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SKY WORLD  作者: 青瓢箪
グレートルイス 首都キッド編
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デイー 再び

 厨房の繁忙期と繁忙期の間のわずかな時間。


 二人の少年はシンクの前に立っていた。


 シンクの中には水が張られ大量の玉ねぎがぷかぷか浮いていた。

 二人の少年は根気よく玉ねぎの皮をむき続けている。


 ペティナイフの先で玉ねぎの尻を刺し、くるりと玉ねぎをまわして芯をくりぬいた後は、頭を切り落とし、水でふやけてむけやすくなった皮を玉ねぎを横にまわしてむく。

 むきおわった玉ねぎは横に置いてある大きいざるの中に次々と放り込んでいく。

 ざるの中の玉ねぎの山はどんどん大きくなっていくが、シンクの海に浮かぶ玉ねぎは減ったような気がしない。


「……だめだ、腰がいてえ」


 二人のうち、背が高い方の少年がそう言ってため息をつき、足幅を広げ重心を下げた。

 彼の身長ではこの厨房の台の高さは低すぎる。

 彼は長時間、皿洗いなどをしていると腰が痛くなる。


「仕込み始めるまでに終わらせろよ」


 二人の少年の後ろを煙草を吸ったコックが言いながら通りすぎた。


「はい」


 二人は声を合わせて答える。


「……なあ、デイー。この間のアドゥルの話だけど」


 背が低い方の少年が隣の背の高い少年を見上げて言った。


「楽に儲けられる話があるって……どう思う?」


「運び屋だろ。どうせ」


 デイーと呼ばれた少年は玉ねぎから目を離さずに答えた。


「そうやって、何年もぶちこまれる奴ら今まで何度も見てきたろ。やめようぜ、カラフ」


「それが、運び屋じゃねーんだってよ」


 カラフと呼ばれた少年は、声をひそめながら言った。

 彼は褐色の肌、縮れた黒髪、骨太のがっしりした体型、濃い眉に彫りの深い目鼻立ちをしていた。一目瞭然、典型的なキエスタ人の少年だ。


「ちょっとだけでも、話もう一回聞いてみねえ? そいでもって、一回くらいやってみてさ、やばそうだったら、やめたらいいし。……西部出身のあいつがやってんだぜ? 俺らにもできんだろ」


 確かに。

 アドゥルも西部出身だ。

 デイーは玉ねぎを取り上げながら考える。


 グレートルイスにきたキエスタ人はお互いを出身によって区別していた。


 まず、この国で一番幅をきかせているのは南部出身者だ。

 彼らは勇猛で血気盛んな一族が多い。けんかっ早いのが特徴だ。

 中にはいいやつもいるが、彼らをキレさせると怖いので、デイーは彼らにはあまり近づかないようにしている。

 南部出身者は違法な職に就いているものが多い。


 次の東部出身者。

 彼らは薬草や民間療法、占術などの知識に秀でており、そういった職業について生計をたてる者が多い。

 一度、デイーは東部出身の少年に腰痛を訴えたら鍼治療をしてもらったことがある。あれはしばらく効いた。


 そして次の北部出身者。

 彼らは2種類に分かれる。


 まず、20年前の戦地となった北東部出身の者。

 彼らは皆鋭い表情をしていて、感情、口数ともに少なく、なかなかこっちに慣れようとしない。

 反対にキエスタのケダン山脈にちかい北西部の者は、だいたいがのほほんとしている。質素な生活を送っていた彼らは、こちらの生活が苦にならないようだ。


 最後に、デイー、カラフたちを始めとした西部出身者。

 彼らは他の地域のキエスタ人から『温室育ち』と称される。


 なぜなら20年前の戦争の際、西部だけが全くその影響を受けなかったからだ。

 キエスタ北西部に南北にまたがるケダン山脈が自分たちを守ったのだと、西部の民は言う。

 北部、東部、南部の民が戦時中悲惨な状況にいるなか、西部の民だけが普段と変わらぬ生活を続けていたという。

 西部では享楽的な女神ネーデを主に信仰するためか、西部の民の気質も他の地域の民に比べると享楽的だ。

 女性の衣服は、他の地域に比べると群を抜いて華やかだ。色鮮やかな刺繍をほどこした民族衣装を身にまとい、これでもかと思うくらい装飾品で飾り立てる。

 街中の建造物も、タイルが貼り付けられ、屋根には金を貼る。


 食足りて、衣を知る。

 という言葉があるれども。

 ケダン山脈からの雪解け水で育つ作物と、キエスタ西海岸でとれる豊富な海産物が、西部の民に装いというこころのゆとりをもたらしたのだろうと思う。


 確かに他の地域の者と、自分たちは明らかに顔つきが違う。

 自分で見てもそう思うのだから、他の地域出身者から見たら、自分たちなんか温室育ちのお坊ちゃんにしか見えないんだろうな、とデイーは思う。

 ゆえに、自分たち西部出身者には危険な仕事が、なかなか回ってこない。

 言い方を変えると、割のいい仕事が回ってこない。

 それが通常だったのだが、最近西部出身者の仲間の一人に、急に羽振りのいいものが出てきた。

 カラフは、その彼のことを言っているのだ。


「なあ、デイー」


 カラフはすがるようにデイーを見上げた。


 ……キエスタで富裕層の家のメイドとして働いていた姉が、先日突然解雇された。

 しかも妊娠して。

 主人に手を出されたという。

 怒った妻が姉を追い出した。

 慰謝料、養育費そんなものは一切なしに。


 キエスタで堕胎は忌むべき行為だ。

 神に反する行為とされ部族によっては、重罪で死を持って償う場合もある。


 姉は今実家に戻っているが、彼女の人生はもう終わったようなものだし、あてにできない。

 結婚もせず妊娠した彼女に、もう縁談は来ない。

 子供と二人、ひっそりと実家で生きていくしかない。


 したがって今まで、姉と二人で分担していた実家への仕送りはすべてデイーの背中にかかっている。


 ――先日、下の弟が高等学校への進学はいい、と手紙をよこした。


 くやしくて仕方がない。

 今までそれを目標にやってきたのに、何で今更。

 一番傷ついているのは姉自身だろうけれども、彼女を非難せずにはいられない。


 弟はもの覚えがいい。

 昔から頭が良かった。


 デイーは、ぽちゃん、と持っていた玉ねぎをシンクの海に落とした。


「わかった。一度だけ話聞いてみようぜ、カラフ」


 つれない態度を変えたデイーに、カラフはうれしそうに顔をほころばせた。







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