第三話 過ぎたるは及ばざるがごとし(レナ視点)
私はレナ。ご主人様であるユウヤ・ハセミ様に、エンニチ王国の国営王都チュウオウク奴隷商で妹のロナと一緒に買い取って頂いた奴隷です。ご主人様はお聞きになられませんが私たちは五年前、妹がまだ五歳の時に貧困から両親に売られました。
両親を恨んでいないと言えば嘘になるかも知れません。でもあのまま村にいても餓死するしかなかったことを考えれば、毎日ちゃんと食事を頂けただけよかったと思います。お陰で私もロナもこうして生きていられるのですから。
奴隷商代表のボリス・トリッピア様は私とロナが出ていく時に両親の死を知らせて下さいました。実は四年前に村で起こった火事に巻き込まれて二人とも亡くなったそうです。当時は妹はもちろん、私も幼かったので教えなかったとのことでした。
ご主人様はすごい方なので、私たちが両親に会いたいと望めば叶えようなさるかも知れません。そうならないために、売られたタイミングで教えてくれたようです。
不思議と私も妹も泣きませんでした。悲しくないわけではありませんが、売られた段階で親子の縁は切れているのです。
自分でお金を稼いで買い戻したりご主人様となられる方が解放して下さったとしても、一度子供を手放した親元に戻るのはよくないと最初に教えられておりました。貧困に陥ればまた売られる可能性が高いからです。ですから奴隷商で暮らした五年間、私たちの間では両親の話はタブーとなっていました。
妹にとっては物心がついてから両親と過ごした時間より奴隷商にいた時間の方が長いのですから、別れた悲しみも薄れていたのかも知れません。
でも今はそんな出来事が嘘のように楽しい毎日を送らせて頂いてます。ご主人様のお屋敷の維持が私とロナの仕事ですが、冒険者パーティーアマゾネスの皆様はとにかく私たちのことを気にかけて下さいます。それに私が作ったご飯を美味しい美味しいと食べて下さるのも嬉しいです。たくさんお替わりするので作り甲斐もあるんですよ。
それにしても先日の温泉、本当に楽しかったです。
「レナ、ロナ、温泉行くぞ」
「あ、はい。留守はお任せ下さい」
「何言ってるんだ。二人も一緒に行くんだよ」
まさか私たちまで連れていって頂けるとは思ってもいませんでした。旅行なんてしたことがなかったのでロナも大喜びです。せっかくの旅行気分を台無しにしないため、よほどのことがない限りご主人様は転送ゲートでお屋敷に帰ることはないと仰っていました。
まずご主人様と三人の奥様、コナン様とランラ様に私たち姉妹の八人で、タウンゼント公国の首都ロイドニアに新しく建てたお屋敷へ転送ゲートで馬車ごと移動です。そこで聖女ロレンシア様と合流しました。同時にご主人様はラングトン王国のお屋敷から新たに買われた奴隷のチェリルさんとジュリアちゃんを連れてこられました。
チェリルさんは胸がとても大きくて(羨ましい)きれいな方です。ジュリアちゃんは狐の獣人さんで、大きなお耳とモフモフの尻尾が可愛らしい方でした。お耳と尻尾に触らせてもらいましたが、クセになってしまいそうです。でも本人はくすぐったがってましたので、あまり触り過ぎると嫌われてしまうかも知れません。がまんがまんです。
皆が集まったところで出発進行!
そうです、馬車の旅です。もちろん馬車のお手入れは私たちの仕事でしたから、車内が初めてというわけではありません。でも乗って走るのはこれが初めて。酔うしお尻が痛くなると聞いていたのに、この馬車は走っているのが分からないほど揺れが少なかったので、全くそんなことはありませんでした。
夜は途中にある町や村の宿に泊まりました。私たち奴隷の四人は一つのお部屋でしたが、お陰でとても仲良くなれたんです。そんな私たちを見たご主人様は、週末のお休みなどに互いに行き来できるようにと転送ゲートの起動権限まで下さいました。
これだけでもご主人様の優しさが十分に伝わるのですが、チェリルさんとジュリアちゃんは買われてからまだ日が浅かったので、私とロナの二人でご主人様の凄さや素晴らしさを存分に語らせて頂きました。
旅の方は天気が崩れることもなく、予定通り五日でワーナムという町に到着です。ロイドニアに来た時も肌寒く感じましたがワーナムではそれ以上でした。
でもご主人様は私たち奴隷にまで裾の長い外套を買って下さったのです。馬車の中は床下でお湯を沸かした熱でポカポカでしたが、外套のお陰で外に出ても寒くありませんでした。
宿に着いてしばらくすると、ご主人様が一人の男性を連れてこられました。
「レナとロナ、チェリルとジュリアも初めてだな。彼はエンニチ王国国王のカズヒコ・ハヤシだ」
なんと、その方は国王様だったのです。私たち奴隷にとっては雲の上のさらに上の方です。直接お顔を見るなど不敬に当たります。慌てて私たちは床に平伏しました。
「そんなんええて。お忍びや。これ食べ」
国王様は笑いながら何やらきれいな袋を私たちに一つずつ渡されます。
「キット○ットいう菓子や。こないして袋から出したらこれ破って中のを食うねん。二個一組やけど一度にぎょうさん食うたら歯ぁが痛うなるさかい一組だけにしときや」
「何じゃそれは!? 妾にも寄越すのじゃ」
「アリアにも!」
「陛下、出来ましたら私にも下賜頂けませんでしょうか」
私たちがビクビクしながら受け取ったお菓子を奥様方は当然のように、ランラさんも恐る恐るではありましたが要求されてました。
そう言えば以前頂いたチョコ○イもとても美味しかったのを覚えています。あれはフワフワでしたが、こちらは少し硬いようです。これもちょこれーとのお菓子なのでしょうか。袋に描かれた絵の色が同じに見えました。もしかしたら似たようなものなのかも知れません。
国王様が教えて下さったようにして食べてみます。
「んっ!? んんんーっ!!」
チョコ○イに似た甘い味にサクサクとした食感が口の中いっぱいに広がりました。美味しい、美味し過ぎます! 妹もチェリルさんもジュリアさんも目を丸くしてました。こんな美味しいものを頂いてしまっていいのでしょうか。そう思ってご主人様を見ると、笑いながら優しい目を向けて下さいました。
「残りは預かっておいてやろうか?」
「レナ、やめておけ。旦那様に預けると一日一つとか言われてしまうからの」
「ティベリア、チョコ○イもそうだがこれも食い過ぎると太るぞ」
「なっ!?」
「ご主人様、もしかしてちょこれーとを食べ過ぎると太るということでしょうか?」
「レナの言う通りだ。さすがだな」
「い、いえ」
ご主人様に褒められてしまいました。嬉しい!
「むむむ! 甘いものには落とし穴があるのか!」
「まあ、チョコレートというより砂糖を摂り過ぎると太ると考えていいかな。甘い物や味の濃いものは大抵カロリー……太る素が多いと思っていいだろう。これに限らず食べ過ぎは病気の原因になることもあるぞ」
それは聞き捨てなりません。
「味付けは薄めにした方がいいのでしょうか?」
「あまりシビアに考えなくても大丈夫だよ」
「過ぎたるは及ばざるがごとし言うてな、何事もほどほどがええちゅうことや」
国王様のお言葉も肝に銘じておかなくてはなりませんね。過ぎたるは及ばざるがごとし、なんと含蓄のあるお言葉でしょう。
さすがにこんなお話を聞いてしまっては、ティベリア様、アリア様、ロラーナ様とランラ様もご主人様にお菓子を預けざるを得なかったようです。もちろん私たち四人も預かって頂いたのは言うまでもありません。




