第四話 帰宅
エンニチ王国の王都チュウオウクを囲む城郭の北門から少し離れたところ、門からは視認出来ない場所に転送ゲートが設置してあった。タウンゼント公国から飛んできた馬車はそこからゆっくりと北門に向かう。
「あの馬車は……!?」
入門を待つ列の最後尾につけたところて門兵が二人駆け寄ってきた。
「ユウヤ・ハセミ様の馬車とお見受け致します!」
「はい、そうですが……」
「どうした、ロラーナ?」
ロラーナの困惑するような声が聞こえたので、優弥がキャビンから御者台に移る。すると馬車の左右にいた門兵が深々と頭を下げた。
「ユウヤ・ハセミ様でお間違いございませんか?」
「いかにも、俺がユウヤ・ハセミだ」
「失礼致しました。ユウヤ・ハセミ様は並ばれる必要はございません。あちらの貴族様専用門に向かって下さい」
「待て、俺は貴族ではないぞ」
「はっ! 冒険者ギルド北支部の支部長ドネル・マクレガー様より、ユウヤ・ハセミ様が入門される際にはそちらにご案内するようにとの指示を頂いておりますので。それとギルドに来てほしいとも」
恐らく支部長はカイデンの件で負い目を感じているのだろう。しかし優弥はそのような特別扱いを好まない。
「結構だ。このまま順番を待つ。ギルドには必要があれば行くが、今のところ何もないから訪ねるつもりもない」
「で、ですが……」
「支部長に伝えてくれ。そんなことに気を回すヒマがあったら冒険者に決まりを遵守させる指導を徹底しろとな」
「わ、分かりました」
結局北門を通るのに一時間近く待たされ、さらに王都内を一時間ほど進んで一行はようやく拠点の家に到着した。直接転送ゲートでここに来なかったのは、王都に入ったという記録を残させるためである。出たきりのはずの優弥たちが都内にいると、偽物と思われたり不法侵入を疑われる可能性があるからだ。
要するに後々面倒事に巻き込まれないようにとの、転ばぬ先の杖というわけである。
「ロラーナ!!」
一番に馬車を見つけて駆け寄ってきたのは、女性ばかり五人の冒険者パーティー、アマゾネスのリーダーマーベルだった。彼女の声に気づいたアリアが御者台に出ると、マーベルは手を伸ばして彼女を抱き上げた。
「アリア! お帰り!」
「ただいま、マーベル!」
そこにレナとロナの二人も走ってきて、優弥が御者台に出たところで二人は頭を下げた。
「「ご主人様、お帰りなさいませ」」
「事前に連絡もせずに悪かったな」
「とんでもございません。お発ちの時にいつお帰りになられてもいいようにすると申し上げましたから」
敷地を囲う壁は完全に出来上がっており、宿舎も完成したようだ。すでに二人とアマゾネスの五人はそちらで生活を始めているとのことだった。
屋敷の前に馬車を停め、皆が降りたところでロレンシアを紹介する。
「彼女はロレンシア・アディンセル。タウンゼント公国の聖女だ」
「「「「「「「聖女!?」」」」」」」
レナとロナ、それにアマゾネスの五人が驚きのあまりハモっていた。
「しばらくは一緒に暮らすことになるからよろしくしてやってくれ。あと彼女が聖女ってことは内緒にな」
「ロレンシア・アディンセルです。ちょっと特別な力がある以外は普通の人間なので、仲良くして頂けるとありがたいです」
「特別な力については追求しないように」
「レナです。ご主人様にお仕えしている奴隷です」
「ロナです。レナの妹で私も奴隷です」
「ど、奴隷ですか!?」
「ご主人様は奴隷扱いなされませんが……」
「この家を維持するのに使用人が必要だったんだが、ただ雇うだけでは俺の秘密が漏れる可能性があるだろう。その点契約に縛られる奴隷なら秘密を漏らされる心配はないからな」
「なるほど、そういうことでしたか」
「二人は夜伽不可だったからこの容姿でも売られていなかったのさ」
「ご主人様は尊敬出来る方です!」
「私たちにもご家族と分け隔てなく接して下さいます」
「ユウヤ様に買われてよかったですね」
「「はい!」」
立ち話はそこまでとして、アマゾネスを含む全員が家の中に入った。リビングの広さは十分だが、さすがに椅子は数が足りないので五人の大女たちは床に直座りである。
「俺たちが留守中に何かあったか?」
「それが……」
「うん? 何があった?」
「サイラス工房の職人さんが一人、結界に弾かれてしまいました」
「悪巧みでもしたんだな」
「それについては私が話そう」
マーベルが何やら怒りに満ちた顔をしている。
「怒っているのか?」
「当然だ! あの男は最低だ!」
彼女によるとチェドという三十四歳の職人はあろうことか十歳のロナに言い寄り、拒まれたため無理矢理手籠めにしようと企んだそうだ。そのせいで結界に弾かれる結果となったらしい。
「ロナは無事だったのか!?」
「幸いロナが断った次の日に犯行を計画したようで、その日以降チェドは敷地に入っていないため彼女は無事だ」
「そのチェドってヤツはどうなった?」
「被害がなく結界に弾かれただけだからな。さすがに警備隊も捕縛するわけにはいかないと言っていた」
「ユウヤ兄ちゃん、工房長のウェイランドさんに抗議した方がいいんじゃない?」
「それは私がすでにやった。ユウヤが戻ったら謝りに来ると言っていたがどうする?」
「従業員の不手際は雇い主の責任とはいえ、仕事でミスしたわけじゃないから工房長を責めるのはちょっと可哀想な気もするな。しかしコナンの言う通り改めて俺からの抗議は必要だろう」
それはロナのためにである。
「何にしてもロナが無事でよかった。もし何かされていたら死体が一つ増えていただろうからな」
「ご主人様はそこまで妹のことを……」
「当然だ。決してお前たちを物扱いするわけではないが二人とも俺のものだ。それを害したとなれば許すことなど断じてない」
むろん優弥は工房長の謝罪だけで済ませるつもりはなかった。未遂とはいえ結界がなければロナは無事ではなかっただろう。ましてそういう性癖の持ち主は余罪があるか今後重ねていく可能性が高い。警備隊が頼りにならないのなら、カズヒコ国王に直談判して鉱山送りにしてもらうしかないと彼は考えていた。
令和の時代から召喚されたカズヒコなら、異常性癖者の扱いには共感してくれると思ったからだ。野放しにしておくなど絶対にあり得ない。
「城に行ってくる。ああそうだ、コナンとランラも宿舎に移ってくれ」
「ユウヤ兄ちゃん、分かった」
「お風呂はもう入れるの?」
「入れますよ。お屋敷のも広いですけど、宿舎の方はそれよりもすごく広くてゆったり出来ます」
ランラの質問に答えたのはレナだ。
「お風呂まであるんですか!?」
「あるぞ。ロレンシア、部屋はどうする? 屋敷の一室を使ってもいいし宿舎に住んでもいい」
「お屋敷にはどなたが住まれるのですか?」
「俺と妻たちだな」
「でしたら私は宿舎のお部屋をお借りします」
コナンとランラには引っ越しの準備に取りかかってもらい、ロレンシアを宿舎に案内するのはレナとロナに頼んだ。そうして妻たちを残し、優弥は単独で転送ゲートを使ってオオサカ城に向かうのだった。




