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SKY WORLD  作者: 青瓢箪
グレートルイス シェリルシティー編
151/232

運命の相手

「うわっ!」


 夕食後、リビングでコーヒーを飲んでくつろいでいたシアンが叫び声をあげて、ソファーから立ち上がった。


「アリ、アリ、アリ」


 フローリングの床を指さし、シアンは上ずった声を上げる。

 床の上を大きめの一匹の黒アリが方向が定まらず、行き来していた。


「うるせえな。アリ、一匹ぐらいで。落ち着けよ」


 デイーがいらだった声で言った。


「ああ、ごめんね。すぐ後ろが、森だから。よく入ってくるんだよねえ」


 ターニャがのんびりとコーヒーをすすりながら言う。


「アリが嫌い?」


 ふふ、とミナがアリをつまみあげる。


「大嫌い。怖い。鳥肌立つくらい。ミナちゃん、お願い、早く外にやって……うわ、ここにも!」


 シアンは足元にもう一匹のアリを見つけて、飛び上がった。

 傍らのソファーに座っていたデイーにしがみつく。


「森のアリ、ってでかくて怖い。……ちょっと、デイー、はやくつまみだして!」


 うれしくて口もとが緩みそうになるのを必死に抑えながら、デイーは素っ気なく言った。


「踏みつぶせばいいじゃねえかよ」


「バカ野郎! うらまれて仲間に仕返しされたらどうするんだよ! 外に出せばいいだけだろ」


 仕返しって、なんだよ。

 こいつ、この間観たパニック映画の影響うけまくりだな。


 あきれて笑いそうになりながら、デイーは言われた通りアリをつまむ。


「で、どうするんだよ、ほら」


 シアンに近づくデイーに


「てめえ、ガキみたいなことしてんじゃねえ! こっちくんな、バカ野郎」


 シアンは飛びさすって逃げるとにらみつけた。


「アリなんて、食いもんだよ。東部じゃ、炒めてよく食べるよ。香ばしくてわりとイケるんだから」


 ターニャの言葉に、シアンは泣きそうな顔をした。


「だめ、それ以上言わないで。ターニャさん。オレ、本当にダメだから」


 苦笑して、デイーはミナと窓からアリをつまみ出した。


「殺虫剤でもかけとこうか。納屋にあると思うんだよね。坊や、ちょっと来て。手伝ってよ」


 ターニャが言って、デイーと共に部屋を出て行った。

 あとに残されたシアンは、もうアリがいないのを確認した後、一息ついてソファーに座った。

 隣に座るミナは、にこにこと笑い、シアンを見つめる。


「あー、ミナちゃん」


 リビングに二人きりなのを確認して、シアンは声をひそめてミナに向き直った。


「なあに。シアン姉さん」


 ミナは、首を傾げて青緑の瞳を向けた。


「ミナちゃんって凄腕の占い師、って本当なの?」


 コソコソとシアンはささやいた。


「彼から聞いてるでしょう?そうよ、占いは得意。……占ってあげましょうか?」


 ミナの言葉に、シアンは目を輝かせた。


「本当? やった。じゃあ、お願いしてもいいかな。えーと、オレの……」


 言葉を濁すシアンに、くすり、とミナは笑って代わりに言った。


「……運命の相手?」


「そう! それ」


 答えながら、シアンは恥ずかしく思った。

 でもよ、占いでそれ聞くのは乙女の定番じゃん。いや、もう乙女って年でもないんだけどよ。聞きたいじゃねえかよ。運命の相手とか期待したいじゃん。


「ふふ。いいわよ。……あなたの運命の相手はね」


 ミナが含み笑いでシアンを見上げた。

 シアンはドキドキして息を飲む。


「……もう、とっくに会ってるわ」


 シアンは目を見開いた。


「うそうそ、いついつ、だれだれ?」


 興奮のあまり、身を乗り出して聞く。


「ふふ。……彼はね、今は子犬よ。でも将来、彼はあなたのために、フクロウに化けるわ。とても賢くて、頼りになるフクロウにね」


 ……哺乳類から、鳥類に?

 訳わかんないんですけど。

 シアンはキョトンとした。

 でも、占いってそんなもんか。


「なんか、ヒントちょうだい」


「……彼は、もう既にあなたのことを愛してるわ。ただ、あなたの気持ちはまだ目覚めてないの。あなたが自分の気持ちに気付いた時に、自然に分かるわ」


 はぐらかすようにミナは答えて、可愛く微笑んだ。


 オレのこと、すでに好きな人?

 ……えーと、心当たりあり過ぎて分かんないんですけど。だれだよ。


 シアンは必死に考えをめぐらす。


 昔からの常連客のうちの一人か? あ、もしかして、今回グレートルイス行きを告白したら、泣いてすがりついてきたウーのイケメン主治医?


 ……カチューシャ市国のアルかなあ。確かにアルは特別だけど、そういう運命じゃない気がするけどなあ。


 もちろん、おっさんは除外だろ。


 えーと、あ、ボスか?ボスもありえるな。


 ……おいおい、まさか、西オルガンのジャック兄さんとかじゃないよな?あの人、恋人いるって言ってたじゃないかよ……。


 考えに没頭するシアンに、ミナは楽しげに笑って言葉をかけた。


「ちなみに、フクロウはラミレスの化身よ」


 その言葉をシアンはうわの空で聞いて頷く。


「おい、殺虫剤窓の近くに撒いて来たぜ。それから、先にシャワー浴びろって」


 部屋に戻ってきたデイーがシアンに声をかけた。

 シアンはぶつぶつとつぶやいて考えながら、シャワーを浴びに部屋を出て行った。


「何だ、あいつ」


 不思議そうにシアンを見送るデイーに、ミナが声をかけた。


「デイーさん」


「あ、はい」


 デイーは姿勢を正して、ミナを見下ろした。

 デイーは、ミナを少し苦手だと思った。

 ボスの妹、というのが一番の理由を占めると思うが、まあ、ちょっと可愛い年の近い女の子ということもあるし、彼女の雰囲気が独特なのもあった。

 見慣れない民族衣装を着た彼女は、青緑の瞳でデイーを真っ直ぐに見上げた。


「これから、兄をよろしくお願いいたします」


 デイーは面食らった。


「あ、いえ、俺……私の方こそ、ボスにはお世話になります」


 しどろもどろに、デイーは答える。


「兄は……あなたのようになりたかったの」


 ミナはデイーを見つめたまま、告げた。


「あなたは、兄の夢なの。失われた夢。あなたは、兄の希望なの」


 デイーはなんて言ったらいいのか分からず、うろたえる。


「兄をよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げるミナに、デイーは慌てた。


「いえ、こちらこそ、お願いします」


 礼を仕返して答えるデイーに、ミナはにっこりと笑いかけた。

 そして、そのままソファーに戻ると、編み物を手に座って再開し始めた。


 ……やっぱり、彼女は苦手だ。

 軽く息を吐き、デイーはダイニングの椅子に座り込んだ。








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