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ふと、マグマの沸き立つ音で目が覚めた。
ゴソゴソと時計を出すと四時。昼夜の感覚の無い迷宮だとしても起きるには早い。
ふわ、と欠伸をしてーーーぎょっとした。
扉から黒い物体が中を覗き込んでいたのだ。
驚いて硬直してーーふっと力が抜ける。
『Jdhdytal,d?』
「あ、ちょっと待ってくださいね。レオ、レオ、通訳ポーションちょうだい」
ゆさゆさとレオを起こすとみんなが目を覚ました。
ぼんやりと寝ぼけるレオも、扉の向こう……ダディオさんを見てはっと飛び起きた。
「う、うん!取ってくる」
走っていったレオを見送ってダディオさんを見ると彼は手振り身振りで何かを伝えようとしているのがわかった。
「ちょっと待ってくださいね。今通訳ポーションを……」
そう言った瞬間。
前にプレゼントしたマジックバッグから彼はナニカを取り出した。
それは
胸元から頬にかけて、焼けただれたムサシさんだった。
呆然としたのは一瞬で。
瞬間的に思考を回す。
ムサシさんは重篤だ。即座の治療が必要だ。
そのためにはダディオさんを入れる必要がある。
でも、入れて大丈夫なのか?
ここに入るために彼がムサシさんを利用してるのでは。
前に一度会っただけの人を信用して……良いのだろうか。
『良いか?絶対に、絶対に出るなよ?マリィが短気を起こしたらレオやネロ達も危険なんだからな?良いか、絶対だぞ?』
アイズさんの何度も重ねた忠告が頭をよぎる。それに同意するみんなも。
ーーーみんなの中には、今目の前で意識を失っている大火傷を負ったムサシさんもいた。
だけど、ごめん。
妹弟は大好きだけど。
「姉ちゃん、これ通訳ポーション」
「ありがとうレオ」
差し出されたポーションを飲んで、ダディオさんにも投げて渡すと彼は片手でムサシさんを支えているにも関わらず難なく受け止めてそれを飲んだ。それでムサシさんに気づいたレオが息を飲み、弟妹たちも起きて硬直しだした。
「全員、ここから出ないでね」
「…え……姉ちゃん……?」
「ダディオさん!今から外に出るので少しだけ守ってください!」
『む?わかった』
そして、扉へ向かって一歩踏み出す。
「ダメだ姉ちゃん!!」
そして私は灼熱地獄へと飛び出した。
「姉ちゃん!早く戻って!!」
「…出てきちゃ、ダメだよ」
ネロが、リリエラが、
レオが、リオが
飛び出してこようとするので外から中に向かってそう言うとみんな泣きそうな顔をしていた。
時間が無い。
一瞬で宿屋空間を閉じて…今まで扉を設置していた壁に触れる。
『空間を切り離して付与しますか?*注意 切り離された空間は元に戻せません』
……初めて作った、空間を。
みんなと過ごした、自宅を。
『はい』
壁へと固定化させた。
冒険者であればマジックバッグなどの空間の開け方は知っているだろうが、地下のダディオさんはきっと知らない。
知らないことを祈りながら向かいの壁に百人宿屋の入口を設置した。




