第十話 王都オシェイピアへ
宣戦布告がなされ、国境を越えて進軍を開始したライスゼン王国軍五千の中の指揮官クラスを、予定通り優弥は追尾投擲で撃ち抜いた。結果、王国軍は大混乱に陥り、バンクスに攻め入るどころではなくなっていたのである。
こうなればゴールトン領の常設軍と、首都ロイドニアからやってくる公国軍二千でも対抗出来るだろう。公国軍は早ければ二日ほどで到着すると思われる。
「徴募兵は命が惜しいですから、降伏する者も多いと思われます」
「問題はこの後やってくる本隊だな」
「ユウヤ様はどうなさるのですか?」
「なるべくなら職業軍人だけを狙い撃ちしたいところだけど、多少の徴募兵の被害は仕方ないだろう」
「農民や奴隷などと言っても武器を持って従軍しているわけですからね」
ロレンシアの表情は暗い。ところがそこに突然ティベリアがやってきた。すでにバンクスの宿とエンニチ王国の拠点とを結ぶ転送ゲートが設置済みだったのである。
「旦那様よ」
「いきなりどうしたティベリア?」
「ジニングたちが死んだ」
「はっ!?」
「ワーナムにライスゼン王国の軍が押し寄せてきたのじゃ」
「何だと!?」
「彼奴らは妾が燃やしてやったがの。ジニングたちは別荘に押し入ろうとした王国軍に殺されてもうた」
「冗談じゃ……ないんだな?」
「妾がそんな趣味の悪い冗談を申すと思うのか?」
「ちょっと待ってくれ。整理がつかん」
思わぬ報告に動揺する優弥だったが、その後語られた詳細に怒りを露わにする。
「ジニングたちの遺体は?」
「妾が荼毘に付した」
「そうか……」
「レナたちが泣いておった。あの者は良き友であったのじゃろう」
「ライスゼン王国……」
「旦那様よ」
「うん?」
「弔いじゃ。遠慮はいらぬ」
転送ゲートで優弥は再び指揮官クラスを狙い撃ちした場所に戻る。未だ王国軍は統制が取れていないようだったが、そんなことはもはやどうでもいい。彼は無限クローゼットから直径一メートルほどの岩を出し、頭上高くに投げ上げた。
そして王国軍を一人残らず完全結界の中に閉じ込める。とは言っても範囲に余裕があったため、それに気づいた者はいなかった。
「おい、なんだあれ?」
「どうした?」
「ほら、上」
「なんか落ちてきてるな」
優弥が投げ上げた岩は高度一万メートルを超える高さまで上昇し、落下に移行していた。自然落下ではない。追尾投擲で放たれた岩の速度は音速を超えたままだ。王国軍を囲む完全結界は天井部分にだけは何もなく、蓋のない円すい形だと思えばいいだろう。
一部の者が上空の異変に気づいてから数秒後、円すい形の結界の中に岩が真上から飛び込んでいった。そのタイミングで結界に蓋をする。
辺りに静寂が訪れた。しかし優弥の目の前には円すい形の火柱が立っている。密閉された空間では落下した岩のエネルギーで熱と圧は凄まじく、王国軍の兵士たちはおそらく遺体の欠片すら残らないだろう。
その瞬間、ライスゼン王国軍の先発隊およそ五千は跡形もなく姿を消した。しかしそれでも彼の怒りは収まらず、未だ内側が高温で燃え盛る完全結界の円すいをそのまま無限クローゼットに放り込んだ。
優弥はパニックに陥っていたライスゼン王国側の国境警備兵たちを次々と追尾投擲で撃ち殺し、単身で国境を越える。その彼の遠見には、進軍してくるおよそ三万の王国軍本隊の姿が映っていた。
「俺の友を奪った罪、亡国をもって償うがいい」
それは突然のことだった。三万の大群のほぼ中央付近に突如火柱が上がったかと思うと、熱風と炎がまるで破裂したかのように彼らに襲いかかったのである。
無限クローゼットから先ほど放り込んだ完全結界を彼らの中に落とし、極限まで圧力のかかった状態のまま結界を解いたのだ。まさに大爆発だった。爆風は数キロ離れた優弥のいる位置まで及び、周囲に生えていた樹木には耐えきれず折れてしまうものもあったほどだ。
「痛え、痛えよお……」
「何も見えねえ、真っ暗……何でだ!?」
「俺の足! 俺の足がぁっ!」
「うちに帰りでえよお」
阿鼻叫喚の地獄絵図そのものだった。三万の王国軍兵士たちはほとんどが息絶えていたが、死ななかった者の中にも五体満足でいられたのは誰一人いない。体の一部が焼けこげていたり、目を焼かれて視力を失ったり、爆風に飛ばされて手足があらぬ方向に曲がっていたり、なくなっていたりといった有様だ。
「お、おい、あれを見ろ!」
「あ、悪魔……」
「悪魔が俺たちを!?」
「た、助けてくれえ!」
「死にたくねえ!」
惨状の中を怒りを露わにして進む優弥は、彼らにとってはまさに悪魔そのものに見えたであろう。
「助けてくれ? 死にたくない?」
「ひっ! ひえぇっ!!」
「あ、悪魔が喋った!?」
「お前たちはそうやって泣き叫ぶ敵国の民に情けをかける気はあったのか?」
「お、俺は農民だ! 軍には嫌々連れてこられただけなんだあ!」
「武器を手に取り、鎧を纏っている以上、世迷い言にしか聞こえんな」
同情はするが、との言葉は飲み込んだ。放っておいても彼らは生きて帰ることは叶わないだろう。やがて傷口から腐り始め、ウジがわき、大の男が泣き叫ぶほどの猛烈な痛みに苦しみながら死んでいくのだ。
あるいは死臭に誘われた魔物に食い殺されるかも知れない。であればとどめを刺してやるのがせめてもの情けとなるが、彼にはそうするつもりはなかった。
死体と重傷者の山を進むと、中にはよろよろと立ち上がって彼に剣や槍を向けてくる者もいた。むろんそんな者たちは彼からすると小鳥の囀りですらない。都度その辺に転がっている剣を手に取り、一刀両断にふしていった。
そして五日後、優弥はライスゼン王国の王都オシェイピアの地を踏んでいたのである。




