第三話 面接(前編)
「というわけなんだけど」
「私も心配してたのよ」
「そんな、私のためにそこまでして頂くわけには……」
優弥はソフィアとポーラに警備員の雇用を考えていると伝えた。すでにシモンには詰め所として、三畳ほどの小屋を建てる許可を取ってある。
「ソフィア、これは俺の精神安定のためでもあるんだ。だから気にしなくていいよ」
「でも、知らない男性は怖いです」
「ふむ、そりゃそうだな。ポーラ、女性の警備員っているのか?」
「それ専門の人がいるというのは聞かないけど、女性にはあんまりいい仕事がないから魔物討伐に参加してる人ならいるわ。でも成果は上がってないわね」
「だろうな」
「勘違いさせたかしら。弱いからじゃなくて獲物がいないからなの」
「と言うと?」
「女性だとなかなか長期の遠征には行けないでしょ。だから近場で魔物を探すしかないんだけど、さすがに王都周辺には強い魔物はいないのよ」
そんなのがいたら王国が対処するので当然である。
「傭兵も男性が余ってるくらいだから、女性には仕事が回ってこないし」
「てことは人材はいるってことだな。ソフィアは女性なら大丈夫か?」
「はい、女の人なら怖くはありません」
「ポーラ、求人頼めるかな?」
「いいわよ。条件は?」
基本的に勤務は優弥がいない平日の日中で週末は休み。ソフィアがロレール亭に仕事に行く時と、街に買い物に行く時の護衛を任務に含み、それ以外は詰め所で警戒してもらう。
「二人雇いたいな」
「給金は?」
「相場ってどれくらいなんだ?」
「そうね、あんまり危険もないだろうし、時間も長くないから週に小金貨三枚くらいで十分じゃないかしら」
週五日間の勤務なら日当にすると日本円でおよそ六千円である。
「ずい分と安いんだな」
「女としての仕事を求められないなら妥当だと思うわよ……求めないわよね?」
「当たり前だろ」
ソフィアは顔を赤くしているが、ポーラ曰くこの世界で女性を雇う場合は明確にすべきことなのだそうだ。
「じゃ、それで出しておくわね」
「ああ、頼む」
ところがこれが大反響だった。ポーラが応募がないと困るからと、求人票に護衛対象が『鉱山ロードの住まい』という情報を付け加えていたからである。
この求人は瞬く間に王都中に広まり、倍率はなんと五十倍を超えてしまった。それでもまだまだ増えそうだったため、募集はわずか一日で打ち切りざるを得なかったのである。
ただ、一週間かけて百人以上の面接を熟したにも拘わらず、一人として合格者が出なかった。
「基準が厳しすぎたかしら」
「でも職業紹介所の傭兵試験だろ。女性だからって最低限はクリアしてもらわないとな」
「ユウヤと繋がりを持ちたいだけの貴族令嬢がいたのにも驚いたわ。不合格を伝えても給金なしでいいから雇ってほしいとか、あと女装した男もいたのよ。正直ドン引きだったわよ」
「どんだけ仕事求めてんだ。てか、もしかして俺って人気者?」
「ユウヤさん!」
「はい、ごめんなさい」
鉱山ロードの肩書きは、彼が思っている以上に貴族や商人たちの独占欲を掻き立てるらしい。これまでもちょくちょくそういった者たちの遣いが訪ねてきていたし、仕事中にグルール鉱山にまでやってくる者もいたほどである。
他の鉱夫たちは羨ましがっていたが、彼には煩わしさ以外なにもなかった。
「ポーラ、悪いけど先に傭兵試験を受けさせて、合格した人だけ面接するってわけにはいかないかな」
「手数料が増えるけど不可能ではないわよ」
「なら頼む。それと貴族令嬢はなしで。俺とソフィアは貴族の扱いなんて分からんから」
これにはソフィアも激しく同意していた。
「また明日から募集再開するわね」
そうしてさらに一週間ほどの後、傭兵試験に合格した女性たちを面接する日がやってきた。その数わずか四名。
一方は魔物討伐でなんとか生計を立てている二人組で、他方はキャベンディッシュという剣術道場の師範の娘たちで姉妹とのこと。姉妹は剣術の有段者でもあるそうだ。
職業紹介所の応接室で、まずは魔物討伐の二人組から面接が始まった。
一人はシンディーという名のスラリとした長身の美人で、主に剣を武器にしているため王都内での帯剣許可も持っているそうだ。この許可がない者は騎士団や警備隊員以外、王都内での帯剣は許されていない。
そもそも騎士団や警備隊に所属する者は、帯剣許可を持っているのが当然だった。
もう一人は小柄のポニーテールでニコラと名乗った。火と水の属性魔法が使えるという。彼女も単に念のためだそうだが帯剣許可を取っていた。
相対するのは優弥と、実際に多くの時間を共にするソフィアである。
「二人が討伐した中で、一番強かった魔物は何ですか?」
面接なので、優弥は敬語を使っている。
「サーベルウルフですね。あれは火魔法さえ命中すれば動きが鈍くなりますから」
「なるほど」
「あとは珍しいところですと一角鹿でしょうか。希少種なので出会えたのは幸運でした」
「強い魔物なんですか?」
「角で急所を突かれれば命の危険はありますけど、強くはありません」
「それよりも希少種で、お肉が絶品なんです」
「それはぜひ食べてみたい。依頼を出せば捕まえられますか?」
「残念ながら王都周辺にはいないと思います」
「ああ、希少種って言われましたもんね」
「すみません」
「いえいえ、話が逸れて申し訳ない。ところで傭兵試験ではかなりいい成績だったと聞きました」
「一度受けたことがありますので、コツが分かっていただけです」
「なるほど。ソフィアはなにか聞きたいことはある?」
「あの、採用になったら一緒にお茶して下さいますか?」
「「え?」」
この質問に、二人は一瞬キョトンとしていたが、すぐに微笑みながらもちろんです、と答えた。
彼女たちはどう見てもソフィアより年上だが、それほど離れているようにも思えない。お茶の友達としても付き合ってくれるなら嬉しい限りだ。
「逆にお二人は聞きたいことはありますか?」
「あの、こんなことをお聞きしてもいいのか分からないのですが……」
「うん? 疑問は解消しておいた方がいいですよ」
「お宅の敷地内に詰め所を建てるのですよね?」
「はい、三畳ほどの予定ですが雨露を凌ぐのには十分だと思ってます」
「そ、そこに住ませていただくことは出来ませんでしょうか」
「は?」
「い、いえ、ダメならいいんです。ただ、生活費が心許なくて、お給金を頂いても宿代に消えてしまいますし……」
「仮眠程度なら可能だと思いますけど、本当に何もない小屋ですよ」
「「構いません! あ……」」
二人でハモって気まずそうな表情で顔を見合わせている。これがこの世界の現実で、今まで何度も野宿を経験したそうだ。それに比べれば、雨風が凌げるだけでも十分ということだろう。
「分かりました。考えておきます」
「あ、あの! 本当に無理なら無理で構いませんので! ぜひ私たちを雇って下さい。お願いします!」
「結果は明日お知らせしますので、改めて紹介所に来て下さい」
「「分かりました……」」
面接の終わりを告げると、二人はどことなく肩を落として出ていった。必死すぎだったと落ち込んだのかも知れない。
「ソフィアはどう思った?」
「悪い人たちではなかったと思いました」
「そうだね。じゃ次の二人を呼んでもらおうか」
それから間もなく、剣術道場の師範の娘たちが部屋に入ってきた。




