第36話 ダンジョンでの立ち回り(超初級)
三ノ婀の放った火球がビッグアントの頭部に命中し、一撃で跡形もなく消し飛ばした。
「あれ? 一発で終わった?」
派手な爆発によって他のビッグアントが一斉にこちらを向く。
「く、来るぞ!」
「良いからさっさと槍を並べて迎え撃って」
彼女は押さえるだけで良いからねーと軽く呟く。
前衛が槍や盾を構えて突っ込んで来た巨大な蟻にぶつかる。
前衛達は押さえながらもなんとか抑え込めていた。
「ぐお、重い……」「押さえろ。 突破させるな!」
「い、今の内だ! 早く撃て! 急げ!」
その間に後衛職がありったけの攻撃魔法をばら撒く。
火球や氷の槍が次々と飛んでいき蟻へと命中するが、火球は数発。
氷の槍は関節などの脆い部分に死か刺さらない。 固い。
だが、三ノ婀の魔法だけは一撃でビッグアントの頭を吹き飛ばしていた。
遠くで見ているだけしかできない三上だからこそ分かった事だが、明らかに威力が違うのだ。
何かしらの工夫があるのか? そんな疑問を抱いたが、ステータスの存在を思い出して納得する。
恐らく彼女のレベルも高いのだろう。
波食といい、こんな短期間で何をやればここまでのレベルを上げる事が出来たのだろうか?
モンスターを一切恐れない態度といい、彼女達は一体、何者なんだ?
そんな疑問だけが脳裏に渦巻いていた。
――ビッグアントを一発でやれるならジャイアントアントも何とかなるか?
私は蟻の数を減らしながら入る経験値とドロップアイテムを確認しながらぼんやりと考える。
後ろからは来る気配はない。 今の所は前だけに警戒しておけばいいけど、派手に騒ぐと何が寄って来るか分かった物じゃないからさっさと片付けたいのよね。
それにしても想定よりもレベルが低い。
浅い層の雑魚を相手にする分には及第点だけど、二つも降りるとすぐに死ぬ程度ね。
レベル換算だと高くても10ちょっとぐらいかしら? 少なくとも後衛の平均はそんな物でしょ。
根拠は魔法の威力。 私とのダメージ差を考えればまぁ、それぐらいかなって思うわ。
火球で5発から6発。 氷の槍だからアイスランスかな。 このレベルで取れるって事は氷特化の特殊ジョブ持ちが居るわね。 こっちは相性が悪いのか碌に効いていない。
関節部分に当たればそこそこのダメージにはなってたけど動いている的に対して狙った場所に正確に当てるのはちょっとしんどいわね。
虫系のモンスターに関しては攻撃範囲の広い火球の方がダメージソースとしては使える感じかな。
前衛に関しては押さえていられている時点で問題ないけど、徐々に押し込まれているからパワー負けしているのは明らかだ。 こいつ等に押し込まれる程度なら上位種のジャイアントアント相手は無理ね。
蟻は突っ込んで来るだけだから比較的、処理は楽だけど普通に賢い立ち回りをしてくるカマキリ相手だと高い確率で殺される。
三上の口振りから特定のモンスターからドロップする素材が目当てって事みたいだし、満足するまでこのフロアで素材集めをさせればいいわ。
ただ、下層に関してはもうちょっとレベルを上げてからじゃないと厳しいかなー?
自前の工業機械を有効活用する為にモンスターのドロップアイテムを欲しがっているのは分かるけど、随分と焦ってるなぁ。 何かあったのかしら?
ラインナップから作りたいのは武器防具かな? 蟻系は防具、カマキリ系の素材は武器に使える。
明らかに装備を整えたいと言った狙いが透けて見えるわ。
……なーんか、別の問題を抱えてそうね。 変なのに絡まれて粘着されてるとか?
治安は確実に悪化しているけど、何処までも好き勝手出来るようにはなっていない。
警察機関も徐々に機能を取り戻している事だし、しばらく我慢すればそこまで警戒しなくても良いようにはなるはずなんだけど――まぁ、自衛する為の力は必要か。
ビッグアントの処理は比較的ではあるけど簡単だ。
基本的に突進攻撃しかしてこないから受け止められる前衛が居るなら抑えて遠距離攻撃持ちが止まった所を滅多打ちにすればいい。
数が増えれば厄介だけどポイントは部屋の中に入らずに狭い通路で迎え撃つ形にする事ね。
そうすれば多くても五体ぐらいしか接触しなくて済む。
デカいとはいえ蟻なのでスクラムを組んで突っ込む知能はないから最初の一列を止められたら何とかなるわ。
――まぁ、こいつ等は蟻の中でも最弱だからだけど、下に行けば行くほどヤバいのが出て来るからここで変に自信を付けると碌な事にならないのよね。
「や、やれる! やれるじゃないか!」「いける! いけるぞ!」
ほら出た。 無傷での勝利にそんな事を言いだす奴はとにかく多い。
この調子でテンションを上げられても困るので私はパンパンと手を叩く。
「はい、ドロップ品とダメージやらの確認しながら少し休んで次に行きますよー」
水を差すなよといった表情を浮かべる奴も結構いたけどそれぐらいでちょうどいいのよ。
私としては後ろから刺されない程度に成果を出してればいいからね。
変に懐かれても困るし、距離感はほどほどに。
全員にHP、MPの残りを申告させた後、部屋の中を確認。
モンスターのいる部屋は一定確率で宝箱や何かのアイテムが落ちている可能性がある。
これに関しては最初に拾った奴が所有権を獲得するので、確認は早めにしておかないと揉める元だ。
ちなみにこの部屋には何にもなかった。 しけてやがるぜ。
大通りに戻って次の部屋へと向かう。 このフロアに関しては構造が単純だけあって罠にさえ引っかからなければ戦い方のパターンは通路まで誘いこんで迎撃だけで問題ない。
蟻もカマキリもカブトムシも全部狭い通路に誘い込んで挙動を制限して叩き潰す。
ね? 簡単でしょ? ただ、通用するのってこのフロアだけなのよね。 悲しいなぁ。
そんな事を考えている間に次の部屋。 今度はカマキリ――3mぐらいのでっかい奴。
スラッシュマンティスだ。 腕の鎌による一撃にさえ気を付ければ何とかなるわ。
対処は通路に誘い込んだ後、壁を背にして戦えばいい。
基本的にもこいつ等も馬鹿だからとにかく間合いを詰めて斬りかかる事しかしない。
壁際でもおんなじことやるもんだから壁を背負うと鎌が壁に当たって届かなくなる。
代わりに近いから後衛は手を出し辛くなるけど引っかかった所を槍やら剣やらの刺突ができる武器で突っつき回せば楽に仕留められるわ。




