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第八話 酔っ払い

 優弥はレナたちの護衛を引き受け、四人が無事だったことへの礼として守衛の冒険者五人分に金貨五枚、日本円で一人当たり約十万円を支払った。受け取ったのはリーダーのジニングである。破落戸(ごろつき)が捕らえられたのは副次的効果だったと言えるだろう。


「年末年始はこれで少しくらい贅沢出来るだろ」

「ユウヤの旦那、ありがたく頂戴します!」


「俺たちはしばらく滞在するから、五人は年明けの五日まで休んでいいぞ。報酬から引かれないように大公閣下に伝えておく」

「本当ですか!?」


「ああ。誰かが別荘から出る時は俺かティベリアが同行するから心配しなくていい」

「なら安心だ。お言葉に甘えて明日から休ませて頂きます」


 休むのは今日からでもよかったが、そこは彼らに任せることにした。


 後日談になるが案の定タウンゼント大公が激怒し、破落戸三人は悉く余罪を追及されて犯罪奴隷に落とされた上で鉱山送りとなったそうだ。直接手を下してはいなかったが、彼らに()()られたせいで生活費まで失い自殺した者もいたらしい。


 また、(まち)(おさ)のカルバン・ルッソにも長期間に渡って彼らを検挙出来なかったとして、六カ月間の減給処分が下された。とんだとばっちりだが仕方ないだろう。


「昨夜はせっかくのレナたちのお楽しみが潰れてしまったからな。祭りもやってることだし、今日は皆で夜の町に繰り出すとしようか」


「僕はパス。寒いんだもん」

「私もコナン君と一緒に留守番してるわ」

「コナンとランラは留守番だな」


「のんびり温泉にでも浸かって待ってるわ。コナン君も一緒に女湯に入らない?」

「えー、いいよー。恥ずかしいし」


 コナンは日本にいた十七年間と合わせれば二十三歳だ。子供の体だからアレが小さいとか、おそらくそんな意味で恥ずかしいのだろう。


「夕食はどうする? 食べてから出るか? それとも外で食うか?」

「今の時期って高いんじゃないでしょうか」


 言ったのはロラーナである。


「美味ければ値段は気にしなくていいぞ」


「あの、ご主人様」

「どうした、レナ?」

「私たちはこれくらいのお菓子を頂いたんですけど」


 彼女は両手の親指と人差し指で直径五センチくらいの輪っかを作って見せた。


「微妙な味でした」

「あんまり美味くなかったのか」


「あ! 申し訳ありません! ご主人様から頂いたお金で買わせて頂いたのに」

「いやいや、そこは気にしなくていいよ。しかしそうか、美味くなかったか」


「旦那様よ、一事が万事などと言ってなかったか?」

「まあ、菓子がそうだったからと言って全てが不味いとは思わないが、ハズレを引くとがっかりするしな」


 夕食を食べてから出ると決まった。



◆◇◆◇



 コナンとランラを除く八人は、しっかりと防寒対策してから夜のワーナムに繰り出した。飲食店はもちろんのこと様々な店が営業を続けており、そのどれもが多くの客で賑わっている。照明も煌びやかで、雪の反射も相まってかなり明るい。


 首都ロイドニアから転送ゲートを利用して温泉宿に来ていると思われる者は、ほぼ例外なく酒に酔って千鳥足だ。滑って転んでいる姿もあちこちで見られた。


 酔った者は総じて声が大きい。そんな彼らが出す笑い声でさえ、昨夜のことがあったせいかレナたち四人はビクッとしていた。優弥はそんな彼女たちの間に入って幼いロナと狐の獣人ジュリアの肩を抱いて歩く。レナとチェリルは彼の上着の裾をつまんでいた。


「おいおい兄ちゃん、へっく! 男一人に女がいちにいさん……いっぱいとは大した、へっく! ご身分じゃねえか、へっく!」


「絡むな、酔っ払い」

「へっ! 絡みたくもなるってもんよ!」


 レナたち四人が優弥に体を寄せて震えている。


「大丈夫だ。ティベリアの方に行ってなさい」


 しかし四人とも首を左右に振って彼から離れようとはしなかった。


「この子たちが怯えている。悪いが立ち去ってくれ」

「怯えてるだって? おっちゃんなーんも怖いことしないよー、へっく!」


「おい、怪我をしたくなければいい加減立ち去れ」

「怪我だぁ? 何なら殺してくれ! へっく!」

「あ?」


「俺ぁよお、へっく! やっとの思いで宿の予約を取ったんだよお。それなのによお、へっく! 女にドタキャン食らったんだよお、へっく!」

「そ、それは災難だったな」


 彼女にドタキャンされたが宿をキャンセルしても予約時に払った金は一切戻ってこないタイミングだったので、結局一人でワーナムに来たらしい。知ったこっちゃないが哀れと言えば哀れだ。だがレナたちを怖がらせたのは許せるものではない。


「またアンタか。さっきも人に絡むなと注意したはずだろ」


 優弥がそろそろぶん殴って分からせるしかないと考えた時、自警団がやってきた。どうやらこのおっちゃんは他でも絡んでいたようだ。


「ほら、行くぞ!」

「行くぅ? どこへ? へっく!」


「詰め所だよ。今夜は宿には帰さないからな」

「なんだ兄さん、一緒に呑もうってか! いいぜいいぜ、とことん付き合ってやらぁ! へっく!」


 両側から抱えられておっちゃんは連れていかれてしまった。


「お怪我はありませんか?」

「ああ、問題ない」


「あの人、何でも彼女にドタキャンされたとかで、あちこち絡んで歩いてるんですよ」

「言ってたな」


「ちょっとくらいなら大目に見るんですけどね。人に迷惑をかけるのはよくない」

「そうだな」


「また同じようなことがあったら大声で助けを呼んで下さい。我々自警団がすぐに駆けつけますから」


 それでも昨夜奴隷の四人は破落戸(ごろつき)に絡まれた、とは言わなかった。彼女たちが大声で助けを求める声を上げなかったからだが、これまで生きてきた環境のせいで大声を出すなどということが出来ないのは仕方がないのだ。加えて自警団にも目の届かないところはあるだろう。


 問題は彼にしがみついて離れようとしないチェリルである。二日連続で怖い思いをした彼女にはケアが必要かも知れない。優弥は無理に引き離そうとせず、彼女をそっと抱きしめた。


「チェリル、帰るか?」


 うつむいたままだったが彼女は首を左右に振った。


「じゃ、皆と一緒にこのまま町を見て回るんでいいんだな?」

「はい……」


「大丈夫だ。離れず俺の側にずっといていいから」

「ご主人様……ありがとうございます」


 翌日、真っ赤になったチェリルが優弥と妻たちに土下座して謝ったのは言うまでもないだろう。どうやら一晩で持ち直してくれたようだった。

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