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出発信仰!  作者: もちもち物質
第三章:神は世界を救う
155/209

爆速全国ツアー*2

 ……ということで、澪とナビスは城の一室、塔の最上階にある部屋でお茶を飲みつつ、頭を抱えている。

 大きな窓から差し込む日差しは麗らかで、お茶は大変に美味しく、お茶菓子もたっぷり、美味しいものが揃っているのだが……それでも抱えた頭の重いこと、重いこと。

「えーと、町ってどのくらいあるんだろ」

「ううん……メルカッタやレギナ、カステルミアのような大きな町ですと10に満たない程度です。それから、セグレードやジャルディンくらいの大きさの町が20弱。そしてポルタナやコニナ村のような小さな村まで回るとなると……」

「あああああ既に1か月で回りきるのが難しくなってきた」

 澪とナビスは全国ツアーの計画を立て始め、そして、挫折しているところであった。諸々の計画を決めてはいるのだが……。


「……まあ、とりあえず、『ナビス様お帰りなさい祭』の開催期間を最低でも1か月未満に収めるために、第一回全国ツアーは1か月未満で終わらせたいよね」

「ええ。小さな村を回るのは、『第二回』にした方がよいと思います」

 まず、簡単な方針として、『第二回全国ツアー開催を決めた状態で第一回を回りきる』ということは、決めた。

 そうすれば『ナビスの全国ツアーが終わるまではお祭り期間!』という王と王子を黙らせて、お祭り期間を1か月以内に収めることができ、かつ、一か月以内で回り切れない町にも『ちゃんと行くからね!』と伝えることができる。

 だが……。

「でも!小さい村とかは抜きにしたって、町が30くらいはあるわけでしょ!?どうすんのこれ!?どうすんのこれ!?1日1個回っていっても1か月かかるじゃん!」

 うわー!と澪は悲鳴を上げた。問題に向き合う前から難問であることが分かっているのだ。悲鳴を上げたくもなる。




「まず、移動手段は考えないとダメだよね、これ」

 ということで、澪は早速、移動手段を考え始めた。

 広範囲に分布する各地の町を巡りまくるのだ。とにかくまずは、移動時間から削っていかなければならないだろう。

「ドラゴンタイヤの馬車があれば、なんとかなりませんか?」

 ナビスは首を傾げている。確かに、ドラゴンタイヤの馬車であれば、理論上は1か月以内に一定以上の規模の町を巡ることは可能である。

 だが、それがどういうことなのか、ナビスはまだ、分かっていない。

「いや、確かにギリギリいけるよ?でも、睡眠時間、無くなるよ……?それじゃ、万全の状態で礼拝式、できなくない……?」

「……あっ」

 そう。例えば、ポルタナからレギナまでは今、7時間もあれば到着できる。ドラゴンタイヤの馬車が無ければ2日に分けての旅だったのだから、これはとても大きな変化だった。

 だが、それでも足りないのだ。

 1日に8時間眠るとする。すると、残りの時間は16時間。そして礼拝式自体が2時間から3時間程度かかるため、残りは13時間。準備には6時間程度かかり、後片付けも1時間では収まらない。となると……残りは6時間を切ってしまう。

 そう。残った6時間が移動時間の外、食事や休憩、そして礼拝式の場所を借りる手続きだの、礼拝式の聖餐の調達だの、王都との連絡だのを捻出しなければならないのだ。それでも足りなかったら、睡眠時間を削っていくことになるわけで……。

「というかね、本来なら、連日連日の礼拝式なんてできないんだよ。体力ってそんなに無尽蔵に出てくるもんじゃないし」

「あ、あああ……そうですね。1か月の間、ほぼ毎日礼拝式を執り行うなど、よくよく考えてみると相当な無茶でした……」

 毎日毎日歌って踊るとなれば、睡眠時間8時間はマストだ。そして、ナビスをゆっくりお風呂に浸けたり、ゆっくりご飯を食べさせたりする時間も欲しい。移動中にご飯、ということも有り得るだろうが、体力のことも考えればやはり1日3食、落ち着いて食べたいところである。

「でも、お祭り半年はヤバいじゃん?」

「はい。大変に『やばい』、かと」

 澪とナビスは頷き合う。

 この無茶な旅程は、大変に無茶である。カリニオス王子も国王も、『無茶だ!』と嘆いていた。だが、『それくらいやらねば、ぽっと出てきた王女は浪費家だと噂されかねません!』とナビスが強硬に主張したので、『なら、できる限りの短期間で済ませてみてもいい。でも、無理そうなら延長してくれ……』と言わせたのである。

 そんな無茶な旅程なのだから、移動になど時間を割いていられないのだ。それこそ、秒で移動したい。瞬間移動でもいい。どこ〇もドアが欲しい。そんな気分である!




 ということで、どこで〇ドアは無理でも、もうちょっと何か、移動手段を見出したい。或いは、寝ている間に食べられる方法が見つかるのでもいい。いや、やっぱりそれは良くない。寝ている間に食べても美味しさを感じられないかもしれない。健全な生活には、ご飯の美味しさも睡眠の気持ちよさも不可欠なのだから。

「しかし、移動手段となると……ええと、馬以外の生き物に馬車を牽かせる、ということでしょうか?」

「1つにはそれも考えたんだよね。ほら、ドラゴンとか、どーお?」

 早速、ナビスがアイデアを出してくれた。確かにそれはアリである。馬車における馬とは、自動車におけるエンジンのようなものだ。エンジンの回転数が上がればいい、というのはシンプルな答えに思える。

 だが。

「ううん……ドラゴンは体躯こそ大きくとも、走るのが速いものはそう多くありませんので……」

 まあそうだよなあ、と澪は天井を仰いでため息を吐く。そういえば、ポルタナ鉱山で戦ったレッサードラゴン達も、なんとなく『のし、のし』というような歩き方だった。あれは別に、速くない。のしのし進む馬車は、ちょっと可愛いかもしれないが。

「よくよく考えてみると、私、あんまり速い魔物に出会ったこと、無いな……。えーと、鉱山地下4階の龍が速かったけど、あれは……あれは馬車を牽くのに向いてない形状してたし」

「そうですよねえ……。大体、あの龍はもう、食べちゃいました」

「美味しかったけどねえ……じゅる」

 龍の焼肉、美味しかった。かば焼きも、美味しかった。大体全部、美味しかった。美味しかったのだが食べちゃうと無くなっちゃうので、龍に馬車を牽かせるわけにはいかない。

「ええと……ミオ様の世界では、どのようなものに馬車を牽かせていたのですか?」

「私の世界ではねえ……馬車が自力で走行してたんだよねえ……」

 澪は、『自動車』について簡単に説明してみたのだが、ナビスは只々ぽかんとしていたし、澪も正直なところ、車の内部構造などほとんど知らない。この世界で自動車を開発するなど、できそうにない。設計図も描けないので、ブラウニー達を頼る訳にもいかない。大体、今から開発しても間に合わない!

「えーと、後はね、新幹線、っていって……こう、線路が敷いてあって。その上をとんでもない速さで走る馬車みたいなのもあったよ」

「せんろ……?」

 ……そして開発期間も工事期間も無いので、新幹線を導入するわけにもいかないのである。そもそもこの世界にはまだ、線路の概念があまり無さそうなのだから、最初から相当に難しい。

「それからねー、後は……飛行機?」

 他に速い移動手段というと、やはりこれだろうか。

「ひ……こう、き?」

「うん。空、飛ぶの。鉄の塊が」

 澪が『飛行機ってのはね』と説明すると、ナビスはまたもぽかんとしてしまった。

「鉄の塊が!?何故!?何故ですか!?神の力ですか!?」

「いや、科学の力で……」

「かがく!?つ、つまり、ミオ様の世界では、かがくという神がおられるということですか!?」

「あー、うん、まあ、そういう面もある」

 確かに言われてみれば、この世界では神の力が解決している諸問題を、澪の世界では科学が解決していると言えるかもしれない。そして、まあ、八百万の神的な考え方をすると、科学にも神様は居る。多分。澪が高校の実験で溶かした硫黄の粒とか、鳴らした音叉とか、覗いた顕微鏡とかにも、神が……。


「……神は置いておくにしても、まあ、私達の世界で一番速い移動手段は、空を飛ぶことだったんだよね」

「成程、空を……」

 さて。神はさておき、『空路』については何か考えられるだろうか。

「熱気球って操縦できるのかなー。アレくらいなら自動車とかよりは簡単に作れる気がするけど……あ、グライダーとか?いや、駄目だな。多分、長距離の移動向きじゃないし、そもそも何か事故ったらヤバい。ヤバすぎる……」

 澪はあまり詳しくない分野の知識を総動員して、なんとか新しい空の乗り物を考え付かないか、必死に思索を巡らせる。

 できれば、ナビスをちゃんと休ませることができるような乗り物がいい。ついでに操縦が簡単だと嬉しい。多分、道中の操縦をするのは澪の役目になる。

 それから、燃料の補給が簡単でなければならない。道中の町でも手に入りそうなもの……となると、精々、薪か木炭か。石炭は、町によっては無い。となると……。

「あ、あの、ミオ様」

 澪が考えていると、ふと、ナビスが声を掛けてきた。

「馬車を牽かせるには問題がありますが……その、ドラゴンは、いかがですか?」

「……へ?」

「ドラゴンは、空を飛びます」

 ……そして、その可能性を提示されて、澪は目から鱗がバンバン落ちるような気分になったのである。

 そう。この世界はファンタジーな世界。つまり、ファンタジーな乗り物があってもいいのだ!




「え?ドラゴンって、乗れるの?」

「ええと……懐かせることが、できれば。そして、比較的賢い個体であれば……といったところでしょうか。なので、ただのレッサードラゴンのようなドラゴンに乗るのは、難しいかもしれませんね」

 成程。ドラゴンに乗る、というのもそれはそれで中々難しそうだ。

 だが、飛行機の開発などよりは余程、実現の可能性が見える。ならばこれでいくしか無いだろう。

「えーと、じゃあドラゴン狩りに行く、ってかんじかな」

「ええ。そして短期間でしっかりドラゴンを懐かせて、躾けて、他人を乗せて飛べるようにしなくてはなりません」

「うわー、そうだよねえ。うーん、どこかに、既に賢くて、既に懐いてるドラゴン居たらいいんだけどなあ」

 そんな都合のいいものもないよねえ、と澪とナビスは笑い合う。

 まあ、とにかく方針は見えた。ならばすぐにでも動くべきだ。澪とナビスは早速、王子に報告に向かうべく席を立ち……。


「大変だ!ドラゴンが!」

 そこへ、兵士達の声が響き、喧噪もまた、聞こえてきた。

 ……澪とナビスは顔を見合わせて、ぱやっ、と表情を明るくすると、即座に部屋を出るのだった。




 ……が。

 そこにあったのは、あまりにも、想像していなかった光景だったのである。

「えっ……?」

「う、嘘……どうして……?」

 澪とナビスは、それぞれに塔の屋上で空を見上げて絶句している。

 何故なら、そこに居たのは……。

「……しろごん!」

「しろごん!しろごんではありませんか!」

 そう!ブラウニーの森に居るはずの……ついでに、子ドラゴンであったはずの、白いドラゴンだったのだ!

 それも……なんだか、随分と成長して、成竜の姿になって澪とナビスの上空に滞空し、そして、澪とナビスを見つけた喜びに、きゅい!と、懐っこく鳴き声を上げていたのである!


 ……澪は、『そういや辰年だし丁度いいね!』と、現実逃避めいたことを考えつつ、白いドラゴン……『しろごん』を見上げるのであった。

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― 新着の感想 ―
信仰あればなんでも出来るらしいからね きっとしろごんが自分の出番だとパワーアップしたのかも?
[一言] すごく不安なことがあって定期的に目がウォーターサーバーになってたんですけど、ミオナビがわちゃわちゃしてるの読んでたらしばらく落ち着けました。 かわいい。しろごんかわいいな。やっぱり後から出て…
[一言] テンション上がりすぎた王様と王子が、ナビミオに叱られてる姿を幻視しました。二人は正座してしょんぼりしてます。 聖女が竜に乗ってやって来たら、流石に人々も困惑するでしょうね! 澪ちゃんは一時…
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