ濡れになるおじさんと、歓声をあげる周りのおじさん。
「こ、これはなんだ!」
「洗濯物を干す場所ですけど」
「これは!」
「前に使った方が希望されたので竈ですけど」
「あれはなんだ!」
あれ。あれ。
指さしてるのはどう見ても、宿だ。
いや竈も干場も宿屋も見りゃわかるだろうに。
「宿屋ですけど」
と言った瞬間歓声をあげて家の中に突っ込むおじ様軍団。
自己紹介はどうしたと思いつつ、ふっと思わず笑う。
なんか無邪気で可愛い人達だ。まるで冒険者みたい。
「お嬢ちゃん、これがお嬢ちゃんの使う宿屋どすか?」
「あ、いえ。これは新しい宿を作り直すまで仮で使おうかなって…」
「これ使わへんのどすか!?」
笑顔だったマキエさんもついに叫んだ。
もう逆に楽しくって、トールさんに寄り添ってくすくすと笑う。




