スーツの男
すっきりして心も軽く彼女の部屋を出たリックは、部屋の外で待ち構えていた男の姿に心臓が飛び上がった。
「うわ、何なになになに……!」
自分に近づいておもむろに自分の体中を探る彼に、リックはうわずった声を上げる。
彼女のお付きのスーツを着崩した男はリックのショルダーバッグを取り上げると、中からカメラを出した。
「あっ、それ、頼むから……」
リックが懇願する間もなく、カメラの中からネガを勢いよく引きだされる。
「……今日は、彼女を撮ってないんだけど」
うらめしそうに言うリックに男はカメラとバッグを返した。
「これからも、撮ることはない」
男は言ってまっすぐに立つとしょんぼりとするリックを見下ろした。
リックより頭半分背の高い彼はリックよりは体格がいいが、筋骨隆々というほどでもない。
シャツのボタンを外している首などはわりと細く、一番スーツが似合う体型をしていると思った。
黒っぽい髪は無造作になでつけられていて、肌はしわもなく光っているわけでもなく年齢不詳だ。
色つき眼鏡をとれば端正な顔立ちをしているのでは、とリックは推し測る。
「これから来た時と帰るときは、同じように体中調べさせてもらう。バッグも預かる」
男はリックを見下ろしたまま言う。
「はい」
リックは従順にうなずいて返事した。
「ええと、あなたは?オレは、リックです」
「ジミーだ。よろしく」
とジミーは、変わらない表情で言った。
「彼女のお世話ご苦労様です。……ところで、このことって、彼女の相手には内緒なんですか。それとも、OKの範囲なんですか。いや、あとで落とし前つけろとか言われても、困るし」
見上げて聞くリックの言葉に、ジミーは無言で眼鏡の奥からリックを見つめた。
「あなたが、もう来ない方がいい、と言うならもう来ません。怖いし。だから正直に答えてください」
本気で聞くリックに、ジミーは頷いた。
「許容の範囲だ」
「懐がでかい人なんですね。彼女の相手」
ほっとして、リックは軽くため息をついた。
「ええと、彼女が空いてるのは、水曜日と、日曜日で、いいんでしたっけ」
これは、彼女を追っているうちにわかったことだ。
ジミーが眉をひそめた。
「彼女から、聞いたんです」
リックはあわてて答える。
「まあ、その日に、俺の予定が空いてたら……来ます」
うそだ。
彼女の相手ができるんなら、どんな仕事でも蹴ってここに来る。
「じゃ、帰ってもいいですか」
リックはジミーに聞いた。
ジミーはあごで先に行くよう示す。
「失礼します」
リックは浮立つ気持ちをおさえて、なめらかな大理石の廊下を歩いた。
特ダネの予感。
彼女の相手は、大物に違いない。
廊下を曲がったリックは、軽く跳躍すると走り出した。




