第六話 年末のひととき【前編】
「今年はワーナムの別荘で年を越そうと思う」
年の瀬も押し迫った十二月の下旬、別荘から帰るなり優弥は皆を集めてそう言い放った。アマゾネスの五人にはお年玉として特別ボーナスを支給する。今回はコナンとランラ、レナにロナまで連れていくので屋敷には誰もいなくなるからだ。彼女たちには年末年始に自由を満喫してもらう予定だった。
「ユウヤたちがいなくても宿舎で寝泊まりして構わないか?」
「家賃をもらってるんだからもちろんだ」
「ボーナスまで悪いな」
「日頃の礼だよ」
エンニチ王国の王都チュウオウクでは毎年年末年始の十日間、感謝祭と新年祭が行われる。年末の五日間がその年を無事に過ごせたことに対する感謝祭、新年の五日間が年が明けたのを祝う新年祭だ。
ダリモア帝国が滅んで侵略される心配がなくなったタウンゼント公国とラングトン王国でも、同様に年末年始は祭りが催される。
「私たちも連れていって頂けるのですか!?」
「もちろんだ。チェリルとジュリアも呼ぶから観光を楽しんでくれ」
「旦那様よ、馬たちはどうするのじゃ?」
「コイツウゴクゾとボウヤダカラサも連れていく」
馬二頭の名は優弥が冗談で言ったのがそのまま採用されてしまった。妻たちは意味は分からずとも響きが気に入ったとのこと。
飛竜四頭は普段から屋敷とエサ場を行ったり来たりしているので、不在にすることさえ伝えておけば問題ないそうだ。コナンによると帝国でこき使われていた時と違って自由を満喫出来るので、今の生活には非常に満足しているらしい。
ロレンシアも今回の旅行に誘ったら、タウンゼント公国で催される年末年始の祭りで儀式を執り行わなければならないからと断られた。聖女としての役目があるなら仕方がない。非常に残念がっていたが、ワーナムの雪のシーズンはまだ始まったばかり。機会はいくらでもあるだろう。
地球でいうところのクリスマスに総勢十名と馬車を繋いだ馬二頭は、転送ゲートでワーナムの別荘に降り立った。積雪に備えて車輪は橇に換装済みだ。手順自体は簡単なので、重さを別にすれば非力な女性でも取り付け可能なほどの優れものだった。
別荘は二階建てで、一階には三十畳ほどのリビングダイニングにベッド四台が置かれた部屋が三つと、男女別の浴室がある。二階には二人用の寝室が四つと個室が十部屋だ。
浴室は屋内に温度違いの浴槽が男湯女湯共に二つずつ設置されている。露天風呂も二つずつあるが、こちらは半屋根と完全露天に分かれているだけで温度差はほとんどない。
どちらも大雪の時には屋根をスライドさせて、湯が冷めるのを防げるようになっていた。むろんスライド屋根も温泉を利用して雪が積もらない設計だから、積雪で潰れてしまうことはないだろう。
いずれの浴槽も洗い場も、男湯より女湯の方が大きくて広い造りとなっている。優弥と妻三人だけの時は彼も女湯に入るが、違いは人数差を考えてのことだった。
「僕お風呂に行くけどユウヤ兄ちゃんはどうする?」
「俺は後でいいかな」
「じゃ行ってくるね」
「あ、そうだコナン。これ置いてきてくれるか?」
「はーい」
彼はカズヒコ国王にお取り寄せしてもらったシャンプーとリンス、ボディソープを無限クローゼットから取り出して手渡した。これらはすでに各拠点の屋敷で使用しているが、前回別荘を訪れた時に同行したのは妻たちだけだったので、男湯には置いていなかったのである。
「ランラとレナたちも入ってきていいぞ」
「そうさせてもらうわ。温泉楽しみ!」
「奴隷の私たちがご主人様方より先に頂くのは……」
「気にするな。俺は後でティベリアたちと女湯の方を使うから」
コナンと二人で温泉を満喫するのもいいが、女湯の方が広いので彼は気に入っていたのである。それに妻たちと一緒の方が体を洗ってもらえるので、色んな意味で気持ちいいのだ。
夕食後にレナたち奴隷の四人がワーナムの町を見たいと言い出したので、小遣いとして銀貨十枚を持たせた。この町も首都ロイドニアほどではないが、年末とあって多くの店が遅くまで営業しているため深夜近くまで明るい。
さらにどこの宿も満室になるほど人が訪れているので、見回りの自警団も人数を増やしている。そうそう危ないことはないだろう。
「もしろくでもない輩に絡まれたらその金を渡して逃げるんだぞ」
「分かりました」
「旦那様よ、心配なら妾がついていってもよいぞ」
「い、いえそんな。ティベリア様にご面倒をおかけするわけにはいきません」
「ティベリアがいたら彼女たちも遠慮するだろ。いいから四人で行ってきなさい。遅くならないうちに帰ってくるんだぞ」
レナたちが支度のために自室に行ったところで、優弥はロラーナに耳打ちした。
◆◇◆◇
レナ、ロナ、チェリル、ジュリアの四人は何枚も重ね着した上に、買ってもらった外套を着て夜のワーナムに繰り出した。夕食を終えていたので特に空腹というわけではない。それでも甘い香りを漂わせている屋台に惹かれずにはいられなかった。
売っていたのはハチミツを使った菓子だった。甘い物は元々安いとは言えず、観光客目当てに普段よりさらに値段が上がっている。しかしそんなことを知らない彼女たちは誘惑に負けて、手のひらほどの大きさしかない菓子一つに銀貨一枚(日本円で約千円)、四人分で四枚を支払った。
「食べよう!」
「「「うん!」」」
「「「「あーむっ!」」」」
「「「「……」」」」
「「「「…………」」」」
「お、美味しいね!」
「う、うん……」
「でもなんか……」
「ちょっと……」
「「「「びみょー」」」」
四人で顔を見合わせてキャッキャと笑い出す。そんな彼女たちの楽しそうな雰囲気に水を差そうとする男が三人、さらに後方の少し離れたところから二人が後をつけていた。




