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必要に駆られれば


 修哉は言う。互いが互いを卑下していれば軋轢しか生まれないのは当たり前だと。修哉は吠える、人間はエルフを格下に扱いエルフは人間を下等生物だと見下す風潮、何とかならんのか?お前ら自分を持ち上げ過ぎじゃないかと。


 その言葉はナーケルシュ族の族長、エリー・ジヌデューヌの耳と心に鋭く突き刺さった。人間の数が少なかった当初は援助したが、救いを求める人間たちが大勢になると、結果として見放してしまったのだから……。


 カルステン市長の謝罪の為の訪問は功を奏した。修哉が間に入り、もう一人の原初の導士莉琉昇太郎も市長と一緒に謝罪した事が、ナーケルシュ族側に受け入れられたのである。

もちろん全てが丸く収まった訳ではない。あくまでも戦闘行為を止める事と、人間側がアンカルロッテの森に侵入して狩猟を行わない事が決まっただけで、その後についての話はまだ未知数のままである。当然双方に出た死者についてのケジメもまだ決まってはいない。


 だが、その場で修哉が一つのアイデアを出していた。

人間界とエルフなど亜人種の社会とを分断する巨大な山脈「カラマソフ山脈」の終点が、リジャの街から逃げて来た難民キャンプのある平野で、そこには大量の雪解け水を海に運ぶ一級河川並みのイーザリ川が流れている。そしてこの難民キャンプから約三キロメートルも西に歩けばこの大陸を囲む大海、スヴェート海に繋がるのである。


 シルフィアやエリー・ジヌデューヌからこの地についての基本情報は得ており、これだけの立地条件で何もしない手は無いと判断した修哉は、ナーケルシュ族の承諾を得て森の木の一部を伐採して資材にし、イーザリ川で仕掛漁を行い、スヴェート海には舟を浮かべて、漁業で生計を立てるんだ、そして漁獲高の数割をエルフたちに譲れと提案したのである。


 国を支えていた穀倉地帯の農民からすれば、いきなり漁師になれと言われてもピンと来ないのはしょうがない話ではある。だが背に腹は変えられない事は難民の誰もが心得ており、これ以上の衝突や流血を避けるためにも魚を捕って生き延びる事で何とか落ち着いた。


 幸いにも漁が始まるまでの当面の間は、ナーケルシュ族だけではなく、他のエルフ族も協力して難民たちの食糧を提供する事で話は進み、まさに地獄の局面を脱したかに見えた。


 だが、何とか理想的な絵が描けたはずなのに、何故かリジャのカルステン市長だけは浮かない顔をしている。いや、まだ修哉に言っていない不安要素を抱えていたのだ。



 深夜、急ぎナーケルシュ族のコミュニティに戻り、修哉を間に入れてエルフと人間の会談が行われた翌朝。場所はエルフの森アンカルロッテの南外縁。


 日の出とともに始まった作業は木の伐採。間伐にも都合が良いとエルフも快諾してくれたこの作業は、カラマソフ山脈の雄大な山々の稜線から太陽が顔を出し始め、完全に顔の輪郭が整った段階で終わってしまう。


 呆気に取られるナーケルシュのエルフたち、そして市長からの要請を受けて作業を手伝おうとした難民の男性たちもポカンとし、開いた口が塞がらないままである。

何故なら、伐採そして枝打ちから製品加工まで、ディメンション・リビルドがあっと言う間に終わらせてしまったのだ。


 木の幹や枝の切断面をイメージして繰り出した二次元空間「次元斬(昇太郎命名)」は、バッサバッサと伐採と剪定を繰り返し完全な角材にと姿を変える。

皆が呆けながらさすが原初の導士様だとため息をつく中、仕掛け漁や舟の資材に変わってしまった木材を前に、修哉は満足げな顔で莉琉昇太郎に声をかけた。


「昇太郎、今度はお前の番だ。それをイーザリ川と海に運ぶんだぞ」


「ふええ、修哉きゅんもスケールの大きな事するよねえ。昔からこんな子だったっけ?」


「必然に駆られれば何でもする、そう言うもんだろ」


 莉琉って呼んでよと抗議もせずに口をぽかんと開け、うへええと感心しきり。

まだ以前の世界にいた頃の修哉では考えられない行動と口数の多さ。組織のタガが外れて自律行動すると、彼はこんなに能動的で素敵な笑顔を見せるんだと、莉琉昇太郎の瞳に映るハートマークはいよいよその輝きを増し始める。

ただ、悪寒を感じた修哉が早くしろと詰め寄りながらゲンコツを掲げた為、ラヴアタックは未遂にと終わってしまった。


「さあ始めるよ、先ずはイーザリ川に運搬を始めよう!」


 ひらりと馬にまたがった莉琉は、トラック二台分もある木材を真顔で見詰める。日本の闇から正義を見詰めていた柳田学校の非正規部隊「桜花」、その桜花の中においても最多の出動回数を誇り、そして誰からも一目置かれていた存在の莉琉昇太郎が、随一で唯一の能力を放つ。


「コケティッシュガール、プリティ莉琉の、キュートマジカルパワー!」


 バカヤロウまだそんな掛け声やってんのかよと頭を抱える修哉を尻目に、大量の木材はその重さを忘れ、軽々と宙に浮いて浮遊を始めてしまう。


「じゃあ川まで行って来るね、修哉きゅんはのんびり休んでて」


 信じられない光景にどよめく人々、それを尻目に馬に乗る莉琉は、重力を忘れてふわふわと浮いている木材を背後に従わせながら、タッタカタッタカと足取り軽く平野を駆けて行ってしまった。


 苦々しくも頼もしくそれを見詰める修哉、ふうと一息吐きながら、自分が切断した木の切り株に歩み寄って腰を下ろすと、ちょうど準備が出来たのか、エマニュエルとシルフィアが朝食を持って現れた。


 莉琉の凄まじい能力を目の当たりにして硬直していた人々も、イーザリ川で仕掛け漁の為に木材を組み立てなければならない事を思い出し、莉琉の後を追う様に走って行く。

静かになったところで、修哉とエマニュエルとシルフィアは、小鳥のさえずる森を背景に、のんびりと朝食に舌鼓を打つ事となった。


 直火でゆっくりと炙り、仕上げにマスタードソースを塗ったチキンをパンに挟んだチキンサンドを、鶏ガラとトマトで煮込んだチキンスープで流し込む。チキンは私が炙ったのよと自己主張するエマニュエルは、微力だとは自覚しているものの、役割を与えられてプロジェクトに参加した事に、非常に満足そうだ。


 とりあえず資材は準備したし、後は莉琉昇太郎と難民たちが力を合わせて川漁の仕掛けや舟を組み立てて、実際に漁を始めて食糧を確保するだけ。

今の内にリィリィルゥルゥに赴いて、ハイエルフの女王に面会を求めようと話していると、力仕事には直接参加せず、街の長老たちと打ち合わせしていたカルステン市長が、不安を隠そうともしない青い顔で修哉の元へやって来た。


「導士シューヤ、お時間を頂いてもよろしいですか?」


 市長の表情があまりにも怪訝である事に気付いた修哉は、ちょっと歩きましょうかと言って席を立ち、「ごめんな、ちょっと市長と話してくる」と言って、エマニュエルとシルフィアの元を後にする。

市長の異変にはエマニュエルたちも気づいており、並んで歩いて行く二人の背中を見詰めていた。


「何か……、深刻な話のようだな」


「シルフィアは知らないの?」


「知る訳ない、昨夜はずっと森で待っていたし、君達が交渉に行って帰って来てから、やっと今シューヤとのんびり出来たところなんだが……」


 会話しながらも二人の目は修哉に釘づけ、何を話しているのか気になって気になってしょうがない。

だが、ちらりと市長に向いた修哉の横顔を見て、エマニュエルは後ずさりしてしまうかの様な負の衝撃に襲われる。

修哉が怒っているのだ、彼が今までエマニュエルに見せた事の無いような程の圧力と熱量を持って怒っているのだ。


 背筋に冷たいものを滴らせながらも見つめる先の修哉は、彼の血液が沸騰しているかの様に顔を真っ赤に染めて、残酷で苛烈に輝く瞳は殺気を過分に含んでいたのである。


(……シューヤ怒ってる!?なぜ、なぜなの?何が起きたの?……)


父親のように自分に優しくしてくれる大きな存在が、断罪の天使にも破壊の魔王にも見えてしまった瞬間であった。



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