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第二話 別荘の管理人

「なんですか、あの四人の奴隷は!!」


 元ダリモア帝国皇女アデレイドの侍女アマラが怒り心頭といった感じで優弥に抗議を始めた。四人とはレナたちのことを言っているのだろう。失礼があったら言えとは伝えたが、連れてきて三日と経っていない。なのにこれほどまでに怒るとは何があったのかと、優弥は不思議に思った。


 レナとロナ、チェリルにジュリアもそこそこ慣れてきているとは言え、まだまだ奴隷意識が強く性格は控えめだ。だから他人を怒らせるようなことをするとは考えにくいのである。


「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもありません! 皇女殿下を差し置いて先にお風呂に入るなんて!」


 大方そんなところだろうと予想していた優弥は呆れたように返す。


「何が問題だ?」

「奴隷が入った後の湯に皇女殿下が入れると思っているのですか!?」


「お前たちだって奴隷だろう」

「今はそうでも元々の身分が違います!」


「元々の身分など関係ない。そんなことを言い出したらお前は元国王の俺に大それた口を利いていることになるんだぞ。それともアデレイドが文句を言っているのか?」

「皇女殿下は何も仰っておりませんが、入浴は私が止めました。ハセミ殿、こちらのお屋敷のお風呂を使わせて下さい」


 どうやらアマラの選民意識は抜けきっていないようだ。このまま放置すれば萎縮するのはレナたちの方である。せっかく笑顔まで見せてくれるようになっていたのに、また表情を曇らせるわけにはいかない。


「悪いがお前のわがままを聞いてやることは出来ん。アデレイドを呼んでくれ」

「こ、皇女殿下に何の用ですか!?」

「命令だ。アデレイドを呼べ!」


 さすがに命令と言われれば彼女も逆らえない。ほどなくして元皇女がアマラとマルグリットを伴ってやってきた。


「お呼びでしょうか」

「ああ。アマラが入浴の件で抗議してきたんだが知っているか?」


「えっ!? アマラ、私は構わないと申したはずですわよ」

「ですが皇女殿下……」


「私をそう呼んではならないとも申しました。ダリモア帝国がなくなった今、私は皇女でも何でもないのですから。分かりますわね?」

「……」


「ハセミ様、アマラの不始末は私の不始末です。どうか罰は私にお与え下さい」


「いや、よく言って聞かせてくれればいいんだが、レナたちを萎縮させるようだと考えねばならん」

「ハセミ殿、考えるとは?」


「アマラ! ハセミ様はご主人様なのですよ。殿ではなく様をおつけなさい!」


「敬称など今はどうでもいい。それよりアマラ」

「はい」

「先日言ったと思うが選民意識は改められそうにないのか?」

「それは……」


「お前だけタウンゼント公国のワーナムにある別荘に送る手もあるんだぞ。あそこは源泉掛け流しの温泉だから風呂はいつでも新しい湯で溢れているしな」

「お、お待ち下さい! それではまた密入国になってしまいます!」


「大公閣下には話を通しておくから心配はない」

「でも……」


「ただ別荘地には守衛の冒険者はいるが護衛はいないからな。向こうに行かせるなら新たに護衛を雇う必要がある」

「その護衛というのはまさか私だけのために?」


「そうなるな。ここでいうアマゾネスの連中みたいなものだ。俺には奴隷だからどうなってもいいという考えはない。しかし余計な出費ではある。出来ればここで皆と仲良くしてもらえるのが一番なんだが」

「ど、努力します……」


「それなら旦那様よ、レナたち四人は専用の転送ゲートを置いて別荘の風呂を使わせるのはどうじゃ?」


 ティベリアが出した案なら、現在は不在になっている別荘の管理人も四人に任せられる。チェリルにはトラブルを思い出させることになるかも知れないが、敷地の外に出なければ問題ないだろう。軽く掃除をしてきてもらうだけだし、妙案だと思われた。


「そうするか。アマラ、これで満足か?」

「ハセミ様、アマラが申し訳ありません」

「アデレイドが謝ることではない」


「あの、別荘でしたら皇女殿下と私とマルグリットの三人で行くというのはいかがでしょう?」


「大公閣下に言わないと密入国になるからダメだな」

「言って頂くというのは……」


「お前が温泉に入りたいだけだろう。そのために大公閣下に時間を取らせるわけにはいかん」

「そうですか……」


 その後レナたちを呼んで入浴の件を伝える。案の定四人は萎縮しそうになっていたが、今回は四人には非がないと伝えると安堵していた。


「ご主人様」

「どうした、チェリル?」


「ご主人様も一緒に行って頂くわけにはいきませんでしょうか」

「いいぞ。ただ毎日というわけにはいかんが」


「分かっております。時々ご一緒して頂けるだけで嬉しいです」


 十分ではなく嬉しいときた。


「あっはは。ならその時は背中でも流してもらうか」

「「「「はい!!」」」」

「じょ、冗談だ。そして何故四人とも返事した?」


「私はいずれご主人様に娶って頂くことになっておりますので」

 とはチェリル。


「ご主人様なら嫌ではありませんから」

 とはレナ。


「背中を流すだけですよね? どうして冗談なのですか?」

 とはまだ幼いロナ。


「私もご主人様ならいい」

 ジュリアは大きな尻尾をブンブン振りながらだ。


「ロナは別として他の三人は望んでおるのじゃからよいのではないか?」

「ティベリア、余計なことを言うな」


「考えてもみよ。この子たちは旦那様以外に相手がおらぬのじゃぞ。女の喜びを教えてやるのも旦那様の務めではないかの?」

「そうは言ってもなあ……」


「逆らえぬ立場を利用して無理強いするわけではないのじゃ。それに年頃の娘じゃからの。興味もあるんじゃろうて」

「そうなのか?」

「「「「はい!!」」」」


 アリアとロラーナも反対するつもりは微塵もないようだ。しかしこればっかりは簡単にはいそうですかと受け入れるわけにはいかない。


「とりあえず背中を流してもらう話は保留だ。それよりラングトン王国にいるマヤとマユとマヨも呼んでやることにするか」

「あ、いいですね! 三人はもう慣れましたか?」


「時々様子を見に行っているが、俺には普通に話してくれるようになったぞ」


「さすがは私たちのご主人様です!」

「「「うんうん」」」


「ならあっちに行って久しぶりにバーベキューでもやるか!」

「バーベキューじゃと!? 旦那様、(わらわ)たちも連れていくがよい」

「もちろんだ」


 無限クローゼットの中には十分な食材も蓄えられている。翌日妻三人、レナたち四人にマヤたち三姉妹を加えて優弥はワーナムの別荘へと向かうのだった。

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