第十三話 謁見の間
死人の村を出て一本道を進むと、大きな木の前に出た。街道からはちょうど裏側に当たるようだ。大木の周りを回って街道に出たところでパロット団長が呟いた。
「レインツリーだ……」
「確かにでかいな」
優弥の頭の中に『この木なんの木気になる木』のCMソングが流れる。するとそこに馬に乗った四人の兵士が駆け寄ってきた。その時には死人の村に続く道は消えていた。
「パロット男爵閣下とお見受け致します!」
「如何にも、エルウィン・パロットだ」
「聖女様はご無事ですか!?」
「むろんだ」
団長の答えを聞いて四人が安堵の表情を浮かべる。
「貴殿らは帝国兵のようだが何故こんなところに?」
「我々は閣下と聖女様の捜索隊です」
「捜索隊?」
「聖女様が三日間も行方不明でしたので」
「よかった。これで帰れるぞ!」
「とにかく帝都とヘイシスに知らせに行こう!」
二人がそれぞれ反対方向に走り去っていった。
「いろいろとお伺いしたいことはございますが、護衛の増援部隊が来るまでこちらで待機します」
「承知した」
「ところで聖女様の付き人はどちらに?」
「馬車の中だ」
「せ、聖女様と一緒にですか!?」
「そうだが?」
「それはいけません。付き人に告ぐ! 聞こえたら直ちに馬車から降りよ!」
「いや、彼の同乗は聖女様のご意向なのだ」
「お言葉ではございますが聖女様は未婚の女性です。付き人は男性と聞いておりますので、車内に二人だけというとはマズいのではないかと」
「俺が降りればいいのか?」
キャビンのドアを開けて優弥が馬車から降りた。
「貴様が付き人か!?」
「分かりきったことを聞くなよ」
「なっ!? 付き人の分際で……!」
「俺はお前たちの言う"聖女様"、帝国の皇后となる人の付き人だぞ。分際ってのは無礼じゃないか?」
「くっ!」
腰の剣に手をかけた兵を見て団長が呆れた表情を見せる。
「やめておけ。彼はお前が敵う相手ではない」
「しかし……」
「一兵卒が私に口答えするか?」
「も、申し訳ございません」
「ハセミ殿、馬車に戻ってよいぞ」
「ならそうせてもらおう」
「御者台から車内は見えておる。問題はない」
「かしこまりました。シスレイ伯爵閣下よりお叱りを受けた場合、私はご忠告申し上げたと説明致しますがよろしいですか?」
「構わんが、シスレイ閣下がお見えになっているのか?」
「表向きはジャイアントエテコ討伐が任務ですが、聖女様のお迎えを主目的としておよそ千人の増援部隊と共にヘイシスで待機されておいでです」
それからしばらくして護衛の増援部隊約五百が到着した。この五百は特に足の速い者たちで、残りは後追いで帝都に向かうそうだ。その中から一際大きな馬に乗った増援部隊長のウィルト・シスレイ伯爵が優弥たちが乗る馬車に近づいてきた。
「パロット卿、聖女様はご無事と聞いているが相違ないか?」
「はっ! 相違ございません」
「聖女様、大変申し訳ございませんが一度馬車よりお降り願えますでしょうか」
優弥がドアを開けてキャビンから出ると、ロレンシアの手を取って彼女を降ろす。
「ロレンシア・アディンセルです」
「失礼ですがステータスを確認させて頂きます」
「どうぞ」
伯爵は呪文を唱え、すぐに満面の笑みとなる。
「ありがとうございました、間違いなく聖女ロレンシア・アディンセル様でした。ところでそちらの者が付き人ですか?」
「ええ。ユウヤ・ハセミ様です」
「爵位を伺っても?」
「ユウヤ様は爵位をお持ちではありませんが、帝都に着くまでは同乗させて頂きます」
「ふむ。アドルフ・キルバラス・ダリモア皇帝陛下も付き人殿に聞きたいことがあると仰せですので構わないでしょう」
「俺に聞きたいこと?」
「陛下はジャイアントエテコに襲われた時のことを詳しくお聞きになりたいと仰せだ」
「なるほど」
「ただし聖女様、車内に二人きりというわけには参りませんので兵を二人同乗させて頂きます」
「ユウヤ様、兵士の方の同乗は?」
「やましいことがあるわけじゃないからな。別に構わんよ」
「パロット卿は馬に。馬車は兵に引かせる」
「承知致しました」
シスレイという伯爵は優弥が平民と知っても特に蔑む様子はなかった。むしろ馬車に乗り込んできた兵士の方があからさまだったほどだ。
聖女と同乗を任されたのだからそれなりの貴族家の子弟なのだろう。狭い車内で不遜な物言いで優弥を隅っこに追いやり、自分たちはロレンシアにピッタリとくっついていた。鼻の下を伸ばしているから、皇帝が見たら首を落とされるのは間違いない。
それからしばらく馬車に揺られ、帝都キルバラスに入ったのはすっかり暗くなった頃だった。皇帝との謁見は翌日とのことで、優弥とロレンシアはそのままエンペラー城内の個室に通される。
本来なら歓待の宴が催されるところだったが、第二騎士団の失態に皇帝が激怒しているためそれどころではないそうだ。
魔物の襲撃によって壊滅的な被害を被ったとは言えロレンシアは無事だった。ここは生還したパロット団長を労うべきだろう。なのに激怒するとは、やはりろくでもない独裁者なのだと優弥は呆れずにはいられなかった。
そして翌日――
エンペラー城の謁見の間では玉座に皇帝がふんぞり返り、その横には何故か華美な装飾が施された宝剣を帯剣した、宰相のハドソン・グレゴリー・ビランド侯爵が立っていた。壇上では他に近衛騎士が六人、左右に分かれて優弥たちを見下ろしている。
周囲には帝国の主だった貴族たちが集まり、彼らを護るように各家の護衛騎士が並んでいた。玉座に近い方が位が高いのだろう。騎士たちの装備も見て分かるほど装飾に差があった。
ロレンシアの紹介と彼女が挨拶を終えたところで皇帝が玉座から立ち上がる。優弥は単に彼女の付き人として紹介された。
「まずは付き人よ、其方らがジャイアントエテコに襲われた時の状況を聞かせよ。直答を許す」
そこで優弥は当時の状況説明を始める。宿場町ヘイシスに向かっている最中に突然ジャイアントエテコ十二頭の群が現れたこと。騎士たちはまるで歯が立たず全滅したこと。彼らが去った理由は分からないが、辛うじて息のあったパロット団長をロレンシアが治癒で治したことなどだ。
姿を消していた三日間は森の中を彷徨っていたことにした。魔物に襲われ気が動転していたため詳しいことは覚えていないと言うと、それ以上は追及されなかった。ジャイアントエテコを優弥が倒した事実をパロット団長は知らないし、死人の村については話さないよう互いに口裏を合わせてある。
「本来であれば公国の平民などこの場に呼ぶことはないのだが、聖女を無事に送り届けた褒美として貴様には余が生まれ変わるその瞬間を見届けさせてやろう」
「ありがたき幸せにございます」
「ふん! その後は奴隷として鉱山送りだ」
「なっ!?」
鉱山ロードの称号を持つ彼には恐れる場所ではなかったが、一応この場では驚いておくことにした。お約束のようなものである。
「皆の者、よく集まってくれた。聖女ロレンシア・アディンセルよ、余の隣に参れ」
優弥の隣からロレンシアが離れて壇上へと向かう。彼はいつ皇帝の頭を吹き飛ばそうかと考えを巡らせるのだった。




