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「あー、お前らに大至急しないとならねえ話がある。マリィ、ネロたちも出してやれ」
知らないうちに治癒師達はいなくなっていた。
床に座ったトールさんの膝の上に座ってまだグズグズ泣きながらも、いつの間に来たのか分からないガンツさんに言われるまま百人宿屋から弟妹たちを取り出す。
弟妹たちは即座に泣きながら冒険者たちに飛びついた。
ロディさんはまだちょっと空間の中で待機だ。
「出てきたか。積もる話もあるけれど緊急事態だ。今朝密偵から届いた話だ。うちの国が隣国に宣戦布告するって情報が届いたーーーその際の戦術プランにマリィ、お前の名前が挙がってる」
………ふぁっ!?
驚きすぎて涙が止まって呆然とガンツさんを見上げるが、周りの全員はむしろ落ち着いて見えた。
「今回の任務に紛れた王子の派閥のもんが優秀だと王子に上奏したみたいだな。今は国王と俺と繋がってる貴族とドロワ閣下が止めてくれているそうだがな。過去類を見ない少ない犠牲者で勝てる戦になりそうだってことでやべえ数の貴族たちがノリノリで本来のマリィの帰還予定日までには押し切られるそうだ」
王様は頑張ってくれていたのか。
私はただ一生懸命、宿屋をやっていたいだけなのに。
「という訳でマリィ、お前は解雇だ」
「………はいぃ!?え、なんで!?」
「なんでじゃねえよ。冒険者なら国の要請なんざ跳ね除けられるがお前は職員だろ。前の時みたいに戦に協力しろって王命飛ばされたら一発でアウトだ。だから、クビ」
なんだろう。庇ってくれているのだろうけれど。
なんで、笑顔で首の前で手を振ってるのガンツさん。
「でもここに居たら兵士に捕まって戦に駆り出されるからな。安心しろ、お前の次の就職先は用意した」
ガンツさんがそう言うと、扉が開いて……ダーツとのほほんと微笑むお姉さんが入ってきた。
「初めましてマリィお嬢さん。うちはラクザルバの傘下で行商人やっとりますマキエ言いますわ」
「あ……初めまして…」
めちゃくちゃ優しそうなお姉さんだなあ。
それにどことなく…院長に似ている。院長よりも断然若いけれど。20代後半くらいかな…?
「マキエの商団はあちこちの国を渡り歩いていてな。ラクザルバ商会に属する商隊の中でも上位の部類だ。各国とコネがあるからこいつんとこに入りゃうち以外の国もそうそう手は出せねえ。それにこいつ自身も色々とやべえコネの血筋持ちだ。それにこいつ、腰を下ろすと決めるとそこにワンシーズンは居座るんだ」
「居座るとは酷い言い草ですなあ。うちはお客さんとしっかり付き合って行きたいだけですわぁ」
お、おう。国でも手を出しにくい商団ってことはわかった。半分くらいしか頭に入ってこないと思っていると、ガンツさんがツカツカとこっちへ来て、ぽすっと頭を撫でてきた。
「…ガンツさん?」
「だからな、これからはマキエと一緒に移動式宿屋……それから腰を据えた都市の迷宮で宿屋なんてどうだ?」
「…え…?」
違う迷宮で……宿屋?
まだ、迷宮で宿屋ができるの?
みんな怪我して、解雇されて、めっちゃ絶望して。
それは救いのように聞こえた。




