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SKY WORLD  作者: 青瓢箪
グレートルイス 密林編
19/232

グレートルイス 大統領官邸にて

《グレートルイス 大統領官邸にて》



「レン! レン!」


 野太いバス。

 クリーニングに出したのは何年前だろう、というようなよれよれのスーツを着てネクタイを外した男が、ドアを開けて飛び込んできた。


 つややかな机上の面に向かい、真面目に筆記していたレンは、手を止めてこの上司ブラック副大統領を見た。


「なんですか、閣下」

「聞け。……奴の支持率が低下している」

「奴?」


 レンは叔父の無精ひげを間近で見つめながら問う。


 だいたい、叔父はいつもこうだ。外見を気にしないところが、彼の唯一の短所である。

 メディアや正式の場に出る時だけ、彼はひげを剃るのではないだろうか。

 もちろん、それもレンが口うるさく言ってやっとだが。


「奴だよ。あの女好きの黄色いキツネ野郎だ」

「ああ、キルケゴール様のことですか」


 ブラック副大統領は、とんでもない宝物を見つけたように目を輝かせる。


「ようやく、奴も窮地にたたされたってか。見ものだろう。奴が、どんな行動をとるか」

「一時的な落ち込みなんじゃないですか?」


 レンは気がなさそうに言う。


「いよいよ、あのキツネも取り合い合戦に入るか。どっちだ、フォークナーか、トニオか」

「わたしは閣下の支持率アップが願いですけど」

「……お前兄貴に似てきたな。時々つっこむ皮肉が」

「父からは、あなたに似ているといわれますよ。叔父さん」


 レンはコーヒーを入れに立ち上がった。


「ほお、どこが」

「顔以外にありますか」


 レンは楽しげに返す。


「叔父さんは結婚しないんですか?」

「俺は独身主義者だ、いまさら何言う」

「いえ、父が叔父さんも結婚すれば、きちんと身なりを整えるだろうってね」


 レンはさらり、と笑った。


「自分はさっさと結婚して、お前をよこして、田舎に隠居しやがって」


 ブラックは戻ってきたレンからコーヒーを奪い取った。


「正直に言うが、もしお前の母親のカレンが兄貴じゃなく俺をえらんでいたとしたら、俺と兄貴は立場が逆だったぞ」

「十中八九、叔父さんに分があったんでしたよね」


 レンは元の椅子に座る。


「どうして俺の父が、勝ったんでしょう」

「知るか」


 ブラックはコーヒーをすする。


「でも、カレンとの道を選んでいたら、俺の今の地位は存在しないからな」

「叔父さん」


 レンは机の上で手を組み、にっこりとつぶやいた。


「母がどうして、父を選んだか教えましょうか?」

「……?」

「俺ができたからですよ」

「……そうか」


 つぶやくと、ブラックはコーヒーを置き、おもむろに立ち上がった。


「くそ!」


 叫んでレンのネクタイを絞める。


「うわ……! ちょっと、叔父さん……!」


 ぐえ、と、レンはうめく。


「畜生! 兄貴の手の早さだけは知ってたのに!」


 レンを突き放すと、どかっと、ブラックは椅子に腰を落とした。


「父が、言ってました。叔父さんは度量もでかいし、何もかも有能なのに女に対してはいまいちだって。その点は俺とはぜんぜんちがうって」


 ネクタイをなおしながら、レンは笑う。

 そんな叔父だから彼の秘書を務めることにも抵抗はなかった。むしろ、望んだ。


「ああ、そうだ。今話してたキツネの国にクーデター騒ぎが起こったのご存じですか?」


 レンは思い出したように言った。


「何、知らんぞ」

「俺の情報網のほうがすごいっすね。まあ、ゼルダは隠すのに必死でしたでしょうが」


 レンは椅子をひいて座った。


「国立研究所で。若手の研究者が研究所の一部を爆破しようとしたんです。すんでで無事でしたがね。……おどろいてください、なんと、シーですよ」


 シーとは、ゼルダの生産の源。命の源でもある遺伝子学研究所。

 何百人ものコピーの胎児が眠っているという。


「気でも狂ったか。それとも、フォークナーの崇拝者か」


 ブラックは椅子にもたれかかり、思案するようにあごに手をやった。


「わしらの国のやつらかもな」

「まさか」

「まだ戦争はおわってないぞ。先に送り込んだ奴らがまだいるはずだ。……軍はなにをしているか、分からん。わしの手をすりぬけて」


 ひげの生えたあごをなでながら言う。


「緊急党会がひらかれましたが、フォークナー氏は欠席したそうです」


 レンは神妙にいってから


「自分がやらかしたっていいたいんですかね」

「奴なりの作戦かもな。実行にうつしたと民衆に思い込ませる。我慢限界のやつらのなかには、フォークナーに食いつくやつもでてくる」


 ブラックはコーヒーを飲み干した。


「哀れな国だな、いつも思うが」

「同情しますよ、友人には」


 レンは視線を下に落とす。


「そういや、キツネのお付きの二人はどうだ?帰ったのか?」

「ああ、はいはい、先ほどジャングル付近の村から出発したという連絡が入りました」

「悪運の強い奴だな、キルケゴールは。本来ならあいつらの代わりにキツネが災難にあっているところだ」


ブラックは鼻で笑う。


「笑い事じゃないですよ。我が国の名誉にかかわりますってば」


 レンはため息をついて


「正直に答えてください。フォークナー氏とトニオ氏。どちらに軍配があがるとおもいますか?」

「……そりゃ、トニオだな」


 ブラックは答えた。


「それは、キルケゴール様が、トニオ氏につくということですか?」

「あいつは、どっちにもつかんよ、レン」


 ブラックは深く椅子に座りなおしてから


「何考えてるか、わからん。いつも、あいつはな。だが、いまの状況は転がれば、あいつにとって有利になるかもな」

「それは……」


 言いかけたレンは口を閉じた。

 叔父はすでに大口をあけて寝ていたからだ。3秒で眠れる男。


 レンは首を振ってから書類に目を落し、再び仕事にとりかかった。


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