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第三話 帝国の密偵衆

「旦那様、囲まれたようじゃ」


 タウンゼント公国城から馬車に乗って一度拠点に帰ろうと、転送ゲートを設置済みの森に行く途中で得体の知れない者たちに遭遇した。カズヒコ国王は公国城の転送ゲートですでにオオサカ城に帰っている。


「ロラーナ、中に入れ」

「はい」


 御者台からロラーナがキャビンに入ると、優弥は扉から外に出た。当然馬車には馬ごと敵対結界を張る。


「何者だ!?」

「我々についてこい。大人しく従えば手荒な真似はしない」


「俺は何者かと聞いたんだ。答えろ!」

「その義理はない」

「つまりは敵ということだな?」


 ざっと数えたところで黒装束をまとった者が八人。全員頭に忍者のような頭巾を巻いているため顔は分からない。


「くっ! 何故だ!?」


 優弥の背後、馬車の向こう側で声が聞こえた。馬車を襲おうとして結界に弾かれたようだ。


「俺が無策でのこのこ出てくると思ったのか?」

「貴様、何者!?」

「それはこっちが先に聞いた。答えろ!」


「いいだろう、答えてやる。どの道お前たちは二度と帰ることは出来ないのだからな!」

「御託はいい。さっさと答えろ!」


「我らダリモア帝国密偵衆、(ゆう)(なぎ)

「帝国の密偵か」


「さあこちらは答えてやった。貴様は何者だ?」

「答える義理はないね」

「ユウヤ様!」

「ロレンシア!?」


 そこに両脇をやはり黒装束を纏った二人に押さえられた聖女が現れた。彼女の喉元には()(ない)が突きつけられている。


「城にいたんじゃないのか?」

「それが……」


「我らにかかれば公国城の守りなどないも同然。この女の命が惜しくば何者か答えろ!」

「なるほど。だが俺は脅しに屈するのが何よりも嫌いなんでな。ロレンシア、鼓膜が破れても後でティベリアに治癒させるから許せよ」


 両脇を押さえられているロレンシアは自分で耳を塞ぐことが出来ない。その彼女が小さく肯いた直後、追尾投擲の爆音が二回辺りに響き渡った。拘束を解かれたロレンシアが優弥の許に駆け寄ってくる。八人の男たちは目の前で仲間二人の頭が吹き飛んだことに驚き呆然としていた。


「ロレンシア、耳は平気か?」

「はい。自分で治しました」


 平気ではなかったらしい。


「あの八人も()るから馬車に乗ってろ」

「分かりました」

「旦那様よ、一人か二人は生け捕りにして情報を聞き出した方がよいのではないか?」


 聖女が馬車の扉を開けたところでティベリアがひょいと顔を出す。


「アイツらが素直に喋ると思うか?」

「それなら心配いりません。あそこに喋ってくれる方がいらっしゃいますので」


 ロレンシアは満面の笑みを浮かべて、たった今優弥に頭を吹き飛ばされた二つの死体を指さした。ただし彼女は夕凪に覚られないようにこっそりとウインクしている。一瞬おかしいと思った優弥だったが、お陰で聖女の意図に気づくことが出来た。


「蘇生か!」


「はい。一度死を経験した者は生き返っても多くが自我を失っております。ですからむやみにこの力を使うことはないのですが、今回はお役に立てそうです」

「お主、見かけによらず残酷な聖女じゃな」


「これまで死体はいくつも見てきましたし、この世界に転生して無用な情け容赦は自分の身を滅ぼすと学びましたから」


「何をぶつくさ喋っている!」

「さ、二人とも早く馬車の中へ」


「奇怪な魔法を使うヤツめ! だが狙いを外せばどうということはない!」

「我らはまだ八人だ! 畳みかけるぞ!」

「陛下のご命令は生かして捕らえよとのことだが、手足の一本二本がなくとも問題ない」


「ん? ちょっと待て。俺たちを殺しに来たのではないのか?」

「殺すつもりならわざわざ姿を見せる必要などないだろう」


「なるほど、そういうことか。ロレンシアを殺すと言ったから二人を殺したが、最初からそう言ってたなら手足の一本程度で済ませてやったのに。分かった、捕まってやるよ」


 頭巾に隠れて分かりにくかったが、夕凪の面々はほくそ笑んでいるように見えた。


「ならばその二人を蘇生してもらおう。死の経験で自我を失うほど我らはヤワではないからな」

「あー、残念だがそれは不可能だ」

「何だと!?」


「生き返っても正気じゃないと言ったのは、お前たち死にたくないと思わせるためのウソだったんだよ。他にもあるようだが、蘇生の条件は致命傷を負ってないことなんだ」

「ではその二人は……」


「頭吹き飛ばしたからな。首から上がないのに生き返るわけがないだろ」

「お、おのれ……!! コイツを縛り上げろ!」


「大人しくついていってはやるが拘束は一切認めん。俺たちはこの馬車で移動するから案内だけしろ」

「ふざけるな!」


「何なら一人か二人残して後は同じように頭を吹き飛ばしてやってもいいんだぞ」


「コイツを陛下の許に連れていくのは危険ではないか?」

「しかし陛下のご命令は……」

「仲間が二人もやられているんだ。連れていけば陛下の玉体が危険に晒される。聖女が手に入ればこの者を始末したとしても許されるだろう」


 話を聞いていた優弥がやれやれと呆れた雰囲気を出して言う。


「あれ、ついていってやるって言ったのに戦うつもりなのか?」

「奇怪な魔法を使う貴様さえ倒せば陛下に危険が及ぶこともあるまい。()れ!」


 次の瞬間に爆音が七回轟いた。一人残ったのは先ほどから指示を出していた密偵衆の長と思われる男だ。数人の者は横っ飛びに投擲から逃れようとしたが、軌道を変えた石礫に首から上を吹き飛ばされていた。


「なっ!? 曲がった!?」

「俺の投擲は目標を追尾するんだ。視界に入っていることが条件だが、見えていれば外すことはないのさ」

「小癪な!」


「さて、お前には聞きたいことがある。皇帝は俺たちを生け捕りにしてどうするつもりだったんだ?」

「ふん! 教えるわけがないだろう!」

「そうか」


 パーンという何かが破裂するような音と共に、男の左足の膝から下がなくなっていた。バランスを崩した男がそのまま倒れる。


「ぐっ!」

「ロレンシア、悪いがあれ、治してくれるか?」

「はい」


 彼女が聞き取れないほどの声で呪文を唱えると失われた男の左足が元に戻り、彼は力なく立ち上がった。


「もう一度聞くぞ。皇帝の目的はなんだ?」

「うるさい!」


 再びの轟音。今度は右足の膝から下が消える。


「ぐわっ!」

「ロレンシア、頼む」

「はい」


 そんなことが三回ほど繰り返され、さすがに顔の見える部分からだけだったが血の気が引いているのが分かった。傷は癒えても流れ出た血は元に戻らないのである。


「痛みには慣れたか? だがそろそろ喋らないと出血多量で命を落とすぞ」

「くっ! 任を全う出来なかったことで我らの命はないも同然。さっさと殺せ!」


 二回の轟音。男の両腕が吹き飛ばされ、ロレンシアがそれを治す。


「何度やっても無駄だ! 偉大なる皇帝陛下、我が祖国ダリモア帝国に栄光あれ!」


 両手を高く掲げた男は、しばらくすると仰向けに倒れた。


「舌を噛んだか。ロレンシア、蘇生は?」


「巻き戻った舌が喉に詰まっている状態です。蘇生しても苦しむだけですし、舌を噛み切っているのでまともに喋れるとは思えません」

「仕方ないな。せっかく楽に帝国に入れると思ったんだが」


 思惑が外れた優弥はタウンゼント公国城に戻り、大公にロレンシアが誘拐されたことを伝えた。大公は非常に驚いて慌てていたので、安全のためにこのまま秘密裏に聖女をエンニチ王国の拠点に連れていくとして了承を得る。


 そして優弥たちは再び森に行き、設置した転送ゲートから拠点に飛ぶのだった。

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