第十五話 海鮮バーベキュー
イエデポリの職業紹介所を通じた優弥の告発により、港湾管理局の局長フリドニクス・ベンヤングと、その秘書モンテオ・ザッハが逮捕された。
そしてフリドニクスから押収された財産より、財務局で発見された手形の内容に従って、トマム鉱山の鉱夫や事故で亡くなった者の遺族に金が支払われることが決まったのである。その時期はまだ先だが、これでソフィアの両親を含む崩落事故の犠牲者も少しは浮かばれることだろう。
なお、行方不明となっていたゾーイは、フリドニクスの屋敷の地下牢で発見された。他にも何人かの女性が捕らえられており、近々奴隷として売り飛ばされるところだったそうだ。
当然彼女らを買う予定だった奴隷商も、違法な取り引きを繰り返していたとして警備隊に捕らえられ、不当に奴隷落ちさせられた者は無事に解放されることになった。
「ありがとうございます! なんとお礼を申し上げればいいのか……」
「無事に帰ってこれてよかったですね」
ソフィアが微笑みながら初対面のゾーイと握手を交わしている。
王都グランダールに帰る支度をしていたところで、ロイがゾーイを連れて宿にやってきていたのである。どうしても礼が言いたいと、職業紹介所に優弥の宿泊先を教えてもらったそうだ。
余談だが地下牢に閉じ込められていた女性たちには、幸いなことに暴行を受けた形跡はなかった。奴隷として売る場合に、下手に暴行すると価値が下がるというのが主な理由である。
それでも一人や二人は欲望の餌食になることがあるそうだが、フリドニクスには妻子がいたためそのようなことは起きなかった。
「港湾管理局はどんな感じなんだ?」
「局長とその秘書が逮捕されましたからね。もう大騒ぎですよ」
「それなのに二人して出てきて大丈夫なのか?」
「彼女は被害者ですので静養中なんです。私は婚約者として付き添いということで休みをもらいました」
「なるほど、合法的にサボっていると。あ、ゾーイさんは違うって分かってますよ」
「うふふ。鉱山ロード様からも言ってやって下さい。ちゃんと働きなさいって」
「ゾーイぃ、そりゃないよ」
「ロイ、気持ち悪い声出すな」
「鉱山ロード様まで……本当に王都に帰っちゃうんですか?」
「うん? ああ、そうだけど?」
「イエデポリに引っ越してくる気はありませんか? 住む場所も仕事も何とかしますよ」
「ロイ君、無理を言ってはダメよ。人にはそれぞれ大切な居場所があるんだから」
「あははは、ゾーイさんの言う通りだ。そもそも俺は鉱夫だからさ。港町には鉱山なんかないだろ?」
「そりゃそうですけど……次は港湾ロードを目指すというのはいかがです?」
「勘弁してくれ」
王都に執着があるわけではなかったが、ソフィアにもポーラにも仕事がある。それに借家だが住む家もあるし、シンディーとニコラだって雇い始めたばかりだ。
また、王都で知り合ったローガンたちや、グルール鉱山で共に働く仲間たちもいる。それらを捨ててイエデポリに引っ越すメリットは今のところ皆無と言えるだろう。
「出立はいつなんですか?」
「今日中と言いたいところなんだけど、実は俺がまともに海鮮を楽しんでいないと言ったら、宿の人がお別れ会をしてくれることになってね」
「夜は海鮮バーベキューなんですよ!」
ソフィアがはしゃいでいる。冷凍を魔法に頼るしかないこの世界では、新鮮な魚介類など王都で味わうことは出来ない。何日も冷凍状態を保つなど不可能だからである。
「バーベキューと言えば、貴族様たちの間で大流行してるみたいですね」
「もうこっちにも広まってるのか」
「食べたことあるんですか? あ、そうか、鉱山ロード様ともなれば、貴族様に招かれることもあるでしょうね」
「いや、うちにバーベキューセットがあるんだよ」
「「えっ!?」」
これにはロイは元より、ゾーイも驚いた表情を見せた。
「ソフィアとポーラがバーベキューに嵌まっていてね。何かと理由をつけてやりたがるのさ」
「そんな……あれってとんでもなく高い機材が必要なんですよね!?」
「バーベキューはユウヤさんが発明したんですよ」
「あ、こら、ソフィア!」
「あっ! な、何でもないです! 忘れて下さい!」
「バーベキューの発案者が鉱山ロード様だったとは……」
すでに遅かったらしい。
「すまんがこのことは内緒にしておいてくれ」
「それは構いませんけど……鉱山ロード様、出来れば私たちも今夜のバーベキューに参加させて頂けませんか? も、もちろんバーベキューが食べたいのではなくて、お別れ会に参加したいんですよ!」
「食材もたくさん持ってきます! あとお土産も!」
ロイだけではなく、ゾーイまで鼻息が荒くなっている。
優弥たちが泊まっている宿はイエデポリでも最高級ということで、客の求めに応じてバーベキューも提供していた。ただし料金は庶民には手が届かないほど高額である。
しかし今回は港湾管理局の局長と秘書の犯罪を暴いたということで、宿からの感謝の気持ちとしてサービスしてくれるとのことだった。
(まあ、バーベキューは大勢の方が美味いからな)
「ポーラ、宿にロイとゾーイさんの参加と食材持ち込みの可否を聞いてくれ。追加料金が必要なら払うから」
「分かったわ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。追加料金が発生するなら辞退しますよ。とてもじゃありませんが払えませんので」
「心配しなくても俺が出してやるさ。その代わり食材には期待してるぞ」
増えた人数分の食材を自分たちで用意するなら、宿としては追加料金は不要とのことだった。ただし持ち込む食材については、一度宿の料理人が確認するそうだ。たとえ客が持ち込んだ食材で食中毒が発生しても、宿が責任を負わなければならないので当然である。
「それじゃ夕方六時に集合でいいかな」
「構いません」
「食材、期待してて下さい。港湾管理局の職員としての意地を見せますから」
そうして約束の時間になると、大量の食材を積んだ馬車に乗ってロイとゾーイがやってきたのである。




