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第七話 ダリモア帝国へ

「この度は大っ変申し訳ございませんでした!」


 訪ねてきた冒険者ギルド王都北支部の支部長ドネル・マクレガーを玄関に招き入れたところで、彼は家に上がらずに玄関で土下座を始めた。それを優弥は立って上から見下ろしている。


 実は支部長は国王が突然出した触れに何かを感じ、真意を確かめるためにオオサカ城に出向いたのだ。そして飛竜が優弥関係だと知って血の気が引き、職員総出でドラゴンキラーを探させていたのである。


 しかし(つい)ぞ見つけられず、朝になってひとまずシモンの件だけでも謝罪しようと来てみたら、すでにやらかした後だったというわけだ。


「まずあの受付嬢のことだが低ランク冒険者を見下す態度は頂けない」

「仰る通りです!」


「誰のお陰で自分に仕事があるのかをきちんと分からせろ」

「はい! そのように教育し直します!」


「態度の悪い冒険者にまで丁寧にしろと言ってるわけじゃないんだ。不必要に愛想よくしなくてもいいが、事務的で構わないから分け隔てなく接するように心がけさせればいい」

「はい! 徹底させます!」


「あの受付嬢だけじゃないはずだからな。それと報連相は組織として必要だと思うぞ」

「ほ、ホウレンソウでございますか?」


「報連相とは報告、連絡、相談の意味だ。些細なことでも報告し、伝達事項は確実に行き渡らせ、不明点や疑問点は自分で勝手に判断せず周りに相談するということだな」

「なるほど、報告、連絡、相談ですね!」


「これがしっかりしていればキャンディが間違った手順を覚えることも防げただろうし、俺がギルドを訪れた時もすんなり支部長に取り次がれた可能性が高い」


「シモンにつきましてはハセミ様が来訪された時には必ず私に取り次ぐようにとの通達を聞き漏らしていたようでして」

「言い訳はいい」

「はっ! 申し訳ございません!」


「あの時いた職員はシモンとかいう女性だけではなかったはずだ」

「仰る通りにございます」


「で、あの若い冒険者パーティーの処分は?」

「はい。ハセミ様がお望みでしたら除名処分に……」

「誰もそんなことは望んでない!」

「申し訳ございません!」


「聞けば依頼を選り好みし、奉仕活動には一度も参加したことがないそうじゃないか」

「はい。彼らの出身地であるゴルド村では魔物退治も経験しているとのことで、魔物の討伐依頼を受けさせろと言う始末でして」


「確か討伐依頼を受けられるのは最低EランクからだがCランク以上の冒険者の同行が必須だったよな?」

「はい。そういう意味では単独でFランクでもパーティーを組めばEランク扱いになりますので、Cランク冒険者の同行があれば受注は可能です」


 とは言えCランクの上級冒険者の中に、わざわざ見習いであるFランク集団に付き合う酔狂な者はいないそうだ。大した稼ぎにならない上に報酬も山分けとなれば、知り合いでもない限り引き受ける者がいないのは当然である。


「若気の至りと言いますか、粋がっているだけで根は真面目ないい子たちなんですが」


「まあうちの門への攻撃も勘違いだったとは言え、人助けを優先した結果のことらしいしな」

「まだ擦れていないところもありますから」


「なら向こう半年間、毎週一度は必ず奉仕活動に参加させるというのはどうだ?」

「ハセミ様がそれでよろしければ」


 飛竜の討伐未遂で今回の実質的な被害者とも言えるコナンも了承したので、彼らの処分が決定した。


 奉仕活動に参加すれば先輩冒険者との接触が増えるので、無謀にも竜種に挑もうなどというバカな考えも起きなくなるだろう。それでも治らなければ最悪は命を落とすだけのことだ。


 ドラゴンキラーは支部長がギルドまで連れて帰ることになり、臨時収入の当てを失ったアマゾネスはがっかりしていた。しかし昨夜の"時間外労働"の対価として同じ額を支払うと優弥から言われホッとした様子だった。


 支部長たちが去ってからアマゾネスを含めた全員で遅い朝食を摂り、それぞれの部屋や宿舎に行こうとしたところで優弥は聖女ロレンシアを呼び止めた。


「ロレンシア、ちょっといいか?」

「はい、どうぞ」


「ロレンシアはタウンゼント公国から来たんだったよな?」

「はい」

「約二カ月かけてだよな?」

「ええ」


「俺たちが旅立ったのは出会った数日前だけど、やっぱり予知能力で?」

「はい。ケリント村でユウヤ様とコナン様にお会い出来ると見えておりました」


「そうか。これは単純に興味なんだが予知ってどんな風に見えるんだ?」


「その時々によっていろいろですね。はっきりイメージが頭の中に浮かぶこともあれば、何となく予感がするだけのこともあります」

「知りたいことが分かるわけではないのか?」


「強く願えば見えるかも知れませんが、私の予知能力はそんなに都合がいいものではないんです」

「帝国が望む戦争への利点は?」


「ありません。たとえ私が帝国に赴いたとしても、戦争に役立つ予知など出来ませんから」

「とすると残るは蘇生か。今皇帝が死んだら帝国はどうなる?」


「分かりません。ただ皇帝陛下には正室も側室もおらず、お世継ぎがいらっしゃらないと聞きました」

「皇帝なのに?」


「陛下は私と共に永遠に帝国を支配なさるおつもりではないかと」

「子供に継がせる気はないってことか」


 これまで聞いた話やもろもろの状況を考えると、ダリモア帝国は皇帝アドルフ・キルバラス・ダリモアによる独裁制が敷かれているのだろう。


 ということは世継ぎのいない皇帝が死ねば帝国は大混乱に陥り、他国を攻めるどころではなくなる可能性が高い。何百何千もの兵を殺すより皇帝を殺す方が遥かに容易いと言える。問題があるとすればどうやって皇帝に近寄るかということだ。


 しかし優弥はある秘策を思いついていた。


「ロレンシア、帝国に入るのはタウンゼント公国とラングトン王国からだとどっちが近い?」

「距離ですと公国の方が断然近いですけど、軍を進めるなら平坦な道が続く王国の方が適してますね」


「なるほど。それで帝国はロレンシアの祖国であるタウンゼントではなくラングトンに攻め込むと言っているのか」

「それだけではないと思います」

「うん?」


「皇帝陛下は冷酷な方ですから、ジル女王陛下を捕らえてロイド大公閣下の前で見せしめにしようと企んでいるのではないでしょうか」


「二人は姉弟だったか」

「はい」


「卑劣な……ロレンシア、帝国に乗り込むぞ」

「はい!」


 彼女に秘策を話し、自身が危険に晒されることになるにも拘わらず迷いなく肯くロレンシアだった。

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