抵抗
次にキースが目を開けると、そこはもとのパイ女王の部屋だった。
さっきのふくよかな少女とけしからんほど乱暴な女が言い争いをしていた。
「起きたか」
ウーはキースに気づくと、近づいて胸ぐらをつかまえた。
「いいか。さっきのようなまねをしてみろ。今度こそ殺してやる!」
「……どうせ、殺すつもりなんだろう」
キースの言葉にウーは手を離した。
「ちがうか。そうなんだろう」
「……よくわかってるじゃないか」
ウーは立ち上がり、キースにそっけなく返す。
「このまま何も分からずに殺されるのは癪だ。俺に、説明しろ」
起き上がって問う、ひらきなおったキースの態度にウーはふん、とキースを見下ろした。
「ここは、いったいなんなんだ。どうして男がいない」
「わたしだって知るか。昔からそうなんだから。わが一族は女しか生まれない。女王は同胞しか産まない」
「なぜだ、生殖機能に異常が?」
「その言葉は知らない。たぶん、祖先から続く血のせいだ」
ウーはさらりとした髪をかきあげて続けた。
「今はわがニャム一族には、女王メヤナが8人いる。そして、わたしとおなじ下女クアンが、外から拾ってきた子供を入れて52名」
「クアン?」
キースはおどろいて聞き返した。だが、ウーは気づかずに言った。
「女王は子供を産めるが、下女は産めない。体が違うんだ。女王の場合、成長段階で下女とはちがうとわかる。女王は同胞を産める限り産む。我ら下女は女王を支え、生まれた子を育てる役目を果たす」
「まるで、女王蜂と働き蜂だな」
皮肉めいたキースの言葉も気にならない様子でウーの目が輝いてきた。
「女王は我らが母。女王こそが、一族の源。女王があって、我らが存在し、女王のために我らがある。女王に何かあれば、一族の終わりを意味する。女王になにかあれば、我らも死ぬということだ。女王の為には命を懸けなければならない」
「それは、おまえたちの宗教か?」
「宗教? その言葉も知らない」
ウーはけげんな顔をする。
「我らは女王の為とあらば何でもする。依神、男を狩ってくるのだって……それは重要なことだ、一族の繁栄のためには」
「俺を見つけたわけか」
キースを見下ろしたまま、ウーは静かに言った。
「お前は一目見て、探していた依神だと思った。今までの依神とは全く違う」
「ほう、どう違うというんだ」
キースは毒づく。
「よくわからないが……今までの男に比べてお前は自分の欲望をあやつれそうだと思った。抑えが効くんだろう。ここにいるパイ女王にはぴったりだ。それに、体の線も今までの男に比べるとやわいし、何よりもきれいだ」
「まて」
キースは3秒ほど前のウーの言葉を聞き直すために止めた。
「今、なんて言った。俺はつまり、だれの相手に……」
「ここにいる、パイ・ムーア女王だ」
キースは言葉を失った。
「冗談はよしてくれ」
数秒のち、キースはつぶやいた。
「冗談ではない」
「まだ、子供だろうが」
「何を! ムーア様はもう成人してもいいころだ。成人の依神になれるんだぞ、光栄に思え!」
ウーは再度キースにつかみかかる。
キースは軽くむせた。
「よしなさいよ、ウー!」
間にパイ女王が割って入った。
「この依神は様子がおかしいの。病気のようだわ。大事に扱ってやらないと」
「なにを……」
ウーはパイからキースに目を移した。
不規則な呼吸でにらみつけているキースのあごをつかむとウーは目をのぞきこむ。
「口を開けろ」
そっけなく言われ、キースはあきらめて言われた通り、口を開く。
ウーが鼻先を近づけ、くんくん嗅いだ。そして、次の瞬間小さな舌をキースの口にもぐりこませた。
そのまま、キースの口の中をすくいとるいようになめとる。
「マラバの毒か」
ウーはキースから顔を離して言った。
「タオ女王が飲ませたな。よく無事だったものだ」
「マラバ?」
「タオ女王のお気に入りの毒だ。さっきお前はタオのものになるところだったんだ。それをわたしが取り戻してきた。……マラバをのまされたものは、たいてい、廃人同様になる。あまりの苦痛にな。おまえは、奇跡としかいいようがない。タオ女王は、ムーア様の相手をお前にさせる気なぞさらさらなかったんだ」
「タオとは、何者なんだ?」
「第6女王だ。タオ女王は依神をすべて殺してしまう癖がある。無残な方法で」
キースは声を一瞬失う。
「ここは、男をどう見てるんだ! 依神としてあがめるんじゃないのか!」
「もちろん、そうだ。タオ女王だけが異常なんだ。普通は崇める。最期までな」
「……最期?」
問うキースウーは口をつぐんだ。
「やはり、いずれ男は殺される運命にあるんだな」
キースに責められ、ウーは迷っていたようだが、重たい口を開いた。
「ちがう。……殺す意図があるわけじゃない。病なんだ」
あきらめたのか、その先はすらすらと話し出した。
「女王と寝た依神はしばらくすると、だんだん体が弱って、一年以内には眠るように死んでいく」
「……一種の性病か、風土病か」
く、とキースは喉の奥で笑う。
「それを聞いてますますいうとおりにはしたくなくなったな。感染の可能性があるってのに、どうしてわざわざ危険を冒すか!」
「お前の場合、いくらあがいても仕方ないぞ。今日の日没にはお前の運命は決まっている」
「……?」
「日没にタオに引き渡す予定だ」
キースはあいた口がふさがらなかった。
「タオ女王には、逆らえない。お前を取り戻すのにも一苦労だったんだ。それまでに、パイ女王の……」
「そっちが病もちなら、こっちも持っている」
キースがふいに言った。
「なんだと?」
「同じだ。性病とはちがうがな」
キースは乾いた声で笑った。
「……嘘だ」
ウーはキースを見下ろして首を振り、否定する。
「なぜ、そう思う」
「さっき診た。5人ほどで調べたが、お前は正常だ」
「診ただと……?」
ウーはうなずく。
キースは目を見開いた後、閉じた。
気を失っていた時にウーたちに何をされたのかなんて、想像したくない。
「外に現れる病じゃない。もっと根本的だ。お前たちは女しかうまれないんだったな。こっちは反対だ。俺たちの国では男しか生まれない。子孫もその血を引き継ぐ。だから、俺たちの国では子作りは厳禁、重罪だ。……ほっときゃ男だらけになって世界中が滅ぶからだ」
「何をいうか」
ウーの言葉を無視して、キースは続ける。
「俺と女王に子が産まれたとする。男だ。その場合どうするんだ?」
「女王が産むのは同胞だ。いい加減なことをいうのは、やめろ。どうあがいたって無駄だぞ」
「本当のことだ」
キースはウーを見つめる。
ウーはふりきるように背を向けた。
「わたしの望みはお前がパイ女王と寝ることだ。それが第一だ。子はできなくともいい」
くそ、とキースは心中でつぶやく。
「まて」
出ていこうとするウーをキースは呼び止める。
「なんだ、今水を持ってきてやるから、飲め」
「お前の名は?なんていう」
「シャン・ウーだ。これは、第5女王の3番目の娘という意味だ」
ウーは告げて、キースを残し部屋を出て行った。




