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出発信仰!  作者: もちもち物質
第三章:神は世界を救う
167/209

人か神か*4

「さーて……シベちんはどれぐらい戦えるんだっけ?」

「へ?シベッドですか?」

 ということで澪は早速、ナビスに聞いてみた。すると、ナビスはちょっと考えて……。

「出会ってすぐのミオ様程度ですね。ああ、でも、当時のシベッドはレッサードラゴンには太刀打ちできずに、腕を失うことに……」

「あああ、シベちん……そうだった……」

 ……そうして、なんとも言えない答えを貰ってしまった!

 そう!シベちんはポルタナ唯一の戦士であるが……そんなには強くないのである!というか、澪とナビスが強くなりすぎたのである!


「ねえ、ナビス。ナビスの目測だと……えーと、シベちんを装備とかでガッチリ強化した場合、どれぐらい戦えそう?聖女シミアに対抗できるぐらいの力、ありそう?」

 それでも澪は諦めない。それは、シベちんを活躍させたいからだけではない。単に、シベちんすら戦力にならないようだと、ポルタナ防衛が滅茶苦茶に難しいからである。

 ……概ね、シベちんの戦闘力はメルカッタの戦士達と同等かちょい上。となると、主戦力の水準がどれくらいなのかを測るのに、シベちんは良い指標となるのだ。

「え、ええと……少し待ってください。考えます。ううん……」

 ナビスも『シベッドに村の警護を頼む訳ですから……』と真剣に考え始めてくれる。澪はそれを祈るような気持ちで見つめている訳だが……。

「そう、ですね……聖銀の武具で固めれば、魔物に対してはとても強く出られると思います。今のシベッドであれば、レッサードラゴンには余裕をもって対処できるかと」

「あ、そっか。当時のシベちんよりは成長してるもんねえ。それもあるか」

 シベッドも、成長していないわけではない。澪とナビスの伸び方がとんでもなかっただけで、シベッドだって強くなってはいるのだ。一応。

「特に、海戦となればシベッドは強いですよ。最近では月鯨をほとんど1人で仕留めているとか」

「それは急に強くなったなシベちん」

「でも陸に上がるとちょっと精彩を欠きます」

「成程ね流石だわシベちん」

 ……まあ、シベッドの強さについては、何とも言い難いところがあることが分かった。

 多分、シベッドは向き不向きがとんでもなく偏っているので……海の上であれば割と強いが、陸の上ではそうでもない、という具合なのだろう。ついでに、魔物ではなく人間相手なら、猶更。

 澪は『まあ、シベちんだしな……オールマイティなかんじじゃ、ないもんな……』と密かに納得した。




「さあ!シベちんに活躍の機会はあるのか!ということでどうよ勇者フェーレス君」

「しべちんとは一体……?」

 ということで、澪は早速敵の事情に詳しい専門家の意見……勇者フェーレスの意見を聞くことにした。

「まあシベちんがシベちんなのは置いとくとして、とりあえず、ほら。聖女シミアが海から攻めてくる可能性ってどれくらいある?」

 敵部隊の一部でも、海から侵入してきてくれるのであればありがたい。そうなればシベちん無双である。いや、無双できるとは思わないが。まあそれでも多分、シベちん大活躍ではある。多分。

 ……と、かすかな期待を胸に、澪は聞いてみたのだが。

「……海、か」

 勇者フェーレスは、はっとして何か考え始める。

「確かに、それは有り得る。いや、むしろ……そうだな。海から攻めるならば、人数の限りが無いか……」

「え?」

 澪とナビスが首を傾げていると、勇者フェーレスは……焦燥を滲ませた表情で、言った。

「十分に有り得る。むしろ、海からであれば……10数名に収まらない、大規模な襲撃が可能だからな」

 どうやら、『かすかな』期待を遥かに上回る現実があったらしい。


 澪とナビスが『なんで?』と首を傾げていると、勇者フェーレスは少し呆れたように説明してくれた。

「なんでも何も、陸路は限られる。ポルタナ街道は人通りが多すぎるだろう。そこを聖女シミアの軍勢が通っていたら、秘密裏に、などということはできない」

「ああ……そうですね。そして逆に、街道を逸れてしまうと、街道を避けている魔物や賊と接触する可能性が高く、不確定要素が増えるわけですものね……」

 聖女シミア達も、魔物だの盗賊だのと遭遇したくはないだろう。となると、ポルタナ街道およびポルタナ街道方面……つまりメルカッタからポルタナへ、という経路は使いにくい、ということだ。

「逆に、コニナ村経由も厳しい。山越えを避けるのであれば、ほぼ確実にコニナ村に接触することになる。そしてコニナ村とポルタナは非常に密接な関係だと聞く」

「うん。そうだねえ」

「ならばそれも危険だ。報告される危険がある。先にコニナ村を滅ぼそうにも、そうなるとポルタナに気付かれるからな。……そもそも、ポルタナとコニナ村の間に整備されている街道は、細い。山もあればがけもある。10人程度であっても、不慣れな者達がまとまって移動するのには不向きだ」

 澪は『コニナ村と仲良くしといてよかった!』と心から思った。人生、何があるか分からないものである。

「……逆に、海路であれば、何も問題が無い。海賊を装って襲えば足もつかない。出航に際しても……そうだな、聖女シミアの一派の中に港町リーヴァの有力者が居たはずだ。ならば、その伝手を使えばそちらからも足は付くまい。更にそれならば、大人数でも問題ない」

 どうやら、聖女シミアの一派は海に多少強いらしい。となると、やはり海から来る、のだろうか。

 どう思う?と、澪はナビスを見た。するとナビスは頷いて、明るい顔で答えてくれる。

「ミオ様。私も、聖女シミアの一派は海から来るのではないかと考えます。陸路で来るには、その、ポルタナは……あまりにも、天然の要塞なので」

 天然の要塞、天然の要塞……と澪は考えて、頭の中になんとなく鎌倉幕府が出てくる。確かあれも、天然の要塞だったが……。

「そういやポルタナも、海と山に囲まれた村だったねえ……」

 ……ポルタナは、ポルタナ鉱山を有する山脈に囲まれている。そして残りは、海だ。そして山の切れ目はポルタナ街道やコニナ街道に繋がっているので、まあ、出入り口がしっかり警備されている天然の要塞になっているのだ。


「それに、陸路対策はあまりしなくてもよいのではないかと思います。彼らがポルタナに危害を加えるとしたら、きっと全国ツアー最終日よりずっと前ですから」

「ん?え?どゆこと?」

 更に、ナビスはそう言ってにっこり笑う。

「私を傷つけるためにポルタナを襲うというのであれば、私がポルタナで礼拝式を行うより前にポルタナを滅ぼしておきたいはずです。そして、直前では、全国ツアー最終日に駆けつけた人々……特に、メルカッタの戦士達でポルタナがいっぱいになってしまう。だからそこも避けたいはず」

 ナビスの説明を聞きながら、澪は首を傾げ……少し考えて、ピンときた。

「成程!つまり、奴らがポルタナを襲うのは、全国ツアー最終日や最終日直前じゃなくて……もっと手前!で、そうなると人が少ない状態のポルタナに知らない人がいきなり10人ぐらい来るわけだから、目立つ!」

「はい!そうなのです!ポルタナに人が少なく、全員が顔見知りである以上、ポルタナを急に訪問する人が居れば目立ちます!村の入口で止めることが十分に可能でしょう!」

 ……そう。ポルタナが限界集落ギリギリの集落であることが、ここに来て活きるのだ。

 村中全員顔見知り。ついでに、よく村に来るメルカッタの戦士達やコニナ村の行商の人達も顔見知り。ナビスファンで礼拝式によく来ている人達も、もう顔見知り。そんな状況なので、『見知らぬ人』に対しては警戒することができるのだ!

「そしてポルタナは天然の要塞ですから。陸路で来るならば、村の入口は限られます。陸路対策は、要点を押さえておくだけで十分でしょう」

「成程ね。じゃ、やっぱ海かー。よし、ポルタナに連絡しよう。海からの襲撃に気を付けてね、ってことで」

「はい。シベッドにもしっかり警備をお願いしましょう」

 ナビスがニコニコしているのを見て、澪は思う。シベッドはナビスから『留守の間をよろしくお願いします』と頼まれているわけなので、まあ、頑張るだろうなと。ナビスが居ない間にナビスの愛するポルタナを襲わせることはないだろう、と。そういうところでのシベちんの信頼は高い。

「で……折角だし、私達もちょっと一芝居、打とうか」

 そして澪は更に、奇策を考えるのが割と好きである。

「ここで私達がしろごんに乗ってきたことが役に立つよ、ナビス」




 さて。

 そうして澪達は、諸々の情報をポルタナへ送った。……つくづく、王都とレギナとメルカッタとポルタナを伝心石通信でつないでおいてよかったなあ、と思う。

 ポルタナやメルカッタは協力してポルタナの警備をしてくれることになった。また同時に、『ポルタナを囮にする』というナビスの意見にも賛成してくれた。

 ……ポルタナの伝心石通信の側に居たのは、今日はどうやらテスタ老であったらしいのだが、『炙り出して1人残らずとっ捕まえましょう』と滅茶苦茶に乗り気であった。流石である。

 また、同時にブラウニー達も何やら一生懸命に伝心石をカチカチぺちぺちやっていたので、ブラウニー達も何かやっているらしい。……ところでブラウニー通信はどこまで拡大しているのだろうか。ブラウニー達のことだから、とんでもない範囲に通信網が築かれていそうである。

 ……何が起こるかは分からないが、何かは起こるのだろう。ブラウニー達は働き者なので……。




 と、いうことで。

「じゃ、行ってくるね!あああああ、ギリギリだ!急げナビス!」

「あああああ……マルちゃん様!勇者フェーレスをよろしくお願いします!」

「ええ、お任せなさいな!こいつはキッチリ死んだことにしてコッソリ閉じ込めておきますわ!」

 澪とナビスは、レギナを発った。マルちゃんが勇者フェーレスの面倒を見てくれるようなので、そこは任せてしまうことにする。勇者フェーレスは『大丈夫だろうか』と戦々恐々しているのだが、まあ、マルちゃんはしっかり者なので多分大丈夫である。未だ、手に持ったペンチみたいなのをカチカチやってはいるが。

「これじゃあ会場準備は間に合わないねえ!あああああ!ブラウニー達が会場準備をしてくれていることを祈って!」

「あ、大丈夫なようですよ、ミオ様。こちらのブラウニーがこのように」

「あ、ほんとだ。あー、かわいー。癒されるぅ」

 さて、これからメルカッタに飛んでも会場準備が間に合うか微妙な時間になってしまったのだが、澪とナビスのポケットに入っていたブラウニー達が揃って『大丈夫!』というような仕草をして、満面の笑みを見せてくれる。それを見るとどうにも、癒される。ブラウニー達は頼れる可愛い生き物なのだ!

「じゃ、メルカッタ入りして、礼拝式やって……予定通りに回ってくかんじで……」

「そうですね。次はグラーメンで、その次はフロース。それからぐるりと回って……」

 ……澪とナビスはしろごんの上で地図を見ながらきっちり予定を頭に叩き込んでいく。あくまでも、予定通りに。全国ツアーのスケジュールは、そのままに。

 だが……連絡があったら、すぐに動けるように。そういう手筈である。


 そう。『連絡があったら』。

 ……澪とナビスがポルタナの人達に頼んだことの1つは、これだ。

『伝心石を、特定の町にも設置しておいてほしい』。




 そうして澪とナビスの全国ツアーは恙なく進んでいった。

 メルカッタでは『あのナビス様が随分と出世してしまった……』と懐かしみつつちょっぴり寂しがる人達に囲まれて、いつも通りのライブを行った。その次の町、グラーメンでは何人か、メルカッタで見たことのある顔見知りが居た。アウェーな空気は無く、楽しくやることができた。

 更にその次、フロースでは、近隣に住み着いていた魔物退治を礼拝式中に行った。大変盛り上がり、信仰心がたっぷり得られてしまった。なんというか、やはり魔物討伐は冒険譚の華であって、皆の娯楽であるらしい。

 ……さて。

 そうして澪とナビスは次第に、ポルタナから離れていく。国の南半分を巡る旅なのだ。当然、ポルタナから離れていく時があるのだ。

 だから、来るならそろそろだろうな、と、思っていた。

 ……そして。


「あっ!来た!」

 フロースからの移動中、澪のポケットの中で伝心石が光り輝く。澪はそれを見ると……すぐ、しろごんを急降下させる。

 町までは、もうさほど遠くない。歩いていっても十分に到着できる。

 だから。

「よし、行っておいでしろごん!」

「頼みましたよ、しろごん!」

 ……澪とナビスはしろごんから降りると、しろごんの首のあたり……スカーフのあたりを軽く叩いて、『頑張って!』と励ます。

 するとしろごんは意気揚々と、何も背に乗せずに大きく羽ばたいていった。


 そう。澪とナビスは、礼拝式の予定を崩さない。それでいて、敵には慌てふためいてもらう。

 ……しろごんが1匹でポルタナへ帰れば、それが可能なのである!


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― 新着の感想 ―
まあ、ドラゴン空中からブレス攻撃されたら 普通、なすすべないからね
[一言] いけーしろごん!がんばれ!
[良い点] 月鯨単独撃破!? それはもう……モンスターなハンターでは!?
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