土曜日
土曜日の夜、ホテルの部屋にいるウーは寝着に着替え終わり、ベッドに潜り込もうとした。
まだ時間は九時だが、ウーはいつもこの時間には寝る。
ニャム族にいた時には日没とともに就寝し、夜明けとともに起床していた。
外が暗くなったときにはもう体が眠る準備に入ってるのを感じる。
密林の外の世界の住人は、夜遅くまで起きていても平気だ。
ウーにはそれが信じられない。
すでに頭がぼうっとしつつあったウーは、部屋のドアがノックされるのに気付いた。
ベッドから降り、裸足のままドアへと向かう。
ドアを開くと目に飛び込んできたのはリックの姿だった。
「……日曜日は明日だけど」
「それは、わかってるけど」
ウーの言葉にリックは力なく笑って言った。
彼の背後にジミーが立っていて、不機嫌そうな顔をしている。
「どうしますか」
ジミーが聞いた。
「……入って」
ウーはドアを大きく開いてリックを招き入れ、ドアを閉めた。
リックは初めて会った時と同じレインコート、チノパン、そして紺のセーターを着ていた。
「あたし、夜は眠くて仕方ないの」
部屋に入ったリックにそういうと、ウーは彼のレインコートに手をかけた。
その手をリックはおしとどめて言った。
「いいや。今日は、先に話そう」
「……しないの?」
見上げて聞くウーにリックは軽く苦笑した。
コートを自分で脱いで椅子の背もたれにかけると、リックは椅子に座る。
「今日は、君とのんびり話したいんだけど」
「そう。でも、あたし、眠くて我慢できないんだけど」
ウーはうつらうつらしかける意識で、正直にリックに答えた。
「そうか。じゃあ、寝ていいよ」
リックは微笑んで椅子から立ち上がると、ウーに近づいた。
ウーの腰に手を回し彼女の顔を見下ろす。
「今夜、隣で俺も寝ていい? 君の眠りの邪魔しないから」
「……うん」
彼の青い瞳は輝きがなく、いつもの彼とはちがうとウーは感じたが、眠気でそれどころではなかった。
彼とベッドに入り、横になる。
ベッドサイドの明かりだけともす。
彼はセーターだけ脱ぐと、ウーの背中から彼女を抱きしめた。
「……抱いてていい?」
「うん。あったかいから」
彼から伝わる体温をウーは快く感じる。
「もしかしたら、明け方とか、君に手を出すかもしれないけど」
「明け方なら、いいわ」
と、ウーは意識を手放しかけながら背中のリックに答える。
「……俺の名前、わかる?」
「リックでしょ」
「正解」
話しかけるリックの声を夢うつつに聞く。
「……今日だけは、リックって呼んでほしいんだけど」
最後のリックの言葉は眠りに落ちる瞬間でウーは聞いていなかった。
リックはそんな腕の中の彼女に苦笑する。
特大の高級寝具に、彼女とくるまって、彼女を抱きしめている自分はとてつもなく幸せだと思った。
腕からつたわってくる彼女の体温や、寝息や、頬をくすぐる髪の感触、彼女のにおいのひとつひとつが愛おしかった。
体中を満たす幸福感に、リックは浸る。
ウーと夜を過ごすのは今日が初めてだ。
いままでも前日の夜から来ればよかった。
そうすれば早朝、ジミーさんを起こすこともなかったろうし。
気付いてリックは軽く悔やむ。
リックはウーの髪に顔を埋めて目を閉じた。




